間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
733 / 1,047

【新婚旅行編】四日目:初めまして、アオイ、バアルの最愛よ

しおりを挟む
 会って欲しい方がいる、とドラゴンさん達からお願いされたのは、俺の顔の熱が収まってから。勿論断る理由なんて。むしろ、こちらからお願いしたくらいだ。

 そうしてドラゴンさん達に道案内してもらいながら、水晶が至るところに生えている道をせっせと進んで行けば、辿り着いた岩場にもドラゴンさんが居た。凸凹していて歩きにくい岩場の中央の盛り上がった台地の上に、威風堂々と座っていた。

 水晶で出来た台地の高さは、パークの真ん中にそびえ立つ水晶の山よりは劣ってしまう。が、盛り上がったそこへと、ドラゴンさんの元へと辿り着く為には飛び出た水晶を掴みながらクライミングするか、バアルさんに抱き抱えてもらって飛んでもらわなければならないだろう。

 自然と見上げる形になる、広い台地はまるでドラゴンさんの身体に合わせてあつらえられた玉座のよう。全部が青く透き通った水晶だから、氷にも見えちゃいそうだけど。

 ぽかんと口を開けたまま不躾な視線を送ってしまっていると、ドラゴンさんが真っ赤な瞳を俺達の方へ向けた。

 艶めく鉱石のような、見ただけで硬そうだと感じる黒い鱗に覆われたその巨体は、遠目から見ても大きいなんてもんじゃない。俺達と同行している一番大きなドラゴンさんが可愛く見えてしまうレベル。彼にとっては俺なんて、米粒くらいにしか見えていないかもしれない。

 というか、あのドラゴンさん。何処かで見たような。

「あ、あの看板の」

「ええ、恐らく。パークの看板は、彼をモデルにして作られたのでしょうね」

 やっぱり。あの黒い身体に真っ赤な瞳。ヨミ様やサタン様を思わせるカラーリングをした彼こそが、迫力満点だったパークの看板の主役。実際にモデルさんが居たとは。

 ドラゴンさんが台地から俺達の元へと降りてくる。広げられた巨大な黒の翼は夕焼けの空を覆い尽くし、夜空へと変えてしまわんばかり。軽くはためくだけで巻き起こる強風に、目を開けていられなかったのは一瞬だった。

 バアルさんが庇うように抱き締めてくれて、周りのドラゴンさん達が風を防ぐ壁になってくれた。

 バアルさんは術も施してくれたんだと思う。続けて起こった強烈な向かい風が俺の頬を叩こうとしても、不思議な温かさが俺の全身を包んで守ってくれた。目も開けていられたんだ。

『済まない、驚かせてしまっただろうか』

 頭の中に落ち着いた声が響く。申し訳無さそうな声の主は言わずもがな。

『初めまして、アオイ。我らが神の新たな愛し子であり、バアルの最愛よ。来てくれてありがとう、お会い出来て光栄だ』

 俺達の前へと降り立っていた黒いドラゴンさんが、その太い首を地につかんばかりに下げてきた。

 少し離れているにも関わらず、ドラゴンさんが静かに呼吸するだけで前髪がぶわりと揺れる。大きな赤い瞳には、俺と俺を抱き支えるバアルさんの姿が映っていた。

「こちらこそ、会えて嬉しいです。初めまして、えっと……」

『ヨミだ。こちらで生まれた際にサタンから頂いた。その時はまだ、ヨミはこんなにも小さかったがな』

 瞳を細めながらドラゴンさんが爪を一本立てた。俺達でいう人差し指なのだろう。懐かしそうに笑いながら続けて本当の名前も言ってくれたけど、イド君の時のようにその部分だけは聞き取れなかった。

「すみません、ヨミさん……折角教えてくれたのに」

『いや、構わぬよ。どちらも比べることの出来ない、私の大切な名だからな』

 頭の中で響いていた快活な笑いがふと止む。ところで、と切り出してきた声は優しくも威厳に満ちた声だった。

『貴方方にお願いがある。どうか、立ち会って頂きたいのだ。私達の新しい家族の誕生を』
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...