間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
840 / 1,055

【新婚旅行編】七日目:その瞳に映る星々に見惚れて

しおりを挟む
 そういえば、俺達が入ってきた出入り口はどうなって。

 ふと気になって顔だけ後ろに向けてみれば消えていた。いや、現れた時と同じように塞がったというのが正しいのだろう。俺達の後ろには、まるで元から何もなかったかのように天井や周囲と同じような壁があった。繋ぎ目のようなラインすらも入ってはいない。

「ああ、アオイ、窓の外を見て下さい。誠に美しいですよ」

「え……うわぁっ」

 いつの間にか、部屋を照らす照明は最低限になっていた。そのお陰でより際立って見えたのだ。

 窓の外を次々と駆けていく流れ星が。煌めく星々の線は、時に俺達の乗っている乗り物の窓へと向かい風のように吹きつけては、はたまた降り注ぐ雨のようにキラキラと弾けては、儚く淡く瞬いて消えていた。

 白や淡い黄色、赤にオレンジ、透き通るような青。一瞬一瞬で色味を変える星々の粒が、窓の外で踊るように舞っている。

 光の飛沫は、いつしか俺達の足元へも。どうやら、床とその少し上の壁が透過されているようだ。お陰で全部見えている。俺たちを乗せてどのようにして、星々で出来たレールの上を駆け上がっているのかが。

 実際には踏みしめていなくとも、視覚による効果は凄まじい。錯覚してしまう。ホントにバアルさんと一緒に星の川を走っているみたいだ。

 見たことのない神秘的な光景は、なんと例えればいいのか。

 ……言葉にならない。キレイだねとか、スゴいねとか、率直な感想すらもぽかんと開いたままの口からは、一言も出てきやしなかった。

 ふと顎に柔らかな指先が触れた。掬い上げるように優しく持ち上げられて、見惚れてしまっていた星の煌めき以上に目を奪われた。

「……宜しければ、あちらでゆっくり景色を楽しみませんか?」

 万華鏡のように移りゆく星々の光が、柔らかく微笑む彼を照らしている。目鼻立ちの整った顔を、透き通るような白い肌を、薄闇の中でも淡い光を帯びた羽を、より魅力的に彩るように。

 まるで、彼が星の世界の住人になってしまったみたい。とてもこの世のものとは思えない。白い睫毛に縁取られた瞳なんて、外で煌めき続けている星々の瞬きを映し込んだような。ずっと見ていたいくらいにキレイで。

「ふふ……」

 形の良い唇が笑みをこぼす。それはそれは嬉しそうに、満足気に。

「誠に私の妻は愛らしいですね……いかがなさいますか? このまま、互いの瞳に映る星々を楽しみましょうか? それはそれで、大変有意義なお時間ではございますね。貴方様の美しく透き通った瞳を独り占めに出来るのですから」

「あ、ぅ……」

 うっとりとした声が歌うように紡いでいく言葉の熱量に、鼓動ははしゃぎっぱなし。一気にお花が咲き乱れた頭もふわふわしてしまう。

 それどころか今にも力が抜けてしまいそうな身体まで、足元まで浮ついていた。けれども、バランスを崩して星の川に膝をつくことはなく、バアルさんの長い腕に抱き支えてもらえた。

「……ありがと」

「……いえ」

 嬉しいことばかりを囁かれて、すっかり俺は夢見心地になっていた。服越しでも逞しさが分かる分厚い胸元に、縋り付くようにもたれかかってしまっていた。

 歩き辛いだろうに、バアルさんは一切そんな素振りは見せない。俺を抱き支えてくれたまま、ソファーへとエスコートしてくれる。

 たおやかな手により恭しく、ふっくらと座り心地の良いソファーへと先に座らさせてもらった。彼がすぐ側に腰を下ろしたところで、俺は吸い寄せられるように抱きついていた。彼と一緒に寛ぐ時の定位置へと、その逞しい膝の上へとお邪魔させてもらったのだが。

「……ん、バアル……? どうか、したの?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...