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【新婚旅行編】七日目:魅力的な提案
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俺が選べば良かったんだ。俺が先に選んでしまえば、バアルさんがお二人に順位をつけたような気分にならずに済んで。いやいや、今からでも遅くはないハズだ。
「バアル、俺」
「でしたら、ファンバッチをご購入されてはいかがでしょうか?」
「へ?」
いきなり会話に入り込んできた聞き馴染みのない声。その方へと顔を向ければ、丁寧で穏やかな声の印象通り、柔らかな笑みを浮かべた女性が俺達に向かって会釈をした。
店員さんだ。シマリスのような尻尾をふわふわと揺らす彼女の格好は運転手のよう。おもちゃの車のカラーリングと合わせているんだろう。赤や青、金のボタンなど色合いが華やかだ。いかにも、テーマパークのキャストさんって感じの。
いつの間にやら、バアルさんに腰を抱かれてそっと導かれている内に、列の先頭まで来ていたようだ。彼女の他に鹿の角を生やした店員さんが、俺達のすぐ後ろのお客さんの接客をしていた。
「……ファンバッチとは、どのようなものなのでしょうか?」
店員さんに尋ねるバアルさんの表情は、変わらず平然としている。けれども、その眼差しは興味津々。ただでさえ鮮やかな緑の瞳が宝石よりも美しく煌めいている。その姿勢も前のめりだ。
「此方でございます」
にこやかな笑顔を浮かべながら彼女が指し示したのはご自身の胸元、そして四角い帽子だった。衣装ばかりに目がいってしまって気がつかなかったが、胸ポケットの縁や帽子のリボンのところにはいくつかのバッジで飾られている。
金や銀で縁取りされた、色とりどりのそれらはレダさんが軍服の胸元に付けていた勲章を思わせる。その形も様々だ。
太陽の形や星の形、コウモリの形をした羽の片翼。多分浄化の炎をモチーフにしたであろう、青い杯に白い炎が点っているもの。それから枝葉も幹も真っ白な大樹、こちらは神様の木だろうな。
それぞれのバッジの中心には、サターン様とヨミーン様のお姿が。ステンドグラスっぽいデザインだったり、肖像画風だったり、はたまたポップなイラスト調だったりと、バッジの形に合わせた絵柄で描かれている。これまたコレクター心を擽りそうな。
「このように服や帽子につけたり、こちらのカチューシャにつけることも出来ますよ」
店員さんが並べられているカチューシャの一つを手に取り、ぴょこんと揺れているコウモリの形をした羽の部分に、ご自身がつけていたバッジの一つを外してくっつけた。
成る程、これならば。仮にサターン様のカチューシャを選んだとしても、ヨミーン様のバッジで飾れば、推しを二人共身につけることが出来るな。
魅力的な提案にホッとしたものの、一つ新たに気になったことが。ピンで付けているにしては、外すのも付けるのもスムーズだったのだ。こういうのって、取り外しが難しいイメージなんだけれども。
浮かんだ疑問の内半分は、すぐさま解決した。彼女がすかさず付け加えてくれたのだ。
「引っ張っても外れないくらいにしっかりとくっつけることが出来ますが……穴が空いてしまったり、布地を傷つけてしまう心配はございません。お気軽にお好きなところへつけていただき、推し活を楽しんでいただければと存じます」
コウモリの羽が伸びるほど、彼女がバッジを引っ張っても外れる気配はなかった。それなのに、いざ外そうとした時には簡単に外れたのだ。
それから、言っていた通りバッジをつけていたところには傷一つない。カチューシャを俺達の前に差し出して見せてくれたが、針の穴も空いてはいなかった。そもそもバッジの裏には何もついてはいなかったんだけどさ。
「スゴいっ、どうなって……?」
「夢のような世界でございますので、これくらいは」
