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【新婚旅行編】六日目:自惚れちゃっても、いいんだよね
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……幸せだ。
「……ああ、アオイ……おはようございます……」
目を開ければ、大好きな微笑みが眠りにつく前と変わらず一番側に居てくれて。温かい手のひらで頭を撫でてくれて、おはようのキスを送ってくれて。
「……おはよう、バアル」
俺が名前を呼ぶと、お返しのキスをすると、それはそれは嬉しそうに笑みを深めてくれるんだから。
彼の頭の上で、ふわふわと揺れている影が二本。少し寝癖のついた髪の生え際から生えているそれは、先がくるっと丸く反った触角は、針金のように細くて長い。ひっきりなしに左右に揺れている様は、ご機嫌そのものだ。
「お加減はいかがでしょうか?」
「ん、大丈夫。バアルの術のお陰でスッキリしてる……ちゃんと疲れが取れてるよ」
寝起き直後の気怠さはあれど、それ以外は。特に重怠い感じもしないどころか、手足も腰も入念にマッサージを施してもらったみたいに軽い。流石の腕前だ。
俺の返答に、微笑んでいる瞳を僅かに曇らせていた不安が瞬く間に消えていく。安心したように目尻のシワを深めてから、額に口づけてくれた。柔らかな感触の後に、少し伸びているお髭が掠めてちょっぴり擽ったい。
「それは何より……では、お飲み物は……冷たいお水など、お召し上がりになられますか?」
「うん、欲しいな、お水」
「畏まりました」
彼が起き上がれるように、枕代わりにしていた頼もしい腕から頬を離して身体を起こす。起こそうとしていたところで、長く引き締まった腕から先を越された。
上げかけていた上体を、筋肉質な彼の腕が軽々と抱き上げてしまったのだ。
ひょいっとぬいぐるみでも抱えるように持ち上げられた俺は、ごくごく自然に彼の腕の中へと収まった。後ろから抱き締めてもらう形で、お膝の上に乗せてもらえた。
「バアル……ん……っ」
顔が見たくて振り向いたところで、口に柔らかな温もりが擦り寄ってきた。待ち構えていたみたい。触れ合っている形の良い唇が、悪戯っぽく微笑んでいる。
軽やかなリップ音を鳴らしながら、ついばむよう交わしてくれている。可愛い触れ合いの最中でも、バアルは楽しそうな笑みをくすくす漏らしているもんだから、釣られて俺も笑ってしまう。楽しくなってしまう。
「ふは、んっ、ふ……ふふふ……」
……甘えてくれているんだよな、これって。
新婚旅行の前も甘えてはくれていた。いつも大切な誰かを優先してしまう、優しい彼なりに精一杯。
けれども、今はもっと近くになれているような。無事に夫婦になれて、二人っきりの時間を重ねている内にもっと俺に心を許してくれているような。
自惚れちゃってもいいのかな? ……いいんだよね。
「……アオイ?」
「ん……嬉しいなって……いっぱいバアルに甘えてもらえているから、愛してもらえているから……」
無意識だったのかな。不思議そうに俺を見ていた瞳が、今気づいたみたいにはたと見開かれた。途端にきめ細やかな白い頬が、ぽぽぽと桜色に染まっていく。
「……左様で、ございましたか」
困ったように泳いでいた瞳が、照れ臭そうに伏せられた。宝石よりもキレイに煌めいていた緑の瞳が、長い睫毛の下に隠れてしまった。
バアルは気恥ずかしそうに凛々しい眉を下げているものの、このまま甘えてくれるみたい。抱き締めてくれている腕にそっと力を込めて、ますます俺を抱き寄せてくれてから頬をぴたりと寄せてきた。
「うんっ……ふふ……」
すべすべの頬に俺からも擦り寄っていると、視界の端で何かが動いた。
目だけをそちらに向けてみると、いつから浮いていたのかペアのグラスと、水で満たされたピッチャーが、所在なさ気にウロウロ、ふわふわ。俺達の前で、今か今かと出番を待ってくれていた。
「続きは、お水飲んでからにしようか。せっかくバアルが用意してくれたんだからさ」
