786 / 906
【新婚旅行編】五日目:満更ではないみたい
しおりを挟む
「……リベンジ、させて下さい」
こういう時は先手必勝。申し訳なさそうに触角を下げている彼が口を開くより先に、俺は願い出ていた。腕枕をしてくれて、労わるように腰を撫でてくれていた彼の頬に両手を添えていた。
しょんぼりと歪んでいた形の良い唇に、一瞬だけ笑みが浮かぶ。でも、またすぐに真一文字に結ばれてしまった。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……貴方様への負担が」
「大丈夫ですっ! だって、ずっと気持ちよかったですから!」
「……アオイ」
包み込むように触れていた頬が、ほんのりと血色を取り戻していく。細くて長い触角が、そわそわと落ち着きなく揺れ始めた。
やっぱり。俺を気遣ってくれて遠慮しちゃってるだけで、満更ではないみたい。あと、もう一押し。
「……ね、バアル……お願い……」
女の人みたいな可愛い声の出し方なんて俺には分からない。けれども、俺が思う精一杯の甘えた声でお願いしてみた。鮮やかな緑の瞳を、じっと見つめてみた。
「今までだってさ、最初は出来なかったことも、してもらえている内に出来るようになっていたでしょ?」
「それは……そう、ですね……」
行き当たりばったりな作戦だったが、意外にも上手くいっているのだろうか。明らかにバアルさんの気持ちが傾きつつある。俺のお願いを叶えてくれる方へと。
手のひらから伝わってくる彼の体温も、少し熱を増してきたような。揺れていた触角の動きも、賑やかになってきたような。ほんのりと感じつつある手応えに気を良くしながら、俺は言葉を重ねた。
「だからさ……今回も、いつか最後まで応えられるようになれると思うんだ……ちゃんと俺が出来るようになれるまで、バアルに根気よくしてもらえたら……だから、ね……?」
額をくっつけて、擦り寄って。照れたように細められている緑の瞳を見つめてみる。
喉が鳴るような音が聞こえてから、バアルが軽く息を吐いた。俺の手の甲に手を重ねてくれてから、よしよしと撫でてくれてから、やっとちゃんと目が合った。
「……明日から、ですからね?」
「っ……うんっ!」
思わず俺は彼の手を握っていた。下ろした勢いそのままに軽く揺らしてしまっていると、バアルさんも合わせてくれる。真っ直ぐに伸ばしていた背をゆらゆらと揺らしてくれる。
しばらく何らかのお遊戯みたく繋いだ手を揺らしてから、バアルさんが額にそっと口づけてきた。
「本日は、貴方様に沢山甘えてしまいました……そろそろ日付も変わってしまいます……ですから……」
「うんっ、ちゃんと身体を休めるよ、明日に備えて」
困ったように凛々しい眉を片方下げて、擽ったそうにバアルが笑う。緩やかな笑みを描いた唇に、酷く俺は惹かれていた。
「……でもさ、キスは……いいでしょ?」
声がちょっぴり震えてしまう。ほんの少し前に、とんでもないお願いをしたくせに、今更になってそわそわしてしまっていた。
そっと手を離して、しなやかな指が俺の顎を掴んだ。顎の裏を甘やかすように撫でてくれながら、彫りの深い顔が近づいてきてくれた。
「ええ、構いませんよ……私も、愛しい妻からの御慈悲を賜りたいと思っておりましたので」
「バアル……ん…っ」
俺からの、なんて言っておいて、俺より先に食んできた。擦り寄ってくる柔らかい温もりに、すぐに夢中になってしまう。
結局、俺の番が回ってきたのは、たっぷりと甘やかされてから。息が乱れて、気持ちがふわふわに蕩けてしまいそうになってから、ようやく譲ってもらえたんだ。
こういう時は先手必勝。申し訳なさそうに触角を下げている彼が口を開くより先に、俺は願い出ていた。腕枕をしてくれて、労わるように腰を撫でてくれていた彼の頬に両手を添えていた。
しょんぼりと歪んでいた形の良い唇に、一瞬だけ笑みが浮かぶ。でも、またすぐに真一文字に結ばれてしまった。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……貴方様への負担が」
「大丈夫ですっ! だって、ずっと気持ちよかったですから!」
「……アオイ」
包み込むように触れていた頬が、ほんのりと血色を取り戻していく。細くて長い触角が、そわそわと落ち着きなく揺れ始めた。
やっぱり。俺を気遣ってくれて遠慮しちゃってるだけで、満更ではないみたい。あと、もう一押し。
「……ね、バアル……お願い……」
女の人みたいな可愛い声の出し方なんて俺には分からない。けれども、俺が思う精一杯の甘えた声でお願いしてみた。鮮やかな緑の瞳を、じっと見つめてみた。
「今までだってさ、最初は出来なかったことも、してもらえている内に出来るようになっていたでしょ?」
「それは……そう、ですね……」
行き当たりばったりな作戦だったが、意外にも上手くいっているのだろうか。明らかにバアルさんの気持ちが傾きつつある。俺のお願いを叶えてくれる方へと。
手のひらから伝わってくる彼の体温も、少し熱を増してきたような。揺れていた触角の動きも、賑やかになってきたような。ほんのりと感じつつある手応えに気を良くしながら、俺は言葉を重ねた。
「だからさ……今回も、いつか最後まで応えられるようになれると思うんだ……ちゃんと俺が出来るようになれるまで、バアルに根気よくしてもらえたら……だから、ね……?」
額をくっつけて、擦り寄って。照れたように細められている緑の瞳を見つめてみる。
喉が鳴るような音が聞こえてから、バアルが軽く息を吐いた。俺の手の甲に手を重ねてくれてから、よしよしと撫でてくれてから、やっとちゃんと目が合った。
「……明日から、ですからね?」
「っ……うんっ!」
思わず俺は彼の手を握っていた。下ろした勢いそのままに軽く揺らしてしまっていると、バアルさんも合わせてくれる。真っ直ぐに伸ばしていた背をゆらゆらと揺らしてくれる。
しばらく何らかのお遊戯みたく繋いだ手を揺らしてから、バアルさんが額にそっと口づけてきた。
「本日は、貴方様に沢山甘えてしまいました……そろそろ日付も変わってしまいます……ですから……」
「うんっ、ちゃんと身体を休めるよ、明日に備えて」
困ったように凛々しい眉を片方下げて、擽ったそうにバアルが笑う。緩やかな笑みを描いた唇に、酷く俺は惹かれていた。
「……でもさ、キスは……いいでしょ?」
声がちょっぴり震えてしまう。ほんの少し前に、とんでもないお願いをしたくせに、今更になってそわそわしてしまっていた。
そっと手を離して、しなやかな指が俺の顎を掴んだ。顎の裏を甘やかすように撫でてくれながら、彫りの深い顔が近づいてきてくれた。
「ええ、構いませんよ……私も、愛しい妻からの御慈悲を賜りたいと思っておりましたので」
「バアル……ん…っ」
俺からの、なんて言っておいて、俺より先に食んできた。擦り寄ってくる柔らかい温もりに、すぐに夢中になってしまう。
結局、俺の番が回ってきたのは、たっぷりと甘やかされてから。息が乱れて、気持ちがふわふわに蕩けてしまいそうになってから、ようやく譲ってもらえたんだ。
11
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる