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【新婚旅行編】四日目:運命の赤い糸、じゃないけれど

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「……閉園時間ギリギリになっちゃったけど、最後に会えて良かったです。ドラゴンさんのバアルさんに」

「……左様でございますね」

「アオイも最初は俺達と離れるの、ぐずっちゃってたけど、ドラゴンさんのバアルさんに会った途端にご機嫌になって、すっかり懐いちゃったし……」

 パークを去る際、ドラゴンさん達はそれぞれ俺とバアルさんとの別れを惜しんでくれた。が、中でも俺の名をもらってくれた、白いドラゴンのアオイの惜しみ方は凄まじいものだった。

 黒いドラゴンさんのヨミさんへと手渡そうとしても、その小さな手足に一体どれほどの力を秘めているのかビクともしない。俺の服をしっかと掴んで離れやしなかった。

 バアルさんやドラゴンさん達が、また来るからと、二度と会えない訳じゃないと、説得を試みてもさっぱり。余計に悲しそうな声で鳴きながら、俺の胸元に縋りつくばかりだった。

 だというのに、緑色のドラゴンさんが、バアルさんの名前をもらったというドラゴンさんが、担当していた空中遊泳ツアーが終わって駆けつけた途端にだった。

 丸い目を潤ませながら、散々ぴーぴー寂しそうに鳴いていたってのに。ドラゴンさんのバアルさんが、アオイに向かって鼻を寄せた瞬間にピタリ。短い尻尾も小さな羽もブンブンパタパタさせながら、俺から離れていったのだから。ドラゴンさんのバアルさんの腕の中で、オヘソを見せながら安心感丸出しで眠りについたのだから。

 なんか、スッゴい照れくさかった。ドラゴンの皆さんからの温かい眼差しが擽ったかった。いくら名前が一緒だからって、俺自身のことじゃあないのにさ。

 そりゃあ、アオイとお互いに相性が良かったらなって、仲良くなれたら良いなとは思っていたけどさ。ドラゴンさんのヨミさんから、ドラゴンさんのバアルさんの話を聞いた時から。

「……なんか、有るんですかね? そういうの……嬉しいですけど」

 運命の赤い糸、じゃないけれど。なんか、そういう目には見えないロマンチックなのが。

「……有るのやもしれませんね」

「そもそもアオイって、なんか、色々とそっくりなんですよね、俺と。現金なところとか……甘えたがりなとこ、とか」

 言い出しっぺは俺なのに、何だか照れくさくなってしまっていた。そのせいか、空気も妙に擽ったく感じてしまう。

 なんか、いい話題は……丁度いいヤツは。

 流れを変えるとっかかりを、頭の中の引き出しから手当たり次第探していた最中、投影石を取られてしまった。

 俺が送っていた魔力の流れも途切れたんだろう。バアルさんの手に渡った結晶はたちまち光を失くし、眼前に浮かび上がっていた画像達も消えていく。白い手の中の投影石すらも。瞬きの間に手品のように跡形もなく消えていた。

「バアルさ?」

「アオイ……」

 穏やかな低音が耳元で俺を呼ぶ。絡めて繋いでいるしなやかな指が、擦り寄るように俺の指横を撫でる。空気は変わった。俺の望み通りに。甘い空気が漂い始めていた。どういう経緯で彼のスイッチが入ったのかは分からないけれども。

 胸の辺りがそわそわしてしまう。早くも気分が浮ついてしまっていて落ち着かない。そんな空気をひしひしと肌に感じていると抱き直された。座ったままでも余裕綽々。長く引き締まった彼の腕によって、向き合う形で。

 白い髭を蓄えた口元には、いつもと変わらない柔らかな微笑みが浮かんでいる。けれども、鮮やかな緑の瞳には確かな熱が宿っていた。

「アオイ……」
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