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【新婚旅行編】四日目:こうもハッキリ言われちゃうと
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西のゾーンでも東のゾーンでも、皆さん俺達に会いに来てくれたんだ。フェニックスが皆さんにしてくれたという連絡のお陰で。だから、想定は出来たハズ。こうなるってことくらい、分かってたハズだった。
「ひぇ……」
北のゾーンでも、ドラゴンの皆さんから囲まれてしまうことくらい。
それにしたって迫力がケタ違い過ぎる。俺達を囲み、見下ろしている鋭い眼差しの数々。その色も体色も、赤、青、黄、茶、紫と様々。身体の大きさも大分差がある。
小さめの方は大型犬やお馬さん、ゾウさんくらい。が、一番身体の大きな方に至っては二階建ての屋根くらい簡単に越えるほど。俺が見上げたところで、その姿の全てを確認出来やしないだろう。
全長が大きけりゃあ細かな部分も。瓦のように大きく固そうな鱗に覆われた長い尻尾は、先っぽでも丸太のように太い。鋭く尖った足の爪は一本だけでも大型トラックのタイヤ並み。本気を出せば、俺なんか踏み潰すまでもないだろう。その爪先一つでぽっくりされてしまうに違いない。
分かってはいるさ。そんなこと、優しい皆さんがする訳がないって。じゃれつかれた際での万が一の事故さえも、バアルさんが起こさせやしないって。
それでも、巨大なものへの本能的な恐れってのは湧いてしまうらしい。胸の内にじわりと滲み出てきたそれは、俺の意思に関係なく身体を縮こませ、小刻みに指先を震わせ、ガクガクと膝を笑わせてくる。
こりゃあ幼いヨミ様が泣いてしまったハズだ。だって、俺だって……ちょっぴり怖い。あんなに会いたかったのに。ファンタジーなRPGが大好きな俺にとっての憧れだったのに。
「大丈夫ですよ、アオイ、貴方様のバアルが付いております」
大きくて温かい手のひらが俺の肩を抱き寄せてくれる。嬉しくて頼もしい言葉を言ってくれて、優しく微笑みかけてくれる。ついさっきはこの一発で、底の見えない水中への不安を乗り越えられたんだけれど。
今回のはちょっと手強いみたい。もっとバアルさんを充電させてもらわないと。
「バアル……も、もっとくっついてもいい?」
「ええ、どうぞ此方へ」
俺が抱きつく必要もなく、バアルさんはその長く引き締まった腕で俺を包みこんでくれた。
愛しい温もりがより近くなる。落ち着くハーブの匂いが強くなる。分厚く盛り上がった逞しい胸元に頬を寄せると、彼の心音が聞こえてきた。俺にとって一番安心出来る音が。
「よし、よし、大丈夫ですよ……」
加えて大きな手のひらで撫でてもらえて、柔らかな低音で宥めてもらえれば効果テキメン。みるみるうちに変に騒いでいた鼓動は落ち着きを取り戻し、身体の震えも収まっていく。
平静を取り戻しつつあるからだろう。やっとこさ、周りの騒がしさに、心配そうに鳴いているドラゴンさん達の声が聞こえるようになった。
「ああ、皆様も。大丈夫ですよ、少々びっくりしてしまわれただけでございます故」
すぐさま不甲斐ない俺に代わってバアルさんが皆さんへと説明してくれる。
ドラゴンさん達の言葉は相変わらず俺には分からない。が、安心してくれているんであろうことは分かった。か細く、聞いているだけで胸が痛むようだった鳴き声が、明るい声へと変わったから。
「……ふふ、お可愛らしいでしょう? ですが、大変カッコいい方でもあるのです。私の自慢の妻でございます」
バアルさんの方でしょうがっ、可愛いのも、カッコいいのも!
