850 / 1,047
【新婚旅行編】七日目:何だかとても、擽ったいですね
しおりを挟む
黒の執事服を纏う彼の姿は、サターン様とヨミーン様の時のように見覚えしか。明るい黄緑色の長い尾羽根を揺らしながら、タレ目の瞳を細めている。頬にかかった左右非対称な長さの髪を、長い髪の方だけを小さく三つ編みに編んでいた。
細くて長い彼のシルエットはリアルだが、その表情のデフォルメ具合はマスコットらしい。それから、やっぱり着ぐるみではあるのだが、着ぐるみとは思えない。彼が流れるような動作でお辞儀を披露する様は、この世界ならば、そのままの姿で存在していそうだと思えるほどに生き生きとしていた。
「親愛なる国民の皆様、今日は。初めまして、私、ヨミーン様の秘書を務めさせて頂いております、レタリーンと申します」
『やっぱり、レタリーさんだ! レタリーさんもいたんだ! ね、バアル!』
『ええ、これならば、誠にレダ殿やスヴェン殿をモチーフにした方もいらっしゃるやもしれませんね』
『うんっ』
レタリーさんの声をあらかじめ録音しているのだろうか。まるで、ご本人がこの場で着ぐるみに合わせて喋っているみたい。実際に口元も声に合わせて動いているし。瞬きだって。
「本日の謁見にて司会進行を、サターン様とヨミーン様のお手伝いをさせて頂きます。どうか宜しくお願い致します」
彼の出現と共に黄色い歓声を、あるいは拍手を送っていた皆さんが、再び手を打ち鳴らす。俺達も、めいいっぱいの拍手を送った。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
俺達、観客の方へとレタリーンさんが頭を下げる。左に向かって、右に向かって、最後は真ん中に。律儀で礼儀正しいところも、レタリーさんに似ている。
お辞儀を終えてから、レタリーンさんは咳払いを一つ。ついに始まるのかと思えば、小首を軽く傾げながら俺達の方を見た。
「おや、以前司会進行をなさっていらした、バアルーン様はどうかされたのか、でございますか?」
バアルーン様……!!
俺は全然知らなかった。けれども、お客さんの中には、リピーターさんも居たんだろう。どこからかコール&レスポンスをするかのように、どうしてー? と尋ねる声が重なって聞こえた。
次々と聞こえてくる応えにレタリーンさんは満足そうに微笑んでから続けた。
「ご存知の方も多いかと存じますが、おめでたいことにバアルーン様は新婚さんでございますので。現在は休暇中、奥方様であるアオニャン様と仲睦まじく過ごしていらっしゃるかと」
また黄色い歓声が上がる。大きな拍手も。でも、今回のはレタリーンさんに向けられているものではないんだろう。
……なんだか、なんだかとても……
「バアルーン様は、アオニャン様と出会うまで、ほとんど休みなく働き詰めでございました。サターン様とヨミーン様が休暇をご用意しても、隠れて別の仕事に精を出されてしまうほどに」
『…………』
「この際、数百年ほどのんびりと休まれても宜しいのではと、アオニャン様とゆるりと何でもない幸せな日々を過ごして頂きたいと、私めは勝手ながら思っております」
そうだ、そうだと言わんばかり。また大きな拍手が鳴り続けている。いやいや、ホントに。
『……擽ったい、ですね……俺達のことじゃあ、ないのに』
『……ええ、誠に……何と申し上げればよいのか……』
細くて長い彼のシルエットはリアルだが、その表情のデフォルメ具合はマスコットらしい。それから、やっぱり着ぐるみではあるのだが、着ぐるみとは思えない。彼が流れるような動作でお辞儀を披露する様は、この世界ならば、そのままの姿で存在していそうだと思えるほどに生き生きとしていた。
「親愛なる国民の皆様、今日は。初めまして、私、ヨミーン様の秘書を務めさせて頂いております、レタリーンと申します」
『やっぱり、レタリーさんだ! レタリーさんもいたんだ! ね、バアル!』
『ええ、これならば、誠にレダ殿やスヴェン殿をモチーフにした方もいらっしゃるやもしれませんね』
『うんっ』
レタリーさんの声をあらかじめ録音しているのだろうか。まるで、ご本人がこの場で着ぐるみに合わせて喋っているみたい。実際に口元も声に合わせて動いているし。瞬きだって。
「本日の謁見にて司会進行を、サターン様とヨミーン様のお手伝いをさせて頂きます。どうか宜しくお願い致します」
彼の出現と共に黄色い歓声を、あるいは拍手を送っていた皆さんが、再び手を打ち鳴らす。俺達も、めいいっぱいの拍手を送った。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
俺達、観客の方へとレタリーンさんが頭を下げる。左に向かって、右に向かって、最後は真ん中に。律儀で礼儀正しいところも、レタリーさんに似ている。
お辞儀を終えてから、レタリーンさんは咳払いを一つ。ついに始まるのかと思えば、小首を軽く傾げながら俺達の方を見た。
「おや、以前司会進行をなさっていらした、バアルーン様はどうかされたのか、でございますか?」
バアルーン様……!!
俺は全然知らなかった。けれども、お客さんの中には、リピーターさんも居たんだろう。どこからかコール&レスポンスをするかのように、どうしてー? と尋ねる声が重なって聞こえた。
次々と聞こえてくる応えにレタリーンさんは満足そうに微笑んでから続けた。
「ご存知の方も多いかと存じますが、おめでたいことにバアルーン様は新婚さんでございますので。現在は休暇中、奥方様であるアオニャン様と仲睦まじく過ごしていらっしゃるかと」
また黄色い歓声が上がる。大きな拍手も。でも、今回のはレタリーンさんに向けられているものではないんだろう。
……なんだか、なんだかとても……
「バアルーン様は、アオニャン様と出会うまで、ほとんど休みなく働き詰めでございました。サターン様とヨミーン様が休暇をご用意しても、隠れて別の仕事に精を出されてしまうほどに」
『…………』
「この際、数百年ほどのんびりと休まれても宜しいのではと、アオニャン様とゆるりと何でもない幸せな日々を過ごして頂きたいと、私めは勝手ながら思っております」
そうだ、そうだと言わんばかり。また大きな拍手が鳴り続けている。いやいや、ホントに。
『……擽ったい、ですね……俺達のことじゃあ、ないのに』
『……ええ、誠に……何と申し上げればよいのか……』
9
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる