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【新婚旅行編】七日目:好物なだけあって効果抜群
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「あ……」
違う。勘違いなんかじゃ。俺を覆い隠そうとしている。鍛え抜かれた長身だけじゃない。大きく広がった彼の羽が、淡い光を帯びた四枚が今にも包み込もうとしている。
だというのに、周りの買い物客は誰一人としてこちらを見てはいない。どうかしたんだろうかと、疑問を持ったような眼差しすら向けてはこない。
……また認識阻害のスゴいヤツか。いくらバアルが優秀だからって、そんなにぽんぽんと使ってもいい術なのかな?
そりゃあ、嬉しいに決まっている。どんな時でもバアルとくっついていられたら。その長くて男らしい腕に、ぎゅっと抱き締めてもらえたら。でも、だからといって。
手にしていたぬいぐるみを、大きな手からそっと取られた。厄介払いでもするようにバアルーン様とアオニャンを、買い物かごへと優しく詰め込んだ。
俺だけを見つめてくれている緑の瞳に妖しい光が宿っている。周囲がボヤけそうになりかけていたところで、俺は打開策を見つけた。
「あ、あっち! ほら、あっち見てバアルっ、バアルーン様のお気に入りのワインだって!」
好物なだけあって効果抜群。俺を抱き締めようとしていた羽が、ふっと元のサイズまで縮んだ途端に戻ってきた。遠退きかけていた周囲の楽しげなざわめきが、俺達以外の気配が。
このチャンスを逃してはならない。俺は、俺を抱き締めてくれようとしていた手を取ってから、すぐ真横へと、いかにも上品そうなワインボトルが飾られた棚の方へと、彼をエスコートする。
意外にも、バアルさんは大人しくついてきてくれた。そっと窺ってみたシャープな横顔には不満の色は見えない。胸の奥をきゅっと鷲掴みにされてしまいそうな妖しい色っぽさも。穏やかなだけの微笑みに戻っている。
ホッと肩の力は緩んだものの、残念な気持ちがちょっぴり。自分から彼を引っ張っておいてなんだけど。
気を取り直して俺は、ワインボトルへと視線を戻した。当たり前だが、飾られているボトルはキッチリと栓がされている。けれども、近づけば気品のあるぶどうの香りが俺達を迎えてくれた。目につかないように、そういう香りのする置物でも飾られていたりするんだろうか。
「いい匂いですね」
「ええ」
念の為にと尋ねてみれば、バアルさんも目を細めて頷いた。金属のような光沢を帯びた触角も、ご機嫌そうに揺れている。どうやら、ぶどうの香りがしているのは俺の勘違いではなかったらしい。
バアルーン様のお気に入り、そう分かりやすく商品棚の上には淡く輝く文字が浮かび上がっているものの、種類は一つではないみたい。並べられた四本のワインボトルには、それぞれのワインの説明が書かれているようだった。
こちらの文字で小さく書かれている内容は、俺が全部を読むにはまだ時間を要しそう。とはいえ、ワインの説明なのだ。多分、味とか香りとかの違いが分かりやすく書かれているんだろう。
そう判断して、一行目すら挑むことなく早々に読むのを諦めてしまった俺が目を惹かれたのはラベルのデザインだった。ワインの名前らしき文字と一緒に描かれているのは、俺達が今居るお城。いくつもの塔を組み合わせたような青い石造りのお城のシルエットが、青のグラデーションで描かれている。
違う。勘違いなんかじゃ。俺を覆い隠そうとしている。鍛え抜かれた長身だけじゃない。大きく広がった彼の羽が、淡い光を帯びた四枚が今にも包み込もうとしている。
だというのに、周りの買い物客は誰一人としてこちらを見てはいない。どうかしたんだろうかと、疑問を持ったような眼差しすら向けてはこない。
……また認識阻害のスゴいヤツか。いくらバアルが優秀だからって、そんなにぽんぽんと使ってもいい術なのかな?
そりゃあ、嬉しいに決まっている。どんな時でもバアルとくっついていられたら。その長くて男らしい腕に、ぎゅっと抱き締めてもらえたら。でも、だからといって。
手にしていたぬいぐるみを、大きな手からそっと取られた。厄介払いでもするようにバアルーン様とアオニャンを、買い物かごへと優しく詰め込んだ。
俺だけを見つめてくれている緑の瞳に妖しい光が宿っている。周囲がボヤけそうになりかけていたところで、俺は打開策を見つけた。
「あ、あっち! ほら、あっち見てバアルっ、バアルーン様のお気に入りのワインだって!」
好物なだけあって効果抜群。俺を抱き締めようとしていた羽が、ふっと元のサイズまで縮んだ途端に戻ってきた。遠退きかけていた周囲の楽しげなざわめきが、俺達以外の気配が。
このチャンスを逃してはならない。俺は、俺を抱き締めてくれようとしていた手を取ってから、すぐ真横へと、いかにも上品そうなワインボトルが飾られた棚の方へと、彼をエスコートする。
意外にも、バアルさんは大人しくついてきてくれた。そっと窺ってみたシャープな横顔には不満の色は見えない。胸の奥をきゅっと鷲掴みにされてしまいそうな妖しい色っぽさも。穏やかなだけの微笑みに戻っている。
ホッと肩の力は緩んだものの、残念な気持ちがちょっぴり。自分から彼を引っ張っておいてなんだけど。
気を取り直して俺は、ワインボトルへと視線を戻した。当たり前だが、飾られているボトルはキッチリと栓がされている。けれども、近づけば気品のあるぶどうの香りが俺達を迎えてくれた。目につかないように、そういう香りのする置物でも飾られていたりするんだろうか。
「いい匂いですね」
「ええ」
念の為にと尋ねてみれば、バアルさんも目を細めて頷いた。金属のような光沢を帯びた触角も、ご機嫌そうに揺れている。どうやら、ぶどうの香りがしているのは俺の勘違いではなかったらしい。
バアルーン様のお気に入り、そう分かりやすく商品棚の上には淡く輝く文字が浮かび上がっているものの、種類は一つではないみたい。並べられた四本のワインボトルには、それぞれのワインの説明が書かれているようだった。
こちらの文字で小さく書かれている内容は、俺が全部を読むにはまだ時間を要しそう。とはいえ、ワインの説明なのだ。多分、味とか香りとかの違いが分かりやすく書かれているんだろう。
そう判断して、一行目すら挑むことなく早々に読むのを諦めてしまった俺が目を惹かれたのはラベルのデザインだった。ワインの名前らしき文字と一緒に描かれているのは、俺達が今居るお城。いくつもの塔を組み合わせたような青い石造りのお城のシルエットが、青のグラデーションで描かれている。
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