上 下
818 / 906

★【新婚旅行編】六日目:今宵は、此方の貴方様を愛させて頂きたく存じましたので

しおりを挟む
 調子に乗ってまた食むと、笑みまでこぼれてきた。くつくつと喉の奥で笑っているような音がして、その震えが触れ合っている唇から伝わってきた。

「んぅ……っ」

 お返しのつもりなのだろう。軽く舌先を吸われてしまった。思わず、変に上擦った声を漏らしてしまう。無理もないだろう。穏やかな心地よさに揺蕩っていたところで、強めの刺激をもらってしまったのだから。

 緩急をつけられると、たった一撃であろうとより強く感じてしまうもんなのだろうか。舌先だけでなく、頭の奥の方までジンジンと痺れているような気がしてくる。

「あ、ふぁ……」

 甘えるように擦り寄ってきていた唇が、不意に名残惜しそうに離れていった。バアルさんは、軽く上体を起こしてから、膝のところで引っかかっていたズボンをするりと俺の足から引き抜いていった。

 これもまた、お先に放り投げられて視界の外へと消えていった、パーカーやシャツと同じ運命を辿ることだろう。

 ああ、やっぱり。たおやかな手によって、白のズボンがぞんざいに放り投げられていってしまった。これで、俺が身に纏っているのは一枚のみ……って、あれ?

「パンツ、脱がさない、ですね……」

 いつもだったら、ズボンと一緒にズリ下ろしちゃうのに。

 俺は素直に尋ねていた。呼吸を整えることよりも優先していたなんて、よっぽど気になっていたんだろう。

「はい。今宵は、此方の貴方様を愛させて頂きたく存じましたので」

 はて……こちらの俺、とは?

 すぐに答えは返ってきたものの、余計に分からなくなってしまっていた。

 不思議そうな俺の反応すらも、バアルさんは楽しんでいるんだろうか。白い髭を蓄えた口元に浮かべている笑みを深くしている。目元にかかっていた髪を払ってくれてから、額に口づけてくれてから視線を落とした。

 丁度、俺のヘソ下辺りへと向けられている視線。艶っぽい眼差しに促されてから、ようやくだった。こちらの俺、と彼が言った意味を理解出来たのは。

「あ……き、着替えさせて、くれていたんだね……」

 俺が身に着けていた最後の一枚が、いつの間にやら変わっていた。お気に入りのボクサーパンツから、白地に小さなオレンジの花柄のブーメランパンツへと。

 それは、バアルさんと一緒に選んだ彼好みの下着の内の一枚。ウェストゴムのところに、ひらひらとあしらわれたフリルがチャームポイントなヤツだ。

 ……つまりは、昨日のレース生地のヤツを穿いていた俺が、あちらの俺ってこと、だよな。そういえば、こっちは見せてあげられなかったんだっけ。途中で俺がヘタっちゃったから。

 少し出遅れて納得していた俺の頬を、大きな手のひらが優しく撫でてくれる。

「ええ。私が好きな時に着替えさせて構わないと、許可を頂けておりました故」

 ふと、彫りの深い彼の顔が不安に沈んでいく。凛々しい眉を、金属のような光沢を帯びた触角を申し訳無さそうに下げながら、おずおずと尋ねてきた。

「……先に、貴方様に確認を取ってから、お召し替えさせて頂くべきでしたか?」

「い、いや、全っ然大歓迎だよっ……これからも、今みたいに……バアルの好きにしてくれると、嬉しい……」

 ちょっぴりの恥ずかしさには慣れないだろうし。多分、毎回びっくりはしちゃうと思う。それでも。

「……バアルに喜んでもらえるのが……俺にとっての一番だから……」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...