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【新婚旅行編】六日目:俺の方から彼の姿が余すことなくバッチリ見えているということは
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くつ、くつ、くつ、くつ。トン、トン、トン。
卵を茹でている音、瑞々しいキュウリを斜めにスライスしていく音。すぐ目の前のキッチンから聞こえてくる音は、どれもが軽やかで小気味いい。
ずっと聞いていられるような、ずっと聞いていたいような。落ち着くんだけれども、わくわくするような、そんな音。
楽しませてくれているのは、何も耳だけじゃあない。一定のリズムで止まるとこなく動いている包丁。その扱いも見事なんだけれども、ほんの少しもズレることなく全く同じ幅でスライスされていく様といったら。
見ているだけで気持ちがいい。ついカウンター席から身を乗り出して、拍手を送りたくなってしまう。
いや、もう何回も送っちゃってるんだけどさ。切る食材が変わった数だけ。その度に白い頬を染めながら、透き通った羽をはためかせながら、擽ったそうに微笑む彼が可愛くて。
そう、そうなんだ。彼の、バアルさんの手際の良さも見惚れちゃうんだけど、彼自身にも。なんと言っても、その立ち姿がカッコいいんだよ。
モデルさんみたいに背筋がピンと伸びているとことか。高い位置にある括れた腰にキュッと巻いている、丈の長い黒のエプロンがバッチリ似合っているところとか。軽く捲っている袖からは逞しい腕が、浮き出ている筋肉のラインが、見えちゃってるところも。
それから、楽しそうな横顔も。
白い髭を蓄えた口元は、ずっと柔らかく綻びっぱなし。形の良い唇からは、今にも鼻歌がこぼれそう。
手元を見ているから少し伏せ目がちになっているから、睫毛の長さをより実感するっていうか。日差しに照らされた白い睫毛が、輪郭が透き通るくらいにキラキラしていて。
ぱちりと視線がぶつかった。
銀の糸のようにキレイな睫毛に隠れていた、鮮やかな緑の瞳が不意にこちらへと向いたのだ。
「ふふ……」
よっぽど間の抜けた顔を晒してしまったのかもしれない。目尻のシワを深めたバアルさんは、いまだにくすくすと笑みをこぼしている。手を止めて、シャープな顎に指を添えながら。
ひとしきり笑い終えたところで、バアルさんは真っ直ぐに伸びた背を軽く屈めて銀のシンクから身を乗り出してきた。
コの字型になっているこちらのキッチンは、俺が座っているカウンター席と一体になっている。
火を使う場合は奥のスペースに行かないといけないので、彼の後ろ姿しか見ることが出来ない。でも、今いるカウンター席の前にある作業スペースならば、少し背の高い椅子に座れば、あら素敵。魅力あふれる彼のエプロン姿から、職人さんな手元まで、バッチリ眺めることが出来てしまうのだ。
ということは、つまり、だらしなくニヤけてしまっている俺の姿も、彼からはバッチリ見えてしまっていたってことで。
オールバックに撫でつけた、白い髪の生え際から生えている二本の触角が揺れている。逞しく、服越しでも分厚さが分かる胸元に手を添えて、バアルさんはお手本のようにキレイなお辞儀を披露した。
「お褒めに預かり光栄に存じます。貴方様の琥珀色の瞳も先程からより一層輝いていらして、誠に美しいですよ」
「ふぇっ……あ、ありがとう……って」
バアルさんが返してきたのは、さっきから一人で悶え続けていた俺の心の中の内容そのもの。術でも使わなけりゃあ知る由もないハズ。
でも、バアルさんが、使う訳がない。何の理由もなく、俺に確認を取ることもなく。ということは……
「い、いつからですか? どの辺から、俺、言っちゃってました?」
