778 / 906
【新婚旅行編】五日目:自信満々、絶好調
しおりを挟む
前のめりな彼には、俺の緊張の鼓動は聞こえてはいないのだろう。ぱたぱたとはためく羽の音を賑やかにしながら、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
大人の余裕に満ちた穏やかな笑みはご顕在だ。だというのに、そこかしこから喜びが滲んでいて。
「っ……うんっ! バアルに喜んでもらえると、俺、すっごく嬉しいからさ……遠慮しないで、いっぱいお願いして欲しいな……」
俺まで前のめりに頷いていた。抱き締めてくれている彼の腕をぎゅっと掴んでしまっていたんだ。
当然、俺くらいの力では、バアルにとってはどうということもない。白い髭を蓄えた口元に浮かぶ笑みを深めながら、おずおずと切り出してきた。
「では……また、お召しになって頂きたい、服があるのですが……」
「うん……なに?」
着て欲しいって……エッチなの、かな。やっぱり。花柄の方はまだ旅行中には穿けていないし、レースのヤツは初日に見せられただけだもんな。
……嬉しいな。気に入ってくれて。まだ、ちょっとだけ恥ずかしいけど、頑張ろう。いっぱいバアルに喜んでもらう為に。
だらしなく緩みかけていた顔を引き締めて、気合いを入れていたのだけれども。
予想外だった。頬をほんのりと染めながら、珍しく遠回しな言い方をしてきた彼の言葉は。
「ホワイトデーの時に、お召しになって頂き……その御姿が、誠に愛らしかったものですから……」
ホワイトデー……? エッチな下着じゃなくて? あれ? そん時に俺、何を着て。
「あっ、もしかして、彼ジャケ?」
そういえば、気に入ってくれてたんだっけ。元はといえば、俺からのお願いだったんだけど。バアルが普段着ている執事服のジャケットを着てみたいって。
それで、そのまま……着させてもらったまま……致してもらっちゃったんだよな。
「はい、この老骨めのジャケットを、素肌に羽織った貴方様の御姿を見させて頂きたく……」
「うん、いいよ……でも、それだけで、いいの?」
まだ俺の口は絶好調のようだった。それから気持ちの方も。なんせ自信満々だったのだ。絶対に喜んでもらえるっていう確信に満ちていたんだから。
「……と、申しますと?」
俺の顔を覗き込むように見つめてくる彼は、少しだけ驚いているようだった。けれども、その眼差しには同じくらいの期待を宿しているように見えた。
高鳴る鼓動が頭の中にまで響いてくる。彼の腕に添えているても、切り出した声もちょっとだけ震えてしまっていた。
「……下着……エッチなの、じゃなくて、いいのかなって……あの時は、普通のボクサーパンツだったから……っ」
また、筋肉質な長い腕にぎゅっと力が込められた。しっとり濡れた弾力のある温もりが背中に当たってしまう。全身を包み込まれてしまう。
「バアル……」
少し緩んだかと思えば、熱のこもった眼差しとかち合った。バスチェアには座ったままなのに、いつの間にやら彼と向き合う形になっている。
水晶のように透き通った四枚の羽が、俺達を覆い隠すように大きく広がっていく。たおやかな手が、俺の手を包み込むように握り締めた。
「……緑のレースでお願い致します」
「うん……もし、花柄の方も見たくなったら言っ」
「では、途中でお召し替えさせて頂いても?」
食い気味だったのは言葉だけじゃ。鍛え抜かれた長身も、ずいっと前のめりに近づいていた。後ほんの少しで、高い鼻先と触れ合ってしまいそう。
「ふふ……うん。バアルの好きなタイミングで、着替えさせて欲しいな」
「……身に余る光栄に存じます」
委ねるように目を閉じれば、俺の望み通りに柔らかな温もりが唇に触れてくれた。
離れていってしまいそうなタイミングで、そっと開いてみると緑の瞳が微笑んでいる。
