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【新婚旅行編】七日目:薄々は分かっていたアトラクションのテーマ
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結局、俺はバアルさんの胸元に顔を寄せたままだった。脅かしパートという名のアトラクションパートが終わるまで、しっかりと抱きついてしまっていた。
寂しそうで悲しそうな音楽が止んだ時、それぞれの座席を覆い隠すように蠢いていた影が、波が引くように中央へと引き寄せられていく。小さな黒いモヤへと戻っていくその光景は、巻き戻しの映像を見ているようだった。
そして、突然目の前が白に染まった。いや、真っ白な炎に燃やされていた。眩いのに優しいその炎は、俺達を包み込むように照らしていく。まるで、爽やかな朝の日差しを浴びているような。自然と元気になれる熱を感じた。
炎の輝きによって周囲が見えるようになっていく。やはり、他の座席もそれぞれの組ごとに分かれて浮かんでいるようだった。皆さん、神様の浄化の炎にそっくりな輝きに見惚れている。
少し明るくなったホール内に、また落ち着いた語りが聞こえ始めた。
「いくつもの外の世界にて生まれてしまう悪夢。それらを集めては、我らが神が残してくれた夢の灯火の力を借りながら、ヨミーン様とサターン様、そしてバアルーン様は悪夢を浄化しておりました」
流れ始めた曲調も穏やかな雰囲気で、語りを邪魔していない。
悪夢が穢れ、夢の灯火が浄化の炎ってとこだろうか。薄々は分かってはいた。でも、今のお話で確信した。このアトラクションのテーマは。
「恐らく此方のアトラクションは、あの日を元にして作られているのでしょうね」
優しく微笑む横顔が眩しい。柔らかな白に照らされて彼の輪郭が、透き通った羽が淡く輝いて見える。
もはや遠い日のことのような。今この時も鮮やかに思い出されるあの日の出来事を懐かしむように白い輝きを眺めていた眼差しが、俺を見つめてゆるりと細められた。
「あの日……アオイが、我らが神がヨミ様を救って下さったばかりか、この世界に真の平和をもたらして下さった奇跡を」
「た、確かに奇跡でしたけど、ちょっと……いや、大分違いますよっ、あれは……」
咄嗟に俺は手を重ねていた。ひと回り大きな手を、その長く細い指を掴むように握り締めていた。
「バアルと、皆とで手にしたものでしょう?」
「……左様でございましたね」
「そうですよっ、誰か一人でも欠けていたらムリだったんですから」
「ええ……」
擽ったそうに目尻を下げたバアルさんが、手を握り返してくれる。指横に擦り寄ってくれるように柔らかな指が絡んできたかと思えば、繋いでもらえていた。しっかりと、俺を離さないでいてくれるように。
神様に、神様が残してくれた木に似た神秘的な白。この国に生きる全ての人々を明るく照らし、慈しんでいるような光をバアルと肩を寄せ合い眺める。
ほんの少し前の影の手によるアトラクションを楽しんでいたざわめきなんてウソのよう。満天の星空や雨上がりの空にかかった虹を眺めているかのように息を呑んでいた。
ホール内に居る誰もが、ただただ一つの煌めきを楽しんでいた頃、見計らっていたかのように語りが再開された。
「温かく、眩い夢へと変えておりました。私達も、そのお手伝いをさせて頂いておりました」
寝室で幼い子供に読み聞かせをしているように落ち着いた、ゆったりとした声色だった。
「忙しくも充実した日々。皆様との変わりのない毎日がこのまま続いていくのだと、私は何の疑いもなく思っておりました。ですが……」
続きが気になるようなところで、勿体ぶるように言葉が切られる。それと同時に俺達を優しく包みこんでいた白が、静かな空気に溶けるように消えていく。薄闇が、再び俺達の視界を覆い尽くした。
寂しそうで悲しそうな音楽が止んだ時、それぞれの座席を覆い隠すように蠢いていた影が、波が引くように中央へと引き寄せられていく。小さな黒いモヤへと戻っていくその光景は、巻き戻しの映像を見ているようだった。
そして、突然目の前が白に染まった。いや、真っ白な炎に燃やされていた。眩いのに優しいその炎は、俺達を包み込むように照らしていく。まるで、爽やかな朝の日差しを浴びているような。自然と元気になれる熱を感じた。
炎の輝きによって周囲が見えるようになっていく。やはり、他の座席もそれぞれの組ごとに分かれて浮かんでいるようだった。皆さん、神様の浄化の炎にそっくりな輝きに見惚れている。
少し明るくなったホール内に、また落ち着いた語りが聞こえ始めた。
「いくつもの外の世界にて生まれてしまう悪夢。それらを集めては、我らが神が残してくれた夢の灯火の力を借りながら、ヨミーン様とサターン様、そしてバアルーン様は悪夢を浄化しておりました」
流れ始めた曲調も穏やかな雰囲気で、語りを邪魔していない。
悪夢が穢れ、夢の灯火が浄化の炎ってとこだろうか。薄々は分かってはいた。でも、今のお話で確信した。このアトラクションのテーマは。
「恐らく此方のアトラクションは、あの日を元にして作られているのでしょうね」
優しく微笑む横顔が眩しい。柔らかな白に照らされて彼の輪郭が、透き通った羽が淡く輝いて見える。
もはや遠い日のことのような。今この時も鮮やかに思い出されるあの日の出来事を懐かしむように白い輝きを眺めていた眼差しが、俺を見つめてゆるりと細められた。
「あの日……アオイが、我らが神がヨミ様を救って下さったばかりか、この世界に真の平和をもたらして下さった奇跡を」
「た、確かに奇跡でしたけど、ちょっと……いや、大分違いますよっ、あれは……」
咄嗟に俺は手を重ねていた。ひと回り大きな手を、その長く細い指を掴むように握り締めていた。
「バアルと、皆とで手にしたものでしょう?」
「……左様でございましたね」
「そうですよっ、誰か一人でも欠けていたらムリだったんですから」
「ええ……」
擽ったそうに目尻を下げたバアルさんが、手を握り返してくれる。指横に擦り寄ってくれるように柔らかな指が絡んできたかと思えば、繋いでもらえていた。しっかりと、俺を離さないでいてくれるように。
神様に、神様が残してくれた木に似た神秘的な白。この国に生きる全ての人々を明るく照らし、慈しんでいるような光をバアルと肩を寄せ合い眺める。
ほんの少し前の影の手によるアトラクションを楽しんでいたざわめきなんてウソのよう。満天の星空や雨上がりの空にかかった虹を眺めているかのように息を呑んでいた。
ホール内に居る誰もが、ただただ一つの煌めきを楽しんでいた頃、見計らっていたかのように語りが再開された。
「温かく、眩い夢へと変えておりました。私達も、そのお手伝いをさせて頂いておりました」
寝室で幼い子供に読み聞かせをしているように落ち着いた、ゆったりとした声色だった。
「忙しくも充実した日々。皆様との変わりのない毎日がこのまま続いていくのだと、私は何の疑いもなく思っておりました。ですが……」
続きが気になるようなところで、勿体ぶるように言葉が切られる。それと同時に俺達を優しく包みこんでいた白が、静かな空気に溶けるように消えていく。薄闇が、再び俺達の視界を覆い尽くした。
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