悲しいことに、毎度お馴染みのように、ダダ漏れになってしまっていたってことに違いない。お花が咲き乱れた頭の中が、ふにゃふにゃになっている口からまるっと。
残念なことに、違いなかったようだ。
卵を茹でている音、瑞々しいキュウリを斜めにスライスしていく音。すぐ目の前のキッチンから聞こえてくる音は、どれもが軽やかで小気味いい。
ずっと聞いていられるような、ずっと聞いていたいような。落ち着くんだけれども、わくわくするような、そんな音。
楽しませてくれているのは、何も耳だけじゃあない。一定のリズムで止まるとこなく動いている包丁。その扱いも見事なんだけれども、ほんの少しもズレることなく全く同じ幅でスライスされていく様といったら。
見ているだけで気持ちがいい。ついカウンター席から身を乗り出して、拍手を送りたくなってしまう。
いや、もう何回も送っちゃってるんだけどさ。切る食材が変わった数だけ。その度に白い頬を染めながら、透き通った羽をはためかせながら、擽ったそうに微笑む彼が可愛くて。
そう、そうなんだ。彼の、バアルさんの手際の良さも見惚れちゃうんだけど、彼自身にも。なんと言っても、その立ち姿がカッコいいんだよ。
モデルさんみたいに背筋がピンと伸びているとことか。高い位置にある括れた腰にキュッと巻いている、丈の長い黒のエプロンがバッチリ似合っているところとか。軽く捲っている袖からは逞しい腕が、浮き出ている筋肉のラインが、見えちゃってるところも。
それから、楽しそうな横顔も。
白い髭を蓄えた口元は、ずっと柔らかく綻びっぱなし。形の良い唇からは、今にも鼻歌がこぼれそう。
手元を見ているから少し伏せ目がちになっているから、睫毛の長さをより実感するっていうか。日差しに照らされた白い睫毛が、輪郭が透き通るくらいにキラキラしていて。
ぱちりと視線がぶつかった。
銀の糸のようにキレイな睫毛に隠れていた、鮮やかな緑の瞳が不意にこちらへと向いたのだ。
「ふふ……」
よっぽど間の抜けた顔を晒してしまったのかもしれない。目尻のシワを深めたバアルさんは、いまだにくすくすと笑みをこぼしている。手を止めて、シャープな顎に指を添えながら。
ひとしきり笑い終えたところで、バアルさんは真っ直ぐに伸びた背を軽く屈めて銀のシンクから身を乗り出してきた。
コの字型になっているこちらのキッチンは、俺が座っているカウンター席と一体になっている。
火を使う場合は奥のスペースに行かないといけないので、彼の後ろ姿しか見ることが出来ない。でも、今いるカウンター席の前にある作業スペースならば、少し背の高い椅子に座れば、あら素敵。魅力あふれる彼のエプロン姿から、職人さんな手元まで、バッチリ眺めることが出来てしまうのだ。
ということは、つまり、だらしなくニヤけてしまっている俺の姿も、彼からはバッチリ見えてしまっていたってことで。
オールバックに撫でつけた、白い髪の生え際から生えている二本の触角が揺れている。逞しく、服越しでも分厚さが分かる胸元に手を添えて、バアルさんはお手本のようにキレイなお辞儀を披露した。
「お褒めに預かり光栄に存じます。貴方様の琥珀色の瞳も先程からより一層輝いていらして、誠に美しいですよ」
「ふぇっ……あ、ありがとう……って」
バアルさんが返してきたのは、さっきから一人で悶え続けていた俺の心の中の内容そのもの。術でも使わなけりゃあ知る由もないハズ。
でも、バアルさんが、使う訳がない。何の理由もなく、俺に確認を取ることもなく。ということは……
「い、いつからですか? どの辺から、俺、言っちゃってました?」
悲しいことに、毎度お馴染みのように、ダダ漏れになってしまっていたってことに違いない。お花が咲き乱れた頭の中が、ふにゃふにゃになっている口からまるっと。
残念なことに、違いなかったようだ。
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