大きく跳ねた心臓のせいで喉が締まってなければ、声を大にしていただろう。俺にとっても自慢の旦那様ですって。
「ええ、お任せ下さい。私がしばしの間ぎゅっとして差し上げれば、落ち着いて頂けるので」
皆さんは、これまでの俺達をご存知ではない。だから、安心させる為には必要な説明だ。とはいえ。
こうもハッキリ言われちゃうと、やっぱり恥ずかしいな。ちょっとだけ。
俺を抱き締めてくれたまま、頭や背中を撫でてくれながら、バアルさんは穏やかな低音で続けている。本来ならば、俺がしなければならないフォローまで。
「ですから、どうかお気になさらないで下さい。私の妻は、誠に楽しみにしていらっしゃったんですよ? 皆様にお会いすることも、お背中に乗せて頂くことも。この老骨めが年甲斐もなく妬けてしまうほどに」
柔らかな声に少しだけ滲んでいた寂しさに、気がつけば自然と声が出ていた。
「……俺の一番は……ずっと、永遠にバアルさんですからね」
「……アオイ」
かち合った、鮮やかな緑の瞳に喜びがあふれていく。目尻のシワが深くなって、白いお髭を蓄えた口元が得意げに微笑んだ。
「ほら、誠にカッコいい方でしょう?」
「ひぇ……」
北のゾーンでも、ドラゴンの皆さんから囲まれてしまうことくらい。
それにしたって迫力がケタ違い過ぎる。俺達を囲み、見下ろしている鋭い眼差しの数々。その色も体色も、赤、青、黄、茶、紫と様々。身体の大きさも大分差がある。
小さめの方は大型犬やお馬さん、ゾウさんくらい。が、一番身体の大きな方に至っては二階建ての屋根くらい簡単に越えるほど。俺が見上げたところで、その姿の全てを確認出来やしないだろう。
全長が大きけりゃあ細かな部分も。瓦のように大きく固そうな鱗に覆われた長い尻尾は、先っぽでも丸太のように太い。鋭く尖った足の爪は一本だけでも大型トラックのタイヤ並み。本気を出せば、俺なんか踏み潰すまでもないだろう。その爪先一つでぽっくりされてしまうに違いない。
分かってはいるさ。そんなこと、優しい皆さんがする訳がないって。じゃれつかれた際での万が一の事故さえも、バアルさんが起こさせやしないって。
それでも、巨大なものへの本能的な恐れってのは湧いてしまうらしい。胸の内にじわりと滲み出てきたそれは、俺の意思に関係なく身体を縮こませ、小刻みに指先を震わせ、ガクガクと膝を笑わせてくる。
こりゃあ幼いヨミ様が泣いてしまったハズだ。だって、俺だって……ちょっぴり怖い。あんなに会いたかったのに。ファンタジーなRPGが大好きな俺にとっての憧れだったのに。
「大丈夫ですよ、アオイ、貴方様のバアルが付いております」
大きくて温かい手のひらが俺の肩を抱き寄せてくれる。嬉しくて頼もしい言葉を言ってくれて、優しく微笑みかけてくれる。ついさっきはこの一発で、底の見えない水中への不安を乗り越えられたんだけれど。
今回のはちょっと手強いみたい。もっとバアルさんを充電させてもらわないと。
「バアル……も、もっとくっついてもいい?」
「ええ、どうぞ此方へ」
俺が抱きつく必要もなく、バアルさんはその長く引き締まった腕で俺を包みこんでくれた。
愛しい温もりがより近くなる。落ち着くハーブの匂いが強くなる。分厚く盛り上がった逞しい胸元に頬を寄せると、彼の心音が聞こえてきた。俺にとって一番安心出来る音が。
「よし、よし、大丈夫ですよ……」
加えて大きな手のひらで撫でてもらえて、柔らかな低音で宥めてもらえれば効果テキメン。みるみるうちに変に騒いでいた鼓動は落ち着きを取り戻し、身体の震えも収まっていく。
平静を取り戻しつつあるからだろう。やっとこさ、周りの騒がしさに、心配そうに鳴いているドラゴンさん達の声が聞こえるようになった。
「ああ、皆様も。大丈夫ですよ、少々びっくりしてしまわれただけでございます故」
すぐさま不甲斐ない俺に代わってバアルさんが皆さんへと説明してくれる。
ドラゴンさん達の言葉は相変わらず俺には分からない。が、安心してくれているんであろうことは分かった。か細く、聞いているだけで胸が痛むようだった鳴き声が、明るい声へと変わったから。
「……ふふ、お可愛らしいでしょう? ですが、大変カッコいい方でもあるのです。私の自慢の妻でございます」
バアルさんの方でしょうがっ、可愛いのも、カッコいいのも!
大きく跳ねた心臓のせいで喉が締まってなければ、声を大にしていただろう。俺にとっても自慢の旦那様ですって。
「ええ、お任せ下さい。私がしばしの間ぎゅっとして差し上げれば、落ち着いて頂けるので」
皆さんは、これまでの俺達をご存知ではない。だから、安心させる為には必要な説明だ。とはいえ。
こうもハッキリ言われちゃうと、やっぱり恥ずかしいな。ちょっとだけ。
俺を抱き締めてくれたまま、頭や背中を撫でてくれながら、バアルさんは穏やかな低音で続けている。本来ならば、俺がしなければならないフォローまで。
「ですから、どうかお気になさらないで下さい。私の妻は、誠に楽しみにしていらっしゃったんですよ? 皆様にお会いすることも、お背中に乗せて頂くことも。この老骨めが年甲斐もなく妬けてしまうほどに」
柔らかな声に少しだけ滲んでいた寂しさに、気がつけば自然と声が出ていた。
「……俺の一番は……ずっと、永遠にバアルさんですからね」
「……アオイ」
かち合った、鮮やかな緑の瞳に喜びがあふれていく。目尻のシワが深くなって、白いお髭を蓄えた口元が得意げに微笑んだ。
「ほら、誠にカッコいい方でしょう?」
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