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【新婚旅行編】六日目:とある王様は手にした幸せを二度と手放さない
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ようやく気が付いたらしいアオイ殿の顔は、トマトのように真っ赤っ赤。バアルの腕の中で、小さくて可愛らしい身体を更に縮こめている。けれども、膝の上から退くことはしない。寧ろ縋るように、バアルの分厚い胸板に頬を寄せようとしている。
そんなアオイ殿を見つめながら、バアルはご満悦そう。蕩けるような笑顔を浮かべて、彼の小さな頭をよしよしと撫でている。やはり、分かっていて見せつけておったな。ナイスだぞ!
妙に静まりかけていた空気が和らいでいく。どこか心配そうに見守っていた父上達も、ああ、そういうことか、と言わんばかりに頬を綻ばせた。
「あ……いや、その……今日はっ、特別なんです!」
「特別……?」
何やら弁解をし始めたアオイ殿の言葉に、皆の疑問の声が重なった。バアルですら、少し不思議そうに小首を傾げていた。しかし、何かを察したのか、すぐにまた背中の羽をはためかせていた。それも風を切るように。
「実は、今日は……バアルさんに、とびきり甘やかしてもらえる日でして……」
「バアルに……とびきり……」
今度は私の呟きに、誰かの声が重なった。
「は、はい……約束、してもらえたんです……ね?」
「っ……ええ、ええ」
おずおずと見上げてきたアオイ殿を、バアルがその長い腕で勢いよく抱き締めた。
瞬間、花が咲くように嬉しそうにアオイ殿が微笑んで、自らバアルに擦り寄っていく。幸せそうに目を伏せたバアルもまたアオイ殿の目線に合わせるように背を屈め、額を寄せた。
ああ、何とも愛らしいことか。勝手に口角が上がっていくのが分かる。喜びが込み上げてきて仕方がない。
「ふはっ、ははは、はっはっはっ、そうであったか! それは確かに特別であるな!」
「うむ、特別じゃのう」
「ええ、特別ですから、何も問題はございませんね!」
「すっごく素敵だと思います!」
「全くですね。よろしければ、特別の記念にお写真を撮らせて頂いても?」
「は、はぃ……どうぞ?」
自慢の顎髭を撫でながら、感慨深げに瞳を細めている父上。ソファーを立ち、前のめりになって拳を握るレタリーとグリム。そして、ちゃっかりと撮影許可を求めるクロウ。こぼれる笑みを我慢出来なかった私に続いて皆が同意する。
アオイ殿は不思議そうにしながらも、嬉しそうにバアルと一緒に皆の前で、互いに身を寄せ合ったままとびきりの笑顔で応え始めた。
どうやら、私が思っていた以上に今回の旅行で夫婦としての二人の絆が深まってきているようだ。ほんの少し前までは、私達が構わぬと言ってもアオイ殿が照れてしまって、バアルから離れてしまっておったんだがな。それはそれで微笑ましくはあったが。
しかし、こうも自然に対応しているとなると。バアルはともかく、アオイ殿にはまだ自覚はないらしい。それはそれで彼らしいといったところか。
またしても、ぼんやりと賑やかな皆の輪の外で幸せな光景を眺めてしまっていると、アオイ殿と目が合った。
「ヨミ様」
「うむ」
「折角ですから、皆で写真を……その後で良いんで、気に入ってくれたサンドイッチとプリン、教えて下さいね」
はにかむ笑顔を浮かべたアオイ殿が指差す先には、レタリーの投影石が浮かんでいた。皆よりも断然身体の大きな父上もはみ出してしまわぬようにと、上の方へと位置取っている。
一番広い、全員が並んで座れるソファーへと、すでに皆は移動していた。後は私と、私に向かって微笑み、手を差し出しているアオイ殿とバアルだけ。
「うむっ! 私が特に気に入ったのはな、トマトとハンバーグとチーズのものと、紅茶味のプリン……それから気に入ったものは此方から此方まで全部の品だ!」
「ふふ……えー、それじゃあ全部になっちゃいますよ?」
「仕方がないであろう? 貴殿ら夫婦が作ってくれたものは……私にとって全てが美味しく、特別であるからな!」
「お褒め頂き、身に余る光栄に存じます……」
右手で小さな手と繋ぎ、左手で大きな手と繋ぐ。両手で繋いでいる幸せを、もう二度と、決して手放さないように、私はそっと力を込めた。
そんなアオイ殿を見つめながら、バアルはご満悦そう。蕩けるような笑顔を浮かべて、彼の小さな頭をよしよしと撫でている。やはり、分かっていて見せつけておったな。ナイスだぞ!
