819 / 906
★【新婚旅行編】六日目:バアルの手は不思議だ
しおりを挟む
「……ありがとうございます、私もでございますよ」
「え……あ、っ」
バアルが近づいてきてくれる。スラリと伸びた背筋を曲げて、俺の上にのしかかってくる。額と額とがちょこんとくっついた途端、踊りまくっていた心臓が大きく飛び跳ねてしまった。
だって、視界いっぱいに大好きな笑顔が映って……ああ、ツンと尖ってカッコいい鼻先も触れちゃって。
「……私の愛する妻に喜んで頂けることが、私にとって何よりの喜びでございます故」
おまけに穏やかな低音で囁かれた言葉に、背筋が甘く震えてしまう。もう、十分だった。とっくにこっちはノックアウトされてしまっている。
なのに、バアルは俺の喜ぶことばかりをしてくれる。さっき言ってくれた言葉を、そのまま実行してくれているみたい。優しく、優しく、甘やかすように何度も口づけてくれている。
素直になれたらよかった。嬉しいって、大好きだって、愛してるよって、俺からも伝えられたら。
「は、んっ……なんか、今の……ニュアンス、違くない? 喜ぶ、のさ……」
何でこんな時に限ってヘタレてしまうのか。とんでもなくバレバレだってのに照れ隠しをしようとするのか。
ぶっちゃけ自分でもよく分からない。分からないのに、すでに口は勝手に動いてしまった後で。今更、俺からは軌道修正が出来なくて。
そんな俺の現状すらも、全部見通してのことなのだろうか。バアルはクスクスと楽しそうな笑みをこぼしながら、美しく引き締まった首を傾げた。悪戯っぽく持ち上がった口角と一緒に渋いお髭も笑っている。
「はて……ですが、心地よいでしょう? ……アオイは、私に触れられることが、大層お好きなのですから」
艶のある声で囁きながら、たおやかな白い手を伸ばしてくる。俺の薄い胸板を、彼の肉厚な大胸筋に比べればほんのささやかな筋肉の盛り上がりをやわやわと揉み始めた。
「ん、はぁ……」
バアルの手は不思議だ。身体を洗ってくれたり、スキンケアをしてくれたり、はたまたじゃれ合ってくれたり。そういう時には、ただ優しくて、温かくて、嬉しくて。ちょっぴり擽ったい時もあるけれど、安心感しか感じない。
だというのに、いざ可愛がってくれる時になったらこれだ。
「あ、ぅ……んっ、ふ……」
まだ前座なのに、いいところを触ってもらってもいないのに、背中の辺りがぞくぞくしてしまう。触ってもらっているところから、じくじくと淡い感覚が広がっていって、頭がふわふわしてきてしまう。
……気持ちよく、なってしまう。
「アオイ……」
若葉よりも鮮やかな緑の瞳が俺を見つめている。ちょっぴり寂しそうで、ほのかな熱を宿した眼差し。気恥ずかしくて隠そうとしていたことを、全部言ってしまいたくなるような。
「好き……」
ぽろりとこぼれてしまっていた。途端に、彼の形のいい唇が綻んでいく。まるで、勝利を確信したかのように。
「何が、お好きなのでしょうか?」
大きく広がった透き通った羽をはためかせながら、針金のように細くて長い触角を揺らしながら、バアルが尋ねてくる。
飽きないんだろうな。いや、まぁ、気持ちは分かるけど。俺だって、何度だってバアルの口から言って欲しいこと、あるし。とはいえだ。
「……バアルに、触ってもらうの……っていうか、バアルの全部が大好きっ! 分かってるでしょっ、もー……」
やっぱり、ちょっとだけ恥ずかしい。恥ずかしいもんだから、ついやけくそ気味に言い放ってしまっていた。
「え……あ、っ」
バアルが近づいてきてくれる。スラリと伸びた背筋を曲げて、俺の上にのしかかってくる。額と額とがちょこんとくっついた途端、踊りまくっていた心臓が大きく飛び跳ねてしまった。
だって、視界いっぱいに大好きな笑顔が映って……ああ、ツンと尖ってカッコいい鼻先も触れちゃって。
「……私の愛する妻に喜んで頂けることが、私にとって何よりの喜びでございます故」
おまけに穏やかな低音で囁かれた言葉に、背筋が甘く震えてしまう。もう、十分だった。とっくにこっちはノックアウトされてしまっている。
なのに、バアルは俺の喜ぶことばかりをしてくれる。さっき言ってくれた言葉を、そのまま実行してくれているみたい。優しく、優しく、甘やかすように何度も口づけてくれている。
素直になれたらよかった。嬉しいって、大好きだって、愛してるよって、俺からも伝えられたら。
「は、んっ……なんか、今の……ニュアンス、違くない? 喜ぶ、のさ……」
何でこんな時に限ってヘタレてしまうのか。とんでもなくバレバレだってのに照れ隠しをしようとするのか。
ぶっちゃけ自分でもよく分からない。分からないのに、すでに口は勝手に動いてしまった後で。今更、俺からは軌道修正が出来なくて。
そんな俺の現状すらも、全部見通してのことなのだろうか。バアルはクスクスと楽しそうな笑みをこぼしながら、美しく引き締まった首を傾げた。悪戯っぽく持ち上がった口角と一緒に渋いお髭も笑っている。
「はて……ですが、心地よいでしょう? ……アオイは、私に触れられることが、大層お好きなのですから」
艶のある声で囁きながら、たおやかな白い手を伸ばしてくる。俺の薄い胸板を、彼の肉厚な大胸筋に比べればほんのささやかな筋肉の盛り上がりをやわやわと揉み始めた。
「ん、はぁ……」
バアルの手は不思議だ。身体を洗ってくれたり、スキンケアをしてくれたり、はたまたじゃれ合ってくれたり。そういう時には、ただ優しくて、温かくて、嬉しくて。ちょっぴり擽ったい時もあるけれど、安心感しか感じない。
だというのに、いざ可愛がってくれる時になったらこれだ。
「あ、ぅ……んっ、ふ……」
まだ前座なのに、いいところを触ってもらってもいないのに、背中の辺りがぞくぞくしてしまう。触ってもらっているところから、じくじくと淡い感覚が広がっていって、頭がふわふわしてきてしまう。
……気持ちよく、なってしまう。
「アオイ……」
若葉よりも鮮やかな緑の瞳が俺を見つめている。ちょっぴり寂しそうで、ほのかな熱を宿した眼差し。気恥ずかしくて隠そうとしていたことを、全部言ってしまいたくなるような。
「好き……」
ぽろりとこぼれてしまっていた。途端に、彼の形のいい唇が綻んでいく。まるで、勝利を確信したかのように。
「何が、お好きなのでしょうか?」
大きく広がった透き通った羽をはためかせながら、針金のように細くて長い触角を揺らしながら、バアルが尋ねてくる。
飽きないんだろうな。いや、まぁ、気持ちは分かるけど。俺だって、何度だってバアルの口から言って欲しいこと、あるし。とはいえだ。
「……バアルに、触ってもらうの……っていうか、バアルの全部が大好きっ! 分かってるでしょっ、もー……」
やっぱり、ちょっとだけ恥ずかしい。恥ずかしいもんだから、ついやけくそ気味に言い放ってしまっていた。
1
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる