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【新婚旅行編】七日目:ちょっとだけ、に致しますので
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流石レタリーさ……いや、レタリーンさん。俺達が無茶振りしたみたいなもんなのに誰よりもノリノリ。ヨミーン様のお側へと加わって、早くもピースサインを決めている。
レタリーンさんに代わり写真係を務めてくれたのは、部屋の壁際で控えていた三匹の子豚達。コウモリの形をした小さな羽をはためかせながら、一匹がちっちゃな蹄で投影石を抱え、残りの二匹が小さな彼の左右で飛びながら俺達に、ぷきゃっ、ぷきゅっと鳴きながら蹄をぶんぶん振っている。
どうやら俺達を笑顔にさせようとしていたり、ポーズを決めるよう求めていたらしい。俺にはまだ彼らが話している言葉は分からないので、バアルさんがそれとなく教えてくれた。
最初の一枚はレタリーンさんに倣ってピースで。その次は肩を組んでみたり、皆さんと押しくら饅頭でもするかのように、ぎゅうぎゅうと抱き締め合ってみたり。無事にお気に入り確定な三枚を撮ることが出来たんだ。
「グリーン殿、オレンジ殿、良ければ此方を受け取ってはくれぬか?」
「へ……? ありがとう、ございます」
撮影が終わってから、ヨミーン様から差し出されたのは青い水晶で出来た板。正方形の形をして、紙のように薄いそれは不思議なくらいに軽い。
縁の部分には細やかな装飾が彫られていて、左上には太陽、右下には星の模様が。一番目を引く真ん中には、此方の文字でヨミーン様とサターン様、レタリーンさんの名前が彫られていた。
「わ、キレイ……って、もしかして、これ?」
「うむっ、私達のサインである!」
バアルさんが感慨深げに瞳を細める。
「まさか、サインまで……斯様に素敵なお品まで頂けるとは……」
彼の広い背中を彩っている淡く光る四枚の羽のはためきが、また少し早くなった。
「良かった……俺も楽しかったよ。サターン様とヨミーン様、レタリーンさんとお話出来たこともだけど……」
「他に、何か?」
「その……嬉しそうなバアル、いっぱい見れたから……だからね、俺もすっごく嬉し、っ」
言いかけていた言葉が途切れさせられてしまった。長く引き締まった腕に勢いよく抱き寄せられて、逞しい胸元にすっぽりと収まってしまう。
強くなったハーブの匂いと密着出来た大好きな温もり。瞬く間に頭の中に花が咲き乱れ、目の前の彼に夢中になりかけた寸前で、周囲のざわめきに気がつけた。
「ば、バアル……見られてるっ、いっぱいお客さんがいるから……っ」
「大丈夫、問題はございません」
「えぇ……」
「認識阻害の術の効果を、更に高めております故」
言われてみれば、周りに居るお客さんは誰一人として俺達を見てはいなかった。楽しそうに会話を交わしながら、俺達の側を次々と擦れ違っていく。ど真ん中ではないとはいえ、多くの人であふれるホールで堂々と抱き締め合ってしまっているにも関わらずだ。
以前の時と同じように、今の俺達は彼らにとって道端に転がっている石と同じ。気づかないし、仮に気づいても気にも止めない程度の認識しかされていないようだ。
「そ、そっか……じゃあ、ちょっとだけ……だよ……?」
「はい、ちょっとだけ、に致しますので」
甘い言葉に唆されて、広い背中に腕を回す。満足気な笑みが頭の上から降ってきたかと思えば、さらに抱き寄せられてしまった。
優秀な彼の術という完璧な後ろ盾を得てしまった俺が、遠慮なんて出来る訳もなく。ちょっとだけでも済ませられなかった。お昼に予約していたレストランの時間ギリギリまで、彼の腕の中で寛いでしまっていた。
レタリーンさんに代わり写真係を務めてくれたのは、部屋の壁際で控えていた三匹の子豚達。コウモリの形をした小さな羽をはためかせながら、一匹がちっちゃな蹄で投影石を抱え、残りの二匹が小さな彼の左右で飛びながら俺達に、ぷきゃっ、ぷきゅっと鳴きながら蹄をぶんぶん振っている。
どうやら俺達を笑顔にさせようとしていたり、ポーズを決めるよう求めていたらしい。俺にはまだ彼らが話している言葉は分からないので、バアルさんがそれとなく教えてくれた。
最初の一枚はレタリーンさんに倣ってピースで。その次は肩を組んでみたり、皆さんと押しくら饅頭でもするかのように、ぎゅうぎゅうと抱き締め合ってみたり。無事にお気に入り確定な三枚を撮ることが出来たんだ。
「グリーン殿、オレンジ殿、良ければ此方を受け取ってはくれぬか?」
「へ……? ありがとう、ございます」
撮影が終わってから、ヨミーン様から差し出されたのは青い水晶で出来た板。正方形の形をして、紙のように薄いそれは不思議なくらいに軽い。
縁の部分には細やかな装飾が彫られていて、左上には太陽、右下には星の模様が。一番目を引く真ん中には、此方の文字でヨミーン様とサターン様、レタリーンさんの名前が彫られていた。
「わ、キレイ……って、もしかして、これ?」
「うむっ、私達のサインである!」
バアルさんが感慨深げに瞳を細める。
「まさか、サインまで……斯様に素敵なお品まで頂けるとは……」
彼の広い背中を彩っている淡く光る四枚の羽のはためきが、また少し早くなった。
「良かった……俺も楽しかったよ。サターン様とヨミーン様、レタリーンさんとお話出来たこともだけど……」
「他に、何か?」
「その……嬉しそうなバアル、いっぱい見れたから……だからね、俺もすっごく嬉し、っ」
言いかけていた言葉が途切れさせられてしまった。長く引き締まった腕に勢いよく抱き寄せられて、逞しい胸元にすっぽりと収まってしまう。
強くなったハーブの匂いと密着出来た大好きな温もり。瞬く間に頭の中に花が咲き乱れ、目の前の彼に夢中になりかけた寸前で、周囲のざわめきに気がつけた。
「ば、バアル……見られてるっ、いっぱいお客さんがいるから……っ」
「大丈夫、問題はございません」
「えぇ……」
「認識阻害の術の効果を、更に高めております故」
言われてみれば、周りに居るお客さんは誰一人として俺達を見てはいなかった。楽しそうに会話を交わしながら、俺達の側を次々と擦れ違っていく。ど真ん中ではないとはいえ、多くの人であふれるホールで堂々と抱き締め合ってしまっているにも関わらずだ。
以前の時と同じように、今の俺達は彼らにとって道端に転がっている石と同じ。気づかないし、仮に気づいても気にも止めない程度の認識しかされていないようだ。
「そ、そっか……じゃあ、ちょっとだけ……だよ……?」
「はい、ちょっとだけ、に致しますので」
甘い言葉に唆されて、広い背中に腕を回す。満足気な笑みが頭の上から降ってきたかと思えば、さらに抱き寄せられてしまった。
優秀な彼の術という完璧な後ろ盾を得てしまった俺が、遠慮なんて出来る訳もなく。ちょっとだけでも済ませられなかった。お昼に予約していたレストランの時間ギリギリまで、彼の腕の中で寛いでしまっていた。
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