妙に静まりかけていた空気が和らいでいく。どこか心配そうに見守っていた父上達も、ああ、そういうことか、と言わんばかりに頬を綻ばせた。
「あ……いや、その……今日はっ、特別なんです!」
「特別……?」
何やら弁解をし始めたアオイ殿の言葉に、皆の疑問の声が重なった。バアルですら、少し不思議そうに小首を傾げていた。しかし、何かを察したのか、すぐにまた背中の羽をはためかせていた。それも風を切るように。
「実は、今日は……バアルさんに、とびきり甘やかしてもらえる日でして……」
「バアルに……とびきり……」
今度は私の呟きに、誰かの声が重なった。
「は、はい……約束、してもらえたんです……ね?」
「っ……ええ、ええ」
おずおずと見上げてきたアオイ殿を、バアルがその長い腕で勢いよく抱き締めた。
瞬間、花が咲くように嬉しそうにアオイ殿が微笑んで、自らバアルに擦り寄っていく。幸せそうに目を伏せたバアルもまたアオイ殿の目線に合わせるように背を屈め、額を寄せた。
ああ、何とも愛らしいことか。勝手に口角が上がっていくのが分かる。喜びが込み上げてきて仕方がない。
「ふはっ、ははは、はっはっはっ、そうであったか! それは確かに特別であるな!」
「うむ、特別じゃのう」
「ええ、特別ですから、何も問題はございませんね!」
「すっごく素敵だと思います!」
「全くですね。よろしければ、特別の記念にお写真を撮らせて頂いても?」
「は、はぃ……どうぞ?」
自慢の顎髭を撫でながら、感慨深げに瞳を細めている父上。ソファーを立ち、前のめりになって拳を握るレタリーとグリム。そして、ちゃっかりと撮影許可を求めるクロウ。こぼれる笑みを我慢出来なかった私に続いて皆が同意する。
アオイ殿は不思議そうにしながらも、嬉しそうにバアルと一緒に皆の前で、互いに身を寄せ合ったままとびきりの笑顔で応え始めた。
どうやら、私が思っていた以上に今回の旅行で夫婦としての二人の絆が深まってきているようだ。ほんの少し前までは、私達が構わぬと言ってもアオイ殿が照れてしまって、バアルから離れてしまっておったんだがな。それはそれで微笑ましくはあったが。
しかし、こうも自然に対応しているとなると。バアルはともかく、アオイ殿にはまだ自覚はないらしい。それはそれで彼らしいといったところか。
またしても、ぼんやりと賑やかな皆の輪の外で幸せな光景を眺めてしまっていると、アオイ殿と目が合った。
「ヨミ様」
「うむ」
「折角ですから、皆で写真を……その後で良いんで、気に入ってくれたサンドイッチとプリン、教えて下さいね」
はにかむ笑顔を浮かべたアオイ殿が指差す先には、レタリーの投影石が浮かんでいた。皆よりも断然身体の大きな父上もはみ出してしまわぬようにと、上の方へと位置取っている。
一番広い、全員が並んで座れるソファーへと、すでに皆は移動していた。後は私と、私に向かって微笑み、手を差し出しているアオイ殿とバアルだけ。
「うむっ! 私が特に気に入ったのはな、トマトとハンバーグとチーズのものと、紅茶味のプリン……それから気に入ったものは此方から此方まで全部の品だ!」
「ふふ……えー、それじゃあ全部になっちゃいますよ?」
「仕方がないであろう? 貴殿ら夫婦が作ってくれたものは……私にとって全てが美味しく、特別であるからな!」
「お褒め頂き、身に余る光栄に存じます……」
右手で小さな手と繋ぎ、左手で大きな手と繋ぐ。両手で繋いでいる幸せを、もう二度と、決して手放さないように、私はそっと力を込めた。
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