何だか嬉しくて、擽ったくて、俺はつい笑ってしまっていた。バアルも釣られたように笑みをこぼしていた。
大人の余裕に満ちた穏やかな笑みはご顕在だ。だというのに、そこかしこから喜びが滲んでいて。
「っ……うんっ! バアルに喜んでもらえると、俺、すっごく嬉しいからさ……遠慮しないで、いっぱいお願いして欲しいな……」
俺まで前のめりに頷いていた。抱き締めてくれている彼の腕をぎゅっと掴んでしまっていたんだ。
当然、俺くらいの力では、バアルにとってはどうということもない。白い髭を蓄えた口元に浮かぶ笑みを深めながら、おずおずと切り出してきた。
「では……また、お召しになって頂きたい、服があるのですが……」
「うん……なに?」
着て欲しいって……エッチなの、かな。やっぱり。花柄の方はまだ旅行中には穿けていないし、レースのヤツは初日に見せられただけだもんな。
……嬉しいな。気に入ってくれて。まだ、ちょっとだけ恥ずかしいけど、頑張ろう。いっぱいバアルに喜んでもらう為に。
だらしなく緩みかけていた顔を引き締めて、気合いを入れていたのだけれども。
予想外だった。頬をほんのりと染めながら、珍しく遠回しな言い方をしてきた彼の言葉は。
「ホワイトデーの時に、お召しになって頂き……その御姿が、誠に愛らしかったものですから……」
ホワイトデー……? エッチな下着じゃなくて? あれ? そん時に俺、何を着て。
「あっ、もしかして、彼ジャケ?」
そういえば、気に入ってくれてたんだっけ。元はといえば、俺からのお願いだったんだけど。バアルが普段着ている執事服のジャケットを着てみたいって。
それで、そのまま……着させてもらったまま……致してもらっちゃったんだよな。
「はい、この老骨めのジャケットを、素肌に羽織った貴方様の御姿を見させて頂きたく……」
「うん、いいよ……でも、それだけで、いいの?」
まだ俺の口は絶好調のようだった。それから気持ちの方も。なんせ自信満々だったのだ。絶対に喜んでもらえるっていう確信に満ちていたんだから。
「……と、申しますと?」
俺の顔を覗き込むように見つめてくる彼は、少しだけ驚いているようだった。けれども、その眼差しには同じくらいの期待を宿しているように見えた。
高鳴る鼓動が頭の中にまで響いてくる。彼の腕に添えているても、切り出した声もちょっとだけ震えてしまっていた。
「……下着……エッチなの、じゃなくて、いいのかなって……あの時は、普通のボクサーパンツだったから……っ」
また、筋肉質な長い腕にぎゅっと力が込められた。しっとり濡れた弾力のある温もりが背中に当たってしまう。全身を包み込まれてしまう。
「バアル……」
少し緩んだかと思えば、熱のこもった眼差しとかち合った。バスチェアには座ったままなのに、いつの間にやら彼と向き合う形になっている。
水晶のように透き通った四枚の羽が、俺達を覆い隠すように大きく広がっていく。たおやかな手が、俺の手を包み込むように握り締めた。
「……緑のレースでお願い致します」
「うん……もし、花柄の方も見たくなったら言っ」
「では、途中でお召し替えさせて頂いても?」
食い気味だったのは言葉だけじゃ。鍛え抜かれた長身も、ずいっと前のめりに近づいていた。後ほんの少しで、高い鼻先と触れ合ってしまいそう。
「ふふ……うん。バアルの好きなタイミングで、着替えさせて欲しいな」
「……身に余る光栄に存じます」
委ねるように目を閉じれば、俺の望み通りに柔らかな温もりが唇に触れてくれた。
離れていってしまいそうなタイミングで、そっと開いてみると緑の瞳が微笑んでいる。
何だか嬉しくて、擽ったくて、俺はつい笑ってしまっていた。バアルも釣られたように笑みをこぼしていた。
11
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる