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【新婚旅行編】七日目:一点を見つめる熱心な視線
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目に飛び込んできたのは、どれもが自分こそが主役だと主張していそうなカラフルな色達。
お店の入り口で出迎えてくれているサターン様とヨミーン様の等身大の像。歓迎を示すように両腕を広げているお二人と同じポーズをしているぬいぐるみ。俺達も買ったカチューシャ。明るい照明を受けて、キラキラとした光沢を帯びているバッジにキーホルダー。
青い水晶で出来たお城のフィギュアかと思えば、扉のように左右に開く構造みたい。透明な展示ケースの中、完成品のお城の隣に置かれている開いたバージョンの中には縦長の箱が収まっている。
星と太陽の模様が描かれていた箱の中には、これまた星バージョンと太陽バージョンのデザインの個包装がたっぷりと。星の方はミルクチョコレートのクランチ、太陽の方はイチゴチョコレートのクランチ。二つの味が楽しめて、なおかつ入れ物も飾っておけるという一石二鳥な商品だった。
お土産屋さんは、相変わらずの大盛況。ひっきりなしにお客さんが訪れては、いくつもの棚にキッチリみっちりと並べられている品々へと次々に手を伸ばしていく。
手にした商品をじっくりと眺めていたり。それぞれ異なる商品を両手に取ったまま、交互に眺めて吟味していたり。あるいは最初っからのお目当てだったのか、手にした途端に微笑んで、買い物カゴの中へと大事そうに入れていたり。
「目移りしちゃいますね……どこのコーナーから行ってみま」
意見を聞こうと隣を見上げて初めて気づいた。彼の鮮やかな緑の瞳が、熱心に一点を見つめていることに。
滅茶苦茶惹かれているんであろう視線の先には、いくつもの可愛らしいぬいぐるみが、大きく高い棚を占拠していた。
サターン様とヨミーン様のぬいぐるみだ。元々キャラクターらしくデフォルメされたデザインが、さらにぬいぐるみ向けなふわふわで丸みを帯びたものになっていて可愛らしい。
「ぬいぐるみから選ぼっか。その後は、壁伝いに沿ってぐるりとお店の中を一周してみない?」
「ええっ、是非、そう致しましょうっ」
ぶんぶん、ぱたぱたと彼の触角と羽がより賑やかになる。よっぽど気になっているんだろう。俺の手を引きながらぬいぐるみのコーナーへと、しなやかな足を進めていく彼の足取りは軽やかだった。
「ふわぁ……種類、多いね……」
柔らかな笑顔に得意気な笑顔、はたまたウィンクをしていたり、鋭い牙を覗かせていたり。色々な表情を見せてくれているぬいぐるみは、決めポーズは勿論、その格好も様々だった。
実際に俺達がお会いすることが出来た、太陽や星のマントを羽織っているバージョン。お揃いの裏地が赤い、黒のスーツを纏ったシックなバージョン。こちらは、片方の角に斜めに被せるようにした、赤いリボンのついた黒いシルクハットも高ポイントだろう。さらには、いつかの雪遊びを思い出させる、うさぎ耳のついたものまで。
「デザインもだけど、手に乗っちゃうくらいに小さいのとか、抱き枕に出来るくらいに大きいサイズのとかもあるし……迷っちゃうね」
「大丈夫ですよ、アオイ」
「え、もう、お気に入り決められたの?」
「はい」
強く頷き、言い切ったバアルさんの目には迷いがない。ホントに決められたみたいだ。この短時間の内に。
なにか、ファーストインプレッションというか、ビビっときたんだろうか。てっきり、もっと悩んじゃうかと。いつもの細い顎に指を当てて眉間にシワを刻んだ、考えるバアルさんが見れるのかと。
「迷う必要などございません。三つずつ、全部購入してしまえば宜しいのですから」
「なっ、ちょ……っ」
得意満面な彼の手には、すでに黒革の上品なお財布が。つい今朝見たばかりの真っ黒なカードが取り出されようとしていた。
「ちょーっと待った! ストップ! 気持ちは分かるけど落ち着こうっ、バアル!」
「何を仰るのですか、アオイ。私は至って冷静です。自分を見失ってなどおりませんよ?」
