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【新婚旅行編】五日目:まだまだ、伝えきれていないんだから

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「ね、バアル……」

「はい、いかがなさいましたか、アオイ」

 ふわふわと触角を揺らしながら、バアルが甘えてくれる。腰を撫でていた手で抱き寄せてくれて、スッと通った高い鼻先を擦り寄せてくれる。

 そっと手を伸ばして頬を撫でると、手のひらにも擦り寄ってきてくれた。

「ふふ……バアルもカッコよくて、可愛いよ」

 さっきは言えなかったから。いっぱい、いっぱい伝えてもらえていたのに、ずっと気持ちよくて応えられなかったから。

「俺に、微笑んでくれる時の笑顔は優しくて、安心出来て大好きだし……お買い物ではしゃいでる時の笑顔はすっごく可愛い……ご機嫌な時に、触角と羽が賑やかになっちゃうのも、好き……」

「……ありがとう、ございます……」

 ちょっとびっくりしたように目を瞬かせてから、バアルが微笑む。照れちゃっているのかな。首まで赤い。

 バアルは、もう終わったと思っているんだろう。でも、まだまだ。まだまだ俺は、伝えきれていないんだから。

「ヨミ様やサタン様が褒められてる時に、誇らしげな笑顔で頷いてるのも可愛い……俺が作った料理や焼き菓子を、ホントに嬉しそうに食べてくれるのも大好き……」

「あ、アオイ……?」

「ああ、でもね、時々見せてくれるワイルドなところも好きだよ。息も出来ないくらいにいっぱいキスしてもらえてる時とか……さっきみたいに夢中で抱いてもらってる時とか……食べられちゃいそうだなって思っちゃうんだけど……でも、カッコよくてドキドキしちゃ」

「ッ……」

 枕代わりになってくれていた筋肉質な腕が、頭の下からするりと抜けた。

 肩を掴まれ、背中をベッドに押しつけられる。すぐさま鍛え抜かれた長身がのしかかってくる。ベッドが軋んだ音を立てた。

 見下ろしてくる瞳が鋭い。今にも獲物の、俺の喉元に噛みついてきてくれそうな。

「あ、これ……この目も好き……ご機嫌な時にキラキラしてるのも好きなんだけど、こういう時はギラギラしてるよね……俺のこと、欲しいって思ってくれてる時は……」

 言葉と一緒に手も出ていた。両手で包み込むように添えた頬が熱い。

 バアルの方が俺を押し倒したのに、俺がバアルを押し倒したみたい。ますます顔が真っ赤になって、形の良い唇が微かに震えている。

「覚悟は、出来ているのでしょうね……?」

「うん……最初っから期待してたから……こうなったらいいなって」

「……全く、貴方様には」

 敵いませんね、って擽ったそうに笑ってから、抱き締めてくれた。

 俺としては、納得がいかないというか……俺の方が、バアルに一喜一憂してばかり。いっつもバアルのことで、いっぱいいっぱいなんだけれども。

 それでも、ちょっとでも、ときめいてもらえたんだったら。それはスゴく嬉しくて、幸せだなって思うんだ。
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