バアルのことだから、保存の術をかけてあるとは思うけど。ぬるくはならないだろうけどさ。
「……ええ、そう致しましょうか」
「……ああ、アオイ……おはようございます……」
目を開ければ、大好きな微笑みが眠りにつく前と変わらず一番側に居てくれて。温かい手のひらで頭を撫でてくれて、おはようのキスを送ってくれて。
「……おはよう、バアル」
俺が名前を呼ぶと、お返しのキスをすると、それはそれは嬉しそうに笑みを深めてくれるんだから。
彼の頭の上で、ふわふわと揺れている影が二本。少し寝癖のついた髪の生え際から生えているそれは、先がくるっと丸く反った触角は、針金のように細くて長い。ひっきりなしに左右に揺れている様は、ご機嫌そのものだ。
「お加減はいかがでしょうか?」
「ん、大丈夫。バアルの術のお陰でスッキリしてる……ちゃんと疲れが取れてるよ」
寝起き直後の気怠さはあれど、それ以外は。特に重怠い感じもしないどころか、手足も腰も入念にマッサージを施してもらったみたいに軽い。流石の腕前だ。
俺の返答に、微笑んでいる瞳を僅かに曇らせていた不安が瞬く間に消えていく。安心したように目尻のシワを深めてから、額に口づけてくれた。柔らかな感触の後に、少し伸びているお髭が掠めてちょっぴり擽ったい。
「それは何より……では、お飲み物は……冷たいお水など、お召し上がりになられますか?」
「うん、欲しいな、お水」
「畏まりました」
彼が起き上がれるように、枕代わりにしていた頼もしい腕から頬を離して身体を起こす。起こそうとしていたところで、長く引き締まった腕から先を越された。
上げかけていた上体を、筋肉質な彼の腕が軽々と抱き上げてしまったのだ。
ひょいっとぬいぐるみでも抱えるように持ち上げられた俺は、ごくごく自然に彼の腕の中へと収まった。後ろから抱き締めてもらう形で、お膝の上に乗せてもらえた。
「バアル……ん……っ」
顔が見たくて振り向いたところで、口に柔らかな温もりが擦り寄ってきた。待ち構えていたみたい。触れ合っている形の良い唇が、悪戯っぽく微笑んでいる。
軽やかなリップ音を鳴らしながら、ついばむよう交わしてくれている。可愛い触れ合いの最中でも、バアルは楽しそうな笑みをくすくす漏らしているもんだから、釣られて俺も笑ってしまう。楽しくなってしまう。
「ふは、んっ、ふ……ふふふ……」
……甘えてくれているんだよな、これって。
新婚旅行の前も甘えてはくれていた。いつも大切な誰かを優先してしまう、優しい彼なりに精一杯。
けれども、今はもっと近くになれているような。無事に夫婦になれて、二人っきりの時間を重ねている内にもっと俺に心を許してくれているような。
自惚れちゃってもいいのかな? ……いいんだよね。
「……アオイ?」
「ん……嬉しいなって……いっぱいバアルに甘えてもらえているから、愛してもらえているから……」
無意識だったのかな。不思議そうに俺を見ていた瞳が、今気づいたみたいにはたと見開かれた。途端にきめ細やかな白い頬が、ぽぽぽと桜色に染まっていく。
「……左様で、ございましたか」
困ったように泳いでいた瞳が、照れ臭そうに伏せられた。宝石よりもキレイに煌めいていた緑の瞳が、長い睫毛の下に隠れてしまった。
バアルは気恥ずかしそうに凛々しい眉を下げているものの、このまま甘えてくれるみたい。抱き締めてくれている腕にそっと力を込めて、ますます俺を抱き寄せてくれてから頬をぴたりと寄せてきた。
「うんっ……ふふ……」
すべすべの頬に俺からも擦り寄っていると、視界の端で何かが動いた。
目だけをそちらに向けてみると、いつから浮いていたのかペアのグラスと、水で満たされたピッチャーが、所在なさ気にウロウロ、ふわふわ。俺達の前で、今か今かと出番を待ってくれていた。
「続きは、お水飲んでからにしようか。せっかくバアルが用意してくれたんだからさ」
バアルのことだから、保存の術をかけてあるとは思うけど。ぬるくはならないだろうけどさ。
「……ええ、そう致しましょうか」
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