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【新婚旅行編】七日目:目が合ったから、ビビッときたから
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「では、どうぞ」
「へ?」
「大したことではないのでしょう? でしたら、さらっと、この老骨めに話して下さっても宜しいのでは?」
微笑む眼差しには、陽だまりのような柔らかさしか感じない。だというのに、俺の胸の内は何やら鋭いものにでも、さくっと刺されてしまったような心地を覚えていた。
「う……っ」
いや、まぁ、そうだよね。大したことないんだったら、勿体ぶらずにさっさと話しちゃえよって感じだよね。うん。
「……笑わないでね?」
ゆるりと持ち上がった口角と一緒に、整えられた白いお髭も楽しそうに持ち上がる。
「ええ、貴方様のお望みのままに」
服越しでも頼もしい胸板に手を当てて上品な会釈を披露してくれてから、バアルさんはそのスタイルのいい長身を更に俺へと寄せてきてくれた。
「いや、さ……あんまり悩まなかったなぁって……サターン様とヨミーン様のぬいぐるみを選ぶ時は、バアル、結構悩んでたでしょ? でも、アオニャンの時は即決って感じだったからさ」
「ふむ、それで?」
「え?」
「そのお時間の差に貴方様が妬いて頂けた、という認識で宜しいでしょうか?」
何やらストンと腑に落ちた気がした途端、顔が一気に熱を持った。気恥ずかしさがこみ上げてきた。
「あっ、ちがっ……いや、違わなくはない、けどさ……」
そっかぁ……俺、妬いちゃってたんだ。
寂しいというか、何でか納得がいかないというか。自分でも分かっていなかったモヤモヤの正体。それは、確かに指摘された通りだった。
俺は、子供じみた嫉妬心を抱いてしまっていたのだ。アオニャンの時はもっと悩んでくれるんだろうなって、勝手に期待して勝手にショックを受けていたのだ。
アオニャンは俺とは違うって、このテーマパークのキャラクターなんだって、ずっと思っていたクセにさ。
思わず俯いた俺の頭を大きな手が撫でてくれている。バアルさんはご満悦そうだ。ぶんぶん、ぱたぱたと、彼の触角と羽が奏でている賑やかな音が聞こえているんだからな。
「此方のコーナーへ訪れた時、目が合いましたので」
「え……」
ふと呟いた声に顔を上げれば、バアルさんは目尻のシワをゆるりと深めた。さっき選んだアオニャンのぬいぐるみを差し出してくる。
丸いオレンジの瞳。ビーズなのか、それとも魔宝石を加工したものか。店内の明るい照明を受けて煌めく瞳と、俺も目が合った気がした。
「それからというもの、アオイがぬいぐるみを選んでいる間も気になってしまい……他のお客様の目に止まってはしまわないかと、年甲斐もなくそわそわとしておりまして」
「そっか……バアルもお揃いだったんだね」
「お揃い、とは?」
「俺もね、ビビッときたんだ」
再び手にしているバアルーン様ぬいぐるみを掲げれば、バアルさんは納得したように頷いた。
「衣装の方は、どれにしようかなってスッゴく悩んじゃったんだけど、ウェディングバージョンにしようって思ってからは、すぐだったんだ。このバアルーン様と目が合ったから」
「左様でございましたか……」
「うんっ」
バアルさんの透明感のある白い頬が、ほんのりと桜色に染まっていく。口元を綻ばせた彼に釣られて、俺も笑っていた。
顔がぽかぽかと熱くなってきて、胸の辺りがこそばゆい。でも、嬉しい。
お互いにぬいぐるみを見せあったまま微笑み合っていると、ふと気づく。何だかハーブの匂いが濃くなったような。彼との距離が、また近くなれているような。
「へ?」
「大したことではないのでしょう? でしたら、さらっと、この老骨めに話して下さっても宜しいのでは?」
微笑む眼差しには、陽だまりのような柔らかさしか感じない。だというのに、俺の胸の内は何やら鋭いものにでも、さくっと刺されてしまったような心地を覚えていた。
「う……っ」
いや、まぁ、そうだよね。大したことないんだったら、勿体ぶらずにさっさと話しちゃえよって感じだよね。うん。
「……笑わないでね?」
ゆるりと持ち上がった口角と一緒に、整えられた白いお髭も楽しそうに持ち上がる。
「ええ、貴方様のお望みのままに」
服越しでも頼もしい胸板に手を当てて上品な会釈を披露してくれてから、バアルさんはそのスタイルのいい長身を更に俺へと寄せてきてくれた。
「いや、さ……あんまり悩まなかったなぁって……サターン様とヨミーン様のぬいぐるみを選ぶ時は、バアル、結構悩んでたでしょ? でも、アオニャンの時は即決って感じだったからさ」
「ふむ、それで?」
「え?」
「そのお時間の差に貴方様が妬いて頂けた、という認識で宜しいでしょうか?」
何やらストンと腑に落ちた気がした途端、顔が一気に熱を持った。気恥ずかしさがこみ上げてきた。
「あっ、ちがっ……いや、違わなくはない、けどさ……」
そっかぁ……俺、妬いちゃってたんだ。
寂しいというか、何でか納得がいかないというか。自分でも分かっていなかったモヤモヤの正体。それは、確かに指摘された通りだった。
俺は、子供じみた嫉妬心を抱いてしまっていたのだ。アオニャンの時はもっと悩んでくれるんだろうなって、勝手に期待して勝手にショックを受けていたのだ。
アオニャンは俺とは違うって、このテーマパークのキャラクターなんだって、ずっと思っていたクセにさ。
思わず俯いた俺の頭を大きな手が撫でてくれている。バアルさんはご満悦そうだ。ぶんぶん、ぱたぱたと、彼の触角と羽が奏でている賑やかな音が聞こえているんだからな。
「此方のコーナーへ訪れた時、目が合いましたので」
「え……」
ふと呟いた声に顔を上げれば、バアルさんは目尻のシワをゆるりと深めた。さっき選んだアオニャンのぬいぐるみを差し出してくる。
丸いオレンジの瞳。ビーズなのか、それとも魔宝石を加工したものか。店内の明るい照明を受けて煌めく瞳と、俺も目が合った気がした。
「それからというもの、アオイがぬいぐるみを選んでいる間も気になってしまい……他のお客様の目に止まってはしまわないかと、年甲斐もなくそわそわとしておりまして」
「そっか……バアルもお揃いだったんだね」
「お揃い、とは?」
「俺もね、ビビッときたんだ」
再び手にしているバアルーン様ぬいぐるみを掲げれば、バアルさんは納得したように頷いた。
「衣装の方は、どれにしようかなってスッゴく悩んじゃったんだけど、ウェディングバージョンにしようって思ってからは、すぐだったんだ。このバアルーン様と目が合ったから」
「左様でございましたか……」
「うんっ」
バアルさんの透明感のある白い頬が、ほんのりと桜色に染まっていく。口元を綻ばせた彼に釣られて、俺も笑っていた。
顔がぽかぽかと熱くなってきて、胸の辺りがこそばゆい。でも、嬉しい。
お互いにぬいぐるみを見せあったまま微笑み合っていると、ふと気づく。何だかハーブの匂いが濃くなったような。彼との距離が、また近くなれているような。
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