798 / 906
【新婚旅行編】六日目:特等席からの景色も素敵だけれど
しおりを挟む
「うわぁ……ホントだ……普通に巻くよりも花びらっぽさが増しましたね!」
「ふふ、ええ。二枚でも十分ではございますが……もう一枚巻き付けると、より大きなバラを作れますよ」
微笑みながら、くるくるくる。時々ひねってから、また、くるくるくる。あっという間に、お皿の上のバラよりも大きな緑のバラが、彼の手のひらの上で咲き誇った。
「わぁ……スゴい……」
「因みにではございますが……こういうものもございます」
大きなバラをお皿の上へと優しく預けてから、バアルさんは、また、何かを隠すように上から握った形で、俺の前へと手を差し出してくる。
なんとなく手を差し出してみれば、待ってましたと言わんばかりに目尻のシワを深めた。すぐさま、ちょこんと手のひらの上に乗せられた何か。そのサイズは、感覚的にはキュウリで出来たバラくらい。今度は何で作られた、何の形をした飾りなんだろう。
わくわくしながら見つめていると、俺の手を隠していた彼の白い手が、焦らすようにゆっくりと離れていった。ようやく見えた手の上には、オレンジの花弁で縁取られたお花が。この形って……
「わっ、え……ヒマワリ?」
「はい、此方は、ウインナーと卵焼きで。花びらがオレンジ色になるように、黄身の色が濃いものを使ってみました」
ぱたぱたと、はためく羽の音が賑やかになる。早く言いたくて仕方がなかったんだろう。緩やかに口角を持ち上げた唇は、俺が推理するよりも先に答えを教えてくれた。
「ウインナーと……卵焼き? あっ、確かに……」
よく見れば、真ん中の丸は包丁で断面に格子状の模様が付けられたらしいウインナー、花びらのオレンジは卵焼き。見た目が楽しいだけじゃなくて、普通に美味しそうな組み合わせだ。
「……でも、どうやって卵焼きが花びらみたいに?」
「此方も、キュウリのバラのように巻いただけでございますよ。ただ巻く前に予め、花びらに見えるように切り込みを入れておく必要がございますが」
「へぇ……」
整えられた彼の指先がウインナーと卵焼きで作られたヒマワリをお皿に、キュウリのバラの隣へとそっと置く。
バラとヒマワリ。俺達にとって特別な、俺達が互いに贈り合った魔力の花と同じ花。それらが仲良く並んでいるだけでも、自然と顔が緩みそうになってしまう。しかも、わざわざ色も寄せて、オレンジ色になるように卵の種類まで選んでくれただなんて。
「……ご一緒に、作ってみますか?」
うずうずし始めていた気持ちなんて、バアルさんにはお見通しのよう。手のひらを差し出してきてくれた彼の後ろには、すでに俺のお気に入りの緑のエプロンと三角巾がふわふわと浮いていた。
「はいっ」
大好きな手を取った途端、瞬きの間に俺はエプロンと三角巾を身に着けて、彼の隣に立っていた。俺達を隔てていた、キッチンカウンターなんてなかったみたいに。何らかの彼の華麗な術によって、あっさりと飛び越えさせられてしまっていた。
驚き見上げると、バアルさんが緩やかに口角を持ち上げる。胸の奥から、きゅっと音が聞こえた気がした。彼への好きが、また一つ積もった音が。
「……ありがとう、ございます」
「いえ」
さっきまでの特等席からの景色も素敵だった。でも、やっぱりバアルさんの隣が落ち着くな、なんて。柔らかく微笑む横顔を見つめながら、当たり前のことを噛み締めていた。
「ふふ、ええ。二枚でも十分ではございますが……もう一枚巻き付けると、より大きなバラを作れますよ」
微笑みながら、くるくるくる。時々ひねってから、また、くるくるくる。あっという間に、お皿の上のバラよりも大きな緑のバラが、彼の手のひらの上で咲き誇った。
「わぁ……スゴい……」
「因みにではございますが……こういうものもございます」
大きなバラをお皿の上へと優しく預けてから、バアルさんは、また、何かを隠すように上から握った形で、俺の前へと手を差し出してくる。
なんとなく手を差し出してみれば、待ってましたと言わんばかりに目尻のシワを深めた。すぐさま、ちょこんと手のひらの上に乗せられた何か。そのサイズは、感覚的にはキュウリで出来たバラくらい。今度は何で作られた、何の形をした飾りなんだろう。
わくわくしながら見つめていると、俺の手を隠していた彼の白い手が、焦らすようにゆっくりと離れていった。ようやく見えた手の上には、オレンジの花弁で縁取られたお花が。この形って……
「わっ、え……ヒマワリ?」
「はい、此方は、ウインナーと卵焼きで。花びらがオレンジ色になるように、黄身の色が濃いものを使ってみました」
ぱたぱたと、はためく羽の音が賑やかになる。早く言いたくて仕方がなかったんだろう。緩やかに口角を持ち上げた唇は、俺が推理するよりも先に答えを教えてくれた。
「ウインナーと……卵焼き? あっ、確かに……」
よく見れば、真ん中の丸は包丁で断面に格子状の模様が付けられたらしいウインナー、花びらのオレンジは卵焼き。見た目が楽しいだけじゃなくて、普通に美味しそうな組み合わせだ。
「……でも、どうやって卵焼きが花びらみたいに?」
「此方も、キュウリのバラのように巻いただけでございますよ。ただ巻く前に予め、花びらに見えるように切り込みを入れておく必要がございますが」
「へぇ……」
整えられた彼の指先がウインナーと卵焼きで作られたヒマワリをお皿に、キュウリのバラの隣へとそっと置く。
バラとヒマワリ。俺達にとって特別な、俺達が互いに贈り合った魔力の花と同じ花。それらが仲良く並んでいるだけでも、自然と顔が緩みそうになってしまう。しかも、わざわざ色も寄せて、オレンジ色になるように卵の種類まで選んでくれただなんて。
「……ご一緒に、作ってみますか?」
うずうずし始めていた気持ちなんて、バアルさんにはお見通しのよう。手のひらを差し出してきてくれた彼の後ろには、すでに俺のお気に入りの緑のエプロンと三角巾がふわふわと浮いていた。
「はいっ」
大好きな手を取った途端、瞬きの間に俺はエプロンと三角巾を身に着けて、彼の隣に立っていた。俺達を隔てていた、キッチンカウンターなんてなかったみたいに。何らかの彼の華麗な術によって、あっさりと飛び越えさせられてしまっていた。
驚き見上げると、バアルさんが緩やかに口角を持ち上げる。胸の奥から、きゅっと音が聞こえた気がした。彼への好きが、また一つ積もった音が。
「……ありがとう、ございます」
「いえ」
さっきまでの特等席からの景色も素敵だった。でも、やっぱりバアルさんの隣が落ち着くな、なんて。柔らかく微笑む横顔を見つめながら、当たり前のことを噛み締めていた。
1
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる