上 下
835 / 906

【新婚旅行編】七日目:バアルの笑顔は、太陽みたいに温かいから

しおりを挟む
 上級な術の内の、条件が整ったら発動するタイプの術でもかけられているのかな? バアルさんに、そういう術もございます、って前に教えてもらったことがあったけれども。

 その場合、発動条件はバッジをつけようとした時だろうか。そんでもって、外そうとしたら術が解除されるっていう。それとも俺の知らない他の……それこそ術ではない特殊な技術が用いられていたり?

 ついついバッジのことばかりに思考を囚われてしまっていると、風を切るような音が耳に入った。

 バアルさんの羽の音だ。水晶のように透き通った四枚が、彼の心の内を代弁するかのように忙しなくはためいている。

 そうだった。今は、バッジの構造よりも。

「このバッジって、どこで買えるんですかっ? あ、勿論、こちらのカチューシャも買わせていただきますけど」

「アオイ……」

 腰に回されていた手に力がこもる。二本の触角を弾ませながら、バアルさんがそっと抱き寄せてくれた。

「こちらのエリアでご購入出来るのは、太陽と星のバッジですね。このまま、道なりに真っ直ぐ進んでいかれると、私のように通りにお店を構えているスタッフがございます」

「じゃあっ、他のバッジ、サターン様とヨミーン様の別の種類もですけど、例えば……バアルーン様のバッジも有ったりするんですか?」

「はい、ございますよ」

「やっ」

「バアルーン様単品のものもございますが、やはりアオニャン様とペアになられているバッジが多いですね」

「ひゃわ……」

 思わずガッツポーズを、握ろうとしていた拳から力がふにゃりと抜けていく。

 いや、まぁ、そりゃあ……ありますよね。二人で一つ……ですよね。

 思い浮かべた自分の言葉に、ますます顔が熱を持ってしまう。そんな俺に対してバアルさんはますますテンションアップ。俺を抱き支えてくれながらも、店員さんに詰め寄るように聞き出そうとしていた。

「因みに、そちらは」

「確実にご購入出来るのは、城内ですね。東のサンライズエリアでもご購入出来るお店はございますが、何しろ人気のお品ですので」

「成る程……ありがとうございます。では、此方のカチューシャを一つずつ頂けますでしょうか」

「はい、お買い上げありがとうございます。どちらかを付けていかれますか?」

「あっ、えっと、これとこれをっ」

 咄嗟に俺は角バージョンのカチューシャを選んでいた。ほんの一瞬、しょんぼりと沈みかけていたバアルさんが、はたと長い睫毛を瞬かせる。

「畏まりました。後は包みますね」

 店員さんにお礼を言って店を後にする。この先にあるというバッジ屋さんを目指す道中、バアルさんが残りのカチューシャが入った袋をあの空間にしまい込んだところで、俺はカチューシャを差し出した。

「俺は星の方を付けるから、バアルは太陽ね」

「は、はい」

「ほら、屈んで。付けてあげるから」

「畏まりました」

 何か言いたげにしながらも、俺が付けやすいようにバアルさんは、その真っ直ぐに伸びた背筋を屈めてくれる。太陽のマークに飾られた金の王冠を被った角のカチューシャ。ぬいぐるみのような質感で作られているそれが、艷やかな白い髪にちょこんとのった。

「ん、いいよ」

「ありがとうございます」

「んーん……ふふ、やっぱり似合う。銀の王冠や星も素敵だけどね」

 バアルの笑顔は、太陽みたいに温かいから。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...