意味深に言葉尻を濁してから、店員さんが微笑む。これ以上は教えてはくれなさそうだ。尋ねたとしても、不思議な力で、とかなんとか言ってはぐらかされてしまいそう。
……企業秘密ってヤツか。
「バアル、俺」
「でしたら、ファンバッチをご購入されてはいかがでしょうか?」
「へ?」
いきなり会話に入り込んできた聞き馴染みのない声。その方へと顔を向ければ、丁寧で穏やかな声の印象通り、柔らかな笑みを浮かべた女性が俺達に向かって会釈をした。
店員さんだ。シマリスのような尻尾をふわふわと揺らす彼女の格好は運転手のよう。おもちゃの車のカラーリングと合わせているんだろう。赤や青、金のボタンなど色合いが華やかだ。いかにも、テーマパークのキャストさんって感じの。
いつの間にやら、バアルさんに腰を抱かれてそっと導かれている内に、列の先頭まで来ていたようだ。彼女の他に鹿の角を生やした店員さんが、俺達のすぐ後ろのお客さんの接客をしていた。
「……ファンバッチとは、どのようなものなのでしょうか?」
店員さんに尋ねるバアルさんの表情は、変わらず平然としている。けれども、その眼差しは興味津々。ただでさえ鮮やかな緑の瞳が宝石よりも美しく煌めいている。その姿勢も前のめりだ。
「此方でございます」
にこやかな笑顔を浮かべながら彼女が指し示したのはご自身の胸元、そして四角い帽子だった。衣装ばかりに目がいってしまって気がつかなかったが、胸ポケットの縁や帽子のリボンのところにはいくつかのバッジで飾られている。
金や銀で縁取りされた、色とりどりのそれらはレダさんが軍服の胸元に付けていた勲章を思わせる。その形も様々だ。
太陽の形や星の形、コウモリの形をした羽の片翼。多分浄化の炎をモチーフにしたであろう、青い杯に白い炎が点っているもの。それから枝葉も幹も真っ白な大樹、こちらは神様の木だろうな。
それぞれのバッジの中心には、サターン様とヨミーン様のお姿が。ステンドグラスっぽいデザインだったり、肖像画風だったり、はたまたポップなイラスト調だったりと、バッジの形に合わせた絵柄で描かれている。これまたコレクター心を擽りそうな。
「このように服や帽子につけたり、こちらのカチューシャにつけることも出来ますよ」
店員さんが並べられているカチューシャの一つを手に取り、ぴょこんと揺れているコウモリの形をした羽の部分に、ご自身がつけていたバッジの一つを外してくっつけた。
成る程、これならば。仮にサターン様のカチューシャを選んだとしても、ヨミーン様のバッジで飾れば、推しを二人共身につけることが出来るな。
魅力的な提案にホッとしたものの、一つ新たに気になったことが。ピンで付けているにしては、外すのも付けるのもスムーズだったのだ。こういうのって、取り外しが難しいイメージなんだけれども。
浮かんだ疑問の内半分は、すぐさま解決した。彼女がすかさず付け加えてくれたのだ。
「引っ張っても外れないくらいにしっかりとくっつけることが出来ますが……穴が空いてしまったり、布地を傷つけてしまう心配はございません。お気軽にお好きなところへつけていただき、推し活を楽しんでいただければと存じます」
コウモリの羽が伸びるほど、彼女がバッジを引っ張っても外れる気配はなかった。それなのに、いざ外そうとした時には簡単に外れたのだ。
それから、言っていた通りバッジをつけていたところには傷一つない。カチューシャを俺達の前に差し出して見せてくれたが、針の穴も空いてはいなかった。そもそもバッジの裏には何もついてはいなかったんだけどさ。
「スゴいっ、どうなって……?」
「夢のような世界でございますので、これくらいは」
意味深に言葉尻を濁してから、店員さんが微笑む。これ以上は教えてはくれなさそうだ。尋ねたとしても、不思議な力で、とかなんとか言ってはぐらかされてしまいそう。
……企業秘密ってヤツか。
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