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【新婚旅行編】七日目:俺達のことじゃあないのだけれども

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「それって……」

「うむっ! 愛する家族である、バアルーンとアオニャン殿のお茶会にな!」

「ほっほっ、バアルーンの淹れてくれる紅茶は常に絶品でのう」

「アオニャン様とバアルーン様、お二方がご一緒にお作りになる焼き菓子も誠に美味しく……ついつい食べ過ぎてしまいます」

 俺達のことじゃあないのに、嬉しくなってしまう。ヨミーン様、サターン様、レタリーンさん、皆さん喜びがあふれてしまいそうな笑顔でバアルーン様とアオニャンのことを思い出しながら話してくれて。

『……胸が擽ったくなってしまいますね』

『……うん』



 最後にヨミーン様達それぞれと握手をしてもらえて、俺達の質問タイムは和やかに終わった。

 虹で出来た道を再び渡って、俺達が席へと戻った後も、謁見と言う名のトークタイムは続いていく。

 レタリーンさんが、手を挙げているお客さんの中から選んだり。はたまた俺達の時と同じように、ヨミーン様やサターン様が気になったお客さんを呼び寄せたり。

 俺達を含めて、大体十組くらいだろうか。最後のお客さんが席に戻ったところで、サターン様とヨミーン様が締めの挨拶をして謁見は終了。その後は、順番に隣の小部屋へと招かれてからの写真撮影タイムへと切り替わっていったんだ。

 再びエントランスホールへと戻ってきても、まだあの謁見の間のソファーのように足元が浮いているような。けれども、もっと大変そうなのは。

「大丈夫、バアル?」

 彼にだけしか聞こえないように耳元で、口元を手で覆い隠しながら尋ねる。寝起きのようにまだぼんやりと、どこか遠くを見ているような瞳が、俺を認めて微笑んだ。

「はい……何から何までありがとうございます、アオイ……誠に助かりました」

 繋いでいた手に、さらにもう一方が重ねられる。ひと回り大きな手に包み込むように握ってもらえて、温かく満たされている胸の内がますます喜びであふれてしまいそう。頬がだらしなく緩んでしまっていそうだ。

「ううん、お互い様だよ。っていうか、俺の方がバアルに頼りっきりの時が多いから、役に立てて嬉しいな」

「アオイ……」

「それでさ、バアルは楽しめた?」

 尋ねた途端、ぱぁっと満開の笑顔が咲く。

 ぶんぶん、ぱたぱた。先がくるりと反った二本の触角も、透き通った羽も、ますます賑やかになっていた。穏やかな声も、心なしか弾んでいる。

「ええっ、それはもう……夢のようなひと時でございました」



 謁見の後に行なわれた、撮影会へのお招きは前の席から順番に呼ばれていったから、俺達も比較的早くヨミーン様達と再会を果たすことが出来た。

「おお、次はグリーン殿とオレンジ殿であったか!」

「ほっほっ、こっちじゃ、こっちじゃ。遠慮せずにもっと近くに来なさい」

 あれよあれよと俺達は、大歓迎なヨミーン様とサターン様に挟まれた。バアルさんはさっきよりも慣れたのか、あまり緊張せずに楽しめているみたい。柔らかな笑みを浮かべている彼の透明感のある白い頬は、ほんのりと桜色に染まる程度に留まっている。

 バアルさんと一緒にサンドイッチの具にでもなったかのよう。左右からお二人から抱き締められるような形になっていたところで、レタリーンさんが投影石を構えた。

「お時間の都合上、お写真は三枚までとなっております。ポーズが決まりましたら、教えて下さい」

「えっ、レタリーンさんとは、一緒に写真撮れないんですか?」

「おや、私もご一緒で宜しいのでしょうか?」

「ぜひ、お願いしますっ」

「ええ、宜しくお願い致します」

 バアルさんと目配せしてから彼を招けば、ふわふわと長い尾羽根を振りながら、いそいそと寄ってきてくれた。
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