上 下
760 / 906

【新婚旅行編】五日目:ホントに可愛い人だ

しおりを挟む
 このままじゃあ、流されちゃいそう。こんなにも俺のことを求めてくれているのが嬉しくて、お願いしてくる彼がカッコいいのに可愛くて、何でも言うことを聞きたくなってしまう。全部叶えて上げたくなってしまう。

 でも、今から続けては流石に。出来なくはないけれど、普通の時以上に余裕がない。多分、されるがままになってしまう。お返しが出来ない。頭を撫でることも、キスに応えることさえ出来ないかも。

 そんなんじゃあ、バアルさんを喜ばせることなんて。どうにか時間を稼がないと。せめて、あともうちょっと体力が回復するまでは。

「っ……と、とにかく今は、ちょっと……あっ、ご飯っ! ご飯一緒に食べたいです……後、食後にデザートと、バアルが淹れてくれる紅茶もセットでお願いします!」

「……畏まりました」

 ふと気づいたお腹の減り具合を盾にしてみれば、バアルさんも引き下がらざるを得なかったよう。瞳に僅かに寂しさを滲ませながらも微笑んでくれた。

 離れていこうとしていた白い手を、慌てて掴んで握り直す。

「でねっ」

「はい?」

「その後……ご飯食べた後、なんだけどさ……」

「……はい」

「……途中だった、残りのルール……俺達、夫婦だけの……それを決めた後なら…………いい、よ? ……俺のこと、バアルの好きにしても……一日中……」

 伏せられていた睫毛がぱちりと上がった。

 長く引き締まった腕が軽々と俺を抱き上げ、お膝の上へと乗せてくれたかと思えば、彼の手には太陽と星が仲良く寄り添い合っている彫刻が、ホテル専用の投影石が握られていた。

 たちまち淡い光が放たれて、俺たちの目の前にプロジェクターよろしくメニュー表が現れる。ホテルのルームサービスのものだ。美味しそうな画像と共にズラリと並んでいる。

 ちょっとした軽食からボリーム満点なガッツリ系、はては五つ星ホテルらしい豪華なもの。豊富なラインナップのデザートや、カラフルなドリンクまで。相変わらず目移りしてしまう。

「アオイ、どちらをお召し上がりになられますか?」

 手のひらを上にして、メニュー表を指し示す彼は平静を装うかのように微笑んではいる。が、触角と羽は。あふれる喜びを俺に示してくれているかのように、ふわふわ弾んでぱたぱたはためいていた。

 ……ホントに可愛い人だ。

「ふふ……このハンバーグステーキがいいなぁ。ライスは大盛りで。バアルはどれにする?」

 腰を軽く上げて彼の頬に頬を寄せてみた。

 ちょんと触れた時、幅の広い頼もしい肩が僅かに揺れたけれども、すぐに彼も返してくれた。スラリと伸びた背筋を屈めて、微笑む唇を寄せてくれた。ふわふわのお髭が頬を掠めていく。

「……では、私も同じものを。デザートはどちらに致しますか?」

 尋ねながら今度は彼の方から。耳の下辺りに唇を寄せてきた。つい肩を跳ねさせてしまうと、くすくすと楽しそうな笑みをこぼす。その吐息もちょっとだけ擽ったかった。

「ん……色々、食べたいからさ、分け合いっこしない?」

「ええ、構いませんよ。お好きなものを、お好きなだけ頼まれて下さい」

「ありがとう……隙ありっ」

 もらってばっかりじゃあいけないのに。お礼ついでに口づけたら、すぐにお返しをされてしまった。抱き締められて、いっぱい頭を撫でてもらえてしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...