確かに。彼の表情は柔らかく微笑んでいるし、声色も穏やかだ。俺を見つめる瞳も、ギラギラとした野生味は感じられない。まるで凪いだ海みたい。不思議なほどに落ち着いていて、逆に怖い。
お店の入り口で出迎えてくれているサターン様とヨミーン様の等身大の像。歓迎を示すように両腕を広げているお二人と同じポーズをしているぬいぐるみ。俺達も買ったカチューシャ。明るい照明を受けて、キラキラとした光沢を帯びているバッジにキーホルダー。
青い水晶で出来たお城のフィギュアかと思えば、扉のように左右に開く構造みたい。透明な展示ケースの中、完成品のお城の隣に置かれている開いたバージョンの中には縦長の箱が収まっている。
星と太陽の模様が描かれていた箱の中には、これまた星バージョンと太陽バージョンのデザインの個包装がたっぷりと。星の方はミルクチョコレートのクランチ、太陽の方はイチゴチョコレートのクランチ。二つの味が楽しめて、なおかつ入れ物も飾っておけるという一石二鳥な商品だった。
お土産屋さんは、相変わらずの大盛況。ひっきりなしにお客さんが訪れては、いくつもの棚にキッチリみっちりと並べられている品々へと次々に手を伸ばしていく。
手にした商品をじっくりと眺めていたり。それぞれ異なる商品を両手に取ったまま、交互に眺めて吟味していたり。あるいは最初っからのお目当てだったのか、手にした途端に微笑んで、買い物カゴの中へと大事そうに入れていたり。
「目移りしちゃいますね……どこのコーナーから行ってみま」
意見を聞こうと隣を見上げて初めて気づいた。彼の鮮やかな緑の瞳が、熱心に一点を見つめていることに。
滅茶苦茶惹かれているんであろう視線の先には、いくつもの可愛らしいぬいぐるみが、大きく高い棚を占拠していた。
サターン様とヨミーン様のぬいぐるみだ。元々キャラクターらしくデフォルメされたデザインが、さらにぬいぐるみ向けなふわふわで丸みを帯びたものになっていて可愛らしい。
「ぬいぐるみから選ぼっか。その後は、壁伝いに沿ってぐるりとお店の中を一周してみない?」
「ええっ、是非、そう致しましょうっ」
ぶんぶん、ぱたぱたと彼の触角と羽がより賑やかになる。よっぽど気になっているんだろう。俺の手を引きながらぬいぐるみのコーナーへと、しなやかな足を進めていく彼の足取りは軽やかだった。
「ふわぁ……種類、多いね……」
柔らかな笑顔に得意気な笑顔、はたまたウィンクをしていたり、鋭い牙を覗かせていたり。色々な表情を見せてくれているぬいぐるみは、決めポーズは勿論、その格好も様々だった。
実際に俺達がお会いすることが出来た、太陽や星のマントを羽織っているバージョン。お揃いの裏地が赤い、黒のスーツを纏ったシックなバージョン。こちらは、片方の角に斜めに被せるようにした、赤いリボンのついた黒いシルクハットも高ポイントだろう。さらには、いつかの雪遊びを思い出させる、うさぎ耳のついたものまで。
「デザインもだけど、手に乗っちゃうくらいに小さいのとか、抱き枕に出来るくらいに大きいサイズのとかもあるし……迷っちゃうね」
「大丈夫ですよ、アオイ」
「え、もう、お気に入り決められたの?」
「はい」
強く頷き、言い切ったバアルさんの目には迷いがない。ホントに決められたみたいだ。この短時間の内に。
なにか、ファーストインプレッションというか、ビビっときたんだろうか。てっきり、もっと悩んじゃうかと。いつもの細い顎に指を当てて眉間にシワを刻んだ、考えるバアルさんが見れるのかと。
「迷う必要などございません。三つずつ、全部購入してしまえば宜しいのですから」
「なっ、ちょ……っ」
得意満面な彼の手には、すでに黒革の上品なお財布が。つい今朝見たばかりの真っ黒なカードが取り出されようとしていた。
「ちょーっと待った! ストップ! 気持ちは分かるけど落ち着こうっ、バアル!」
「何を仰るのですか、アオイ。私は至って冷静です。自分を見失ってなどおりませんよ?」
確かに。彼の表情は柔らかく微笑んでいるし、声色も穏やかだ。俺を見つめる瞳も、ギラギラとした野生味は感じられない。まるで凪いだ海みたい。不思議なほどに落ち着いていて、逆に怖い。
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