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【新婚旅行編】五日目:今度は俺の番、ですよね?
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注文してから大した間もなく。新しい服へとバアルさんに着替えさせてもらった頃には、テーブルの真ん中で淡い光が瞬き始めた。
真ん中に灯ったロウソクくらいの小さな光が、波紋のようにテーブル全体を包み込むように広がっていってから再び真ん中へと。光の波から小さな粒へと形を変えてから、フッと消えていく。
光が収まったテーブルの上には注文した品が、ハンバーグステーキとライスが二つずつ並んでいた。
メインのハンバーグステーキは、まっさらなお皿の真ん中で艷やかなデミグラスソースを纏っている。副菜として、バター香るニンジンのグラッセと緑が鮮やかなブロッコリー。それから、くし切りにされた小さな皮付きのポテトを従えていた。
ハンバーグは、お皿のほとんどを埋めつくすくらいに大きくてボリューム満点。あらかじめ大盛りで頼んでいたとはいえ、ライスもお皿の上にご飯の山が出来ているくらい。ちょっとサービスし過ぎなんじゃ? ってくらいに盛り盛りだった。だったんだけれども。
「どうぞ、アオイ。お熱いのでお気をつけて下さいね」
相変わらずマナー講座のお手本のよう。上品かつキレイなナイフ捌きで、一口サイズに切られたハンバーグ。デミグラスソースをたっぷりまとった一口が、微笑むバアルさんの手によって俺の口元へと運ばれた。
「はいっ、いただきます」
そっと口に含んだ肉厚なハンバーグは、びっくりするくらいにふわふわ。軽く歯を立てるだけで、簡単に口の中でホロホロとほぐれていってしまう。
とはいえ、ちゃんと肉肉しさは健在で、噛み締める度に広がる肉汁はスゴくジューシー。デミグラスソースのコクも相まって、ご飯がいくらでもイケてしまいそう。
「おいひぃでふっ! すっごく!」
「ふふ、それは何より。では、此方もどうぞ」
目尻のシワを深めながら、次にバアルさんが差し出してくれたのはご飯だった。銀のフォークの上にほどよく盛られたお米は粒が立っていて、見るからに美味しそう。
「ありがとうございますっ、いただきますっ」
喜び勇んで食いついてみれば、やっぱり納得の美味しさ。炊き加減も俺好みの硬さだった。
「ご飯も美味しいですっ」
「左様でございましたか」
うんうんと頷くバアルさんは、自分のことのように嬉しそう。細く長い二本の触角はふわふわと揺れていて、半透明の羽もはためいている。なんだか、ちょっとだけ擽ったい。
それにしても、流石の察しの良さである。ご飯を出してくれたタイミングなんて、俺の心の声が聞こえちゃっていたんじゃないかなってくらい。単に、俺が分かりやすく顔に出しちゃってるだけかもしれないけど。
「さあ、アオイ、お次は何を召し上がられますか? またハンバーグに致しますか? それとも副菜をお召し上がりになられますか?」
「うーん……ニンジンのグラッセが気になりますけど」
「では」
「その前にっ、今度は俺の番、ですよね?」
いそいそとオレンジに艶めくグラッセへとフォークを立てようとしていた手を、両手で包み込むように握る。
見上げて、かち合った緑の瞳が一度きょとんと丸くなってから、擽ったそうに細められた。
「ふふ……ええ、そうでした」
「でしょ? じゃ、バトンタッチして下さい」
「ええ、宜しくお願い致します」
両手を離せば、バアルさんがフォークの柄の方を向けて差し出してくれた。受け取ってから俺の前にある、まだ楕円形のままなハンバーグへとナイフを入れた。
真ん中に灯ったロウソクくらいの小さな光が、波紋のようにテーブル全体を包み込むように広がっていってから再び真ん中へと。光の波から小さな粒へと形を変えてから、フッと消えていく。
光が収まったテーブルの上には注文した品が、ハンバーグステーキとライスが二つずつ並んでいた。
メインのハンバーグステーキは、まっさらなお皿の真ん中で艷やかなデミグラスソースを纏っている。副菜として、バター香るニンジンのグラッセと緑が鮮やかなブロッコリー。それから、くし切りにされた小さな皮付きのポテトを従えていた。
ハンバーグは、お皿のほとんどを埋めつくすくらいに大きくてボリューム満点。あらかじめ大盛りで頼んでいたとはいえ、ライスもお皿の上にご飯の山が出来ているくらい。ちょっとサービスし過ぎなんじゃ? ってくらいに盛り盛りだった。だったんだけれども。
「どうぞ、アオイ。お熱いのでお気をつけて下さいね」
相変わらずマナー講座のお手本のよう。上品かつキレイなナイフ捌きで、一口サイズに切られたハンバーグ。デミグラスソースをたっぷりまとった一口が、微笑むバアルさんの手によって俺の口元へと運ばれた。
「はいっ、いただきます」
そっと口に含んだ肉厚なハンバーグは、びっくりするくらいにふわふわ。軽く歯を立てるだけで、簡単に口の中でホロホロとほぐれていってしまう。
とはいえ、ちゃんと肉肉しさは健在で、噛み締める度に広がる肉汁はスゴくジューシー。デミグラスソースのコクも相まって、ご飯がいくらでもイケてしまいそう。
「おいひぃでふっ! すっごく!」
「ふふ、それは何より。では、此方もどうぞ」
目尻のシワを深めながら、次にバアルさんが差し出してくれたのはご飯だった。銀のフォークの上にほどよく盛られたお米は粒が立っていて、見るからに美味しそう。
「ありがとうございますっ、いただきますっ」
喜び勇んで食いついてみれば、やっぱり納得の美味しさ。炊き加減も俺好みの硬さだった。
「ご飯も美味しいですっ」
「左様でございましたか」
うんうんと頷くバアルさんは、自分のことのように嬉しそう。細く長い二本の触角はふわふわと揺れていて、半透明の羽もはためいている。なんだか、ちょっとだけ擽ったい。
それにしても、流石の察しの良さである。ご飯を出してくれたタイミングなんて、俺の心の声が聞こえちゃっていたんじゃないかなってくらい。単に、俺が分かりやすく顔に出しちゃってるだけかもしれないけど。
「さあ、アオイ、お次は何を召し上がられますか? またハンバーグに致しますか? それとも副菜をお召し上がりになられますか?」
「うーん……ニンジンのグラッセが気になりますけど」
「では」
「その前にっ、今度は俺の番、ですよね?」
いそいそとオレンジに艶めくグラッセへとフォークを立てようとしていた手を、両手で包み込むように握る。
見上げて、かち合った緑の瞳が一度きょとんと丸くなってから、擽ったそうに細められた。
「ふふ……ええ、そうでした」
「でしょ? じゃ、バトンタッチして下さい」
「ええ、宜しくお願い致します」
両手を離せば、バアルさんがフォークの柄の方を向けて差し出してくれた。受け取ってから俺の前にある、まだ楕円形のままなハンバーグへとナイフを入れた。
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