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【新婚旅行編】六日目:食べられるお花
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「ふふっ、ふは、もー……」
お返しをすれば、さらにお返しをと。繰り返しているうちに、笑い疲れるくらいにじゃれ合ってしまっていた。いつものように、コルテにタイムキーパーを頼んでいたら、チリンチリンっと鈴の音のような音を鳴らされて怒られてしまっていただろう。
乱れた息を整えていると、気恥ずかしそうに目を伏せたバアルさんが、また顎に指を当てて咳払いをした。
別に悪いことをしていた訳じゃない。時間だって、いっぱいあるんだし。でも、何でか俺までちょっぴり照れ臭くなってしまっていた。
「……では、参りましょうか」
「……うん」
頬を撫でてもらえた途端に、素肌を柔らかな風が撫でていった。瞬きの間に、上半身が真っ白な衣服に、ヨミ様から頂いたリボン付きのパーカーと、ネイビーの膝丈ズボンに着替えさせてもらえていた。
バアルさんも、俺と同じ配色のカジュアルリゾートコーデへと。白のVネックの上にネイビーのシャツを羽織り、同色のズボンを纏っていた。足首までの丈のズボンはスッキリとしているからか、しなやかで逞しい彼の長い足が、よりスタイリッシュにカッコよく見えた。
「失礼致します」
そわそわしてしまう微妙な空気の中でもバアルさんに抱き抱えてもらえると、あっという間に気持ちが踊り出す。引き締まった首に腕を絡めると、針金のように細長い触角がふわふわと揺れた。
「バアルが料理してるところ、見ていたいな。特等席に連れてって?」
「はい、愛しい妻のお望みのままに」
柔らかな笑みを浮かべた彼が、軽々と俺を抱き抱えながら寝室を後にしたのが、ほんの少し前のこと。
そうして、俺は彼の隣ではなく真正面から、彼のカッコいいエプロン姿を堪能していた訳で。
そんでもって、頭がお花畑になってしまったもんだから、思っていたことを全部伝えちゃっていた訳で。
「アオイ」
俯いていた顔を上げる前に、そっと視界に入ってきたのは、濃い緑と淡い黄緑のコントラストが美しい小さなお花。バアルさんの白い手のひらの真ん中に、バラの形をした花が、ちょこんと乗っていた。
花びら全体は淡い黄緑なのだけれども、輪郭が濃い緑で縁取られていて……って、いや、これ……花じゃない、よね? もしかして……
「え、可愛い、キレイ……これって、キュウリ……だよね?」
「はい、左様でございます」
満面笑顔の彼が俺の前に小さめの皿を置いてから、キュウリで出来た小さなバラをそこへと乗せた。真っ白なお皿の上で映える緑は、やっぱりキレイだ。ぱっと見、お花にしか見えない。
一体全体、どういう風にして作られたのだろうか。惹かれるがままにじっくり観察しようとしていると、気配りに長けた優しい彼は、早速お手本を実演して見せてくれる。
「このように、薄くスライスしたキュウリを使って作っていきます」
彼が見せてくれたのは数枚のキュウリ。縦に真っ二つに切られてから、スライスされたらしいそれらの内一枚を、整えられた指先がそっと摘み上げた。
視線の先にある一枚は、透けて見えそうなくらいに薄い。俺が作るんだったら、スライサーを使わないと絶対にムリな薄さだ。
「先ずは芯から。少し硬めにくるくるっと……」
「ああっ、そうやって、どんどん巻き付けていくってことですね?」
「はい。普通に巻き付けても宜しいのですが、このように途中で軽くひねってから巻き付けていくと……」
話しながら、バアルさんは巻いていた途中でキュウリをくるりとひねった。すると、ねじれて歪んだキュウリのひらひら具合がますますバラの花びらへと近づいた。
お返しをすれば、さらにお返しをと。繰り返しているうちに、笑い疲れるくらいにじゃれ合ってしまっていた。いつものように、コルテにタイムキーパーを頼んでいたら、チリンチリンっと鈴の音のような音を鳴らされて怒られてしまっていただろう。
乱れた息を整えていると、気恥ずかしそうに目を伏せたバアルさんが、また顎に指を当てて咳払いをした。
別に悪いことをしていた訳じゃない。時間だって、いっぱいあるんだし。でも、何でか俺までちょっぴり照れ臭くなってしまっていた。
「……では、参りましょうか」
「……うん」
頬を撫でてもらえた途端に、素肌を柔らかな風が撫でていった。瞬きの間に、上半身が真っ白な衣服に、ヨミ様から頂いたリボン付きのパーカーと、ネイビーの膝丈ズボンに着替えさせてもらえていた。
バアルさんも、俺と同じ配色のカジュアルリゾートコーデへと。白のVネックの上にネイビーのシャツを羽織り、同色のズボンを纏っていた。足首までの丈のズボンはスッキリとしているからか、しなやかで逞しい彼の長い足が、よりスタイリッシュにカッコよく見えた。
「失礼致します」
そわそわしてしまう微妙な空気の中でもバアルさんに抱き抱えてもらえると、あっという間に気持ちが踊り出す。引き締まった首に腕を絡めると、針金のように細長い触角がふわふわと揺れた。
「バアルが料理してるところ、見ていたいな。特等席に連れてって?」
「はい、愛しい妻のお望みのままに」
柔らかな笑みを浮かべた彼が、軽々と俺を抱き抱えながら寝室を後にしたのが、ほんの少し前のこと。
そうして、俺は彼の隣ではなく真正面から、彼のカッコいいエプロン姿を堪能していた訳で。
そんでもって、頭がお花畑になってしまったもんだから、思っていたことを全部伝えちゃっていた訳で。
「アオイ」
俯いていた顔を上げる前に、そっと視界に入ってきたのは、濃い緑と淡い黄緑のコントラストが美しい小さなお花。バアルさんの白い手のひらの真ん中に、バラの形をした花が、ちょこんと乗っていた。
花びら全体は淡い黄緑なのだけれども、輪郭が濃い緑で縁取られていて……って、いや、これ……花じゃない、よね? もしかして……
「え、可愛い、キレイ……これって、キュウリ……だよね?」
「はい、左様でございます」
満面笑顔の彼が俺の前に小さめの皿を置いてから、キュウリで出来た小さなバラをそこへと乗せた。真っ白なお皿の上で映える緑は、やっぱりキレイだ。ぱっと見、お花にしか見えない。
一体全体、どういう風にして作られたのだろうか。惹かれるがままにじっくり観察しようとしていると、気配りに長けた優しい彼は、早速お手本を実演して見せてくれる。
「このように、薄くスライスしたキュウリを使って作っていきます」
彼が見せてくれたのは数枚のキュウリ。縦に真っ二つに切られてから、スライスされたらしいそれらの内一枚を、整えられた指先がそっと摘み上げた。
視線の先にある一枚は、透けて見えそうなくらいに薄い。俺が作るんだったら、スライサーを使わないと絶対にムリな薄さだ。
「先ずは芯から。少し硬めにくるくるっと……」
「ああっ、そうやって、どんどん巻き付けていくってことですね?」
「はい。普通に巻き付けても宜しいのですが、このように途中で軽くひねってから巻き付けていくと……」
話しながら、バアルさんは巻いていた途中でキュウリをくるりとひねった。すると、ねじれて歪んだキュウリのひらひら具合がますますバラの花びらへと近づいた。
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