749 / 888
【新婚旅行編】五日目:ハメられた、いや、ハメられただけで良かった
しおりを挟む
大きくて温かな手のひらが頭をよしよしと褒めてくれている。さらには額に口づけまでもらえてしまった。
「ありがとうございます」
俺の方こそ。そう思ったものの、それよりも気になることの方が、もじもじしている口からこぼれていた。
「いえ……それで、そのぅ……」
「ああ……無論、最初から楽しませて頂いておりましたよ」
ですよねぇ、気付いていなかった訳がないですもんねぇ。
目尻のシワを深めた彼は、俺が言い淀んでいる内に教えてくれた。ご機嫌そうに小さく揺れている触角が、ほのかなシャンデリアの灯りを受けて淡い光沢を帯びている。
「アオイも気が付かれていたでしょう? この老骨めの寝たふりに。斯様にも可愛らしい宣言をしてくれたのですから」
意気揚々と尋ねられて心音が変に煩くなってしまう。じわじわと頬に集まりつつある熱を誤魔化すように、つい俺は拗ねたような言い方をしてしまっていた。
「そりゃあ、まぁ……でも、このタイミングでとは、思ってもみなかったっていうか」
「それは、それは……申し訳ございません」
ふわふわと弾むように揺れていた触角がぴたりと止まる。見る見るうちに下がっていく様は、萎れかけた花のよう。緩やかなアーチを描いていた凛々しい眉毛も気がつけば八の字になってしまっていた。
いやいや、そんなつもりは。いやでも、全面的に、100%俺が悪いんですけど。
「貴方様が、あまりにも愛らしく喜んでいらっしゃったので……私の心も弾んでしまい、つい言葉と手が出てしまい」
「ごめんなさいっ、目茶苦茶嬉しかったです! ベストタイミングでした!! ……ちょっぴり照れちゃっただけです」
素直に白状した瞬間、ころっと。さっきの寂し気で切なそうな雰囲気がウソのよう。満足気に目を細め、悪戯が成功したかのように口角を持ち上げた。
「左様でございましたか。それは何より」
……ハメられた。いや、ハメられただけで良かった。寂しい思いをさせてしまったんじゃなくて。
ホッと肩の力が抜けたのもつかの間、また余計に力が入ってしまうハメに。
ご満悦そうに微笑む彼から額をくっつけてもらえただけじゃない。高い鼻先を擦り寄せてくれながら、まだ無防備なしなやかな足を俺の足へと絡めてきてくれたのだ。
……甘えてくれているのかな? 嬉しいんだけれど、この格好であんまりくっついてもらえると色々とマズいんだけど。すでにバクバクはしゃぎまくってる心臓とか、心臓とかが。
「えっと……バアルさん?」
長い睫毛が瞬いて、微笑んでいた瞳が甘えるように見つめてくる。
「おや、引き続き私めを愛でて頂けるのでは?」
寂しそうな、名残惜しそうな声からのお願いに、すでに俺の心はバッチリ掴まれてしまっていた。
「貴方様の愛らしい御手と可憐な唇で、甘やかして頂けるのではないのでしょうか……?」
だというのに、ますます同じ男として惚れ惚れするような玉体を密着させてこられては。手の甲に口づけてもらえてから、指先で掠めるように唇を撫でられてしまえば、もう。
「が、頑張りますっ……させて頂きます……!」
「ふふ、御慈悲に感謝致します。では、宜しくお願い致しますね、私の愛しい妻」
「はぃ……こちらこそ……旦那様……」
額を重ねてくれたまま、バアルさんが待ってくれている。宝石のように煌めく瞳に期待を宿して。
誘われるように重ねれば、触れ合った唇から微かな微笑みが伝わってきた。くすくすと擽ったそうに笑う声が、吐息と一緒に。
「ありがとうございます」
俺の方こそ。そう思ったものの、それよりも気になることの方が、もじもじしている口からこぼれていた。
「いえ……それで、そのぅ……」
「ああ……無論、最初から楽しませて頂いておりましたよ」
ですよねぇ、気付いていなかった訳がないですもんねぇ。
目尻のシワを深めた彼は、俺が言い淀んでいる内に教えてくれた。ご機嫌そうに小さく揺れている触角が、ほのかなシャンデリアの灯りを受けて淡い光沢を帯びている。
「アオイも気が付かれていたでしょう? この老骨めの寝たふりに。斯様にも可愛らしい宣言をしてくれたのですから」
意気揚々と尋ねられて心音が変に煩くなってしまう。じわじわと頬に集まりつつある熱を誤魔化すように、つい俺は拗ねたような言い方をしてしまっていた。
「そりゃあ、まぁ……でも、このタイミングでとは、思ってもみなかったっていうか」
「それは、それは……申し訳ございません」
ふわふわと弾むように揺れていた触角がぴたりと止まる。見る見るうちに下がっていく様は、萎れかけた花のよう。緩やかなアーチを描いていた凛々しい眉毛も気がつけば八の字になってしまっていた。
いやいや、そんなつもりは。いやでも、全面的に、100%俺が悪いんですけど。
「貴方様が、あまりにも愛らしく喜んでいらっしゃったので……私の心も弾んでしまい、つい言葉と手が出てしまい」
「ごめんなさいっ、目茶苦茶嬉しかったです! ベストタイミングでした!! ……ちょっぴり照れちゃっただけです」
素直に白状した瞬間、ころっと。さっきの寂し気で切なそうな雰囲気がウソのよう。満足気に目を細め、悪戯が成功したかのように口角を持ち上げた。
「左様でございましたか。それは何より」
……ハメられた。いや、ハメられただけで良かった。寂しい思いをさせてしまったんじゃなくて。
ホッと肩の力が抜けたのもつかの間、また余計に力が入ってしまうハメに。
ご満悦そうに微笑む彼から額をくっつけてもらえただけじゃない。高い鼻先を擦り寄せてくれながら、まだ無防備なしなやかな足を俺の足へと絡めてきてくれたのだ。
……甘えてくれているのかな? 嬉しいんだけれど、この格好であんまりくっついてもらえると色々とマズいんだけど。すでにバクバクはしゃぎまくってる心臓とか、心臓とかが。
「えっと……バアルさん?」
長い睫毛が瞬いて、微笑んでいた瞳が甘えるように見つめてくる。
「おや、引き続き私めを愛でて頂けるのでは?」
寂しそうな、名残惜しそうな声からのお願いに、すでに俺の心はバッチリ掴まれてしまっていた。
「貴方様の愛らしい御手と可憐な唇で、甘やかして頂けるのではないのでしょうか……?」
だというのに、ますます同じ男として惚れ惚れするような玉体を密着させてこられては。手の甲に口づけてもらえてから、指先で掠めるように唇を撫でられてしまえば、もう。
「が、頑張りますっ……させて頂きます……!」
「ふふ、御慈悲に感謝致します。では、宜しくお願い致しますね、私の愛しい妻」
「はぃ……こちらこそ……旦那様……」
額を重ねてくれたまま、バアルさんが待ってくれている。宝石のように煌めく瞳に期待を宿して。
誘われるように重ねれば、触れ合った唇から微かな微笑みが伝わってきた。くすくすと擽ったそうに笑う声が、吐息と一緒に。
9
お気に入りに追加
483
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる