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【新婚旅行編】四日目:とある兵士は仲間に気合を入れてもらう
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「ぐ……っ」
「やっぱりか……」
御夫婦のファンであるシアンにとっては、堪らない光景だろう。俺だって微笑ましく思うし、気を抜けば胸の辺りが熱くなっちまう……色々あったからな。
「シアン、サロメ、そろそろ御夫婦が動かれるよ。少し奥に行かれるみたい。まだまだ先は長いんだから、気を引き締めてくれよ」
いつの間にやらベィティが俺達の前で腕を組み、黒くて長い尾の先を振っていた。肩車を自分から降りていたらしい。どうりで急に軽くなったなと。
寄り添い合いながらゆっくりと歩を進め始めた御夫婦の後を、一定の距離を保ちながら続く。その道中でも、生き物達がほとんど顔を出していない間でも、ベィティが撮影の手を緩めることはない。御夫婦だけを見つめたまま俺達に話しかけてきた。
「触れ合い広場を回られた後は、東のお店に向かわれるだろうから。西の時も大変だっただろう? 御夫婦目当てのギャラリーが出来かけてさ。有り難いことに、声をかけられるようなことはされなかったけれど」
「お二方がお互いに身に着けていらっしゃる、魔力の花のお陰だろう。流石に新婚旅行だって分かっていて、邪魔をするような無粋な輩は居なかったってことだな。まぁ、居たとしても未然に俺が止めるけどな」
これまたいつの間にやら。平常心を取り戻していたシアンが拳を強く握っている。不敵な笑みから覗いている犬歯が鋭く光って見えた。
「おいおい、西でも結構な数のお土産を買ってただろ? なのに、まだ東でも」
「サロメ、御夫婦の会話を聞いていなかったのかい?」
遮ってきたベィティは勿論のこと、シアンまでもが何を言っているんだって顔をしている。それっぽい会話なんてあったっけ?
前を向いたままなのに、俺が思い出せないと気付いたのだろう。ベィティは少し呆れたような声で説明してくれた。
「ほら、西のお土産コーナーで、バアル様が棚の端から端まで購入されようとしていた時のことだよ。アオイ様が『東ゾーン限定のお土産もあるそうですから、少し絞りませんか?』って、見事に手綱を握っていらしたじゃないか」
「あー……そういやぁ」
よくもまぁ、あの状態になられたバアル様を上手いこと止めたな、って内心感心していた気がする。ヨミ様やサタン様でさえ中々止められずに、毎度お二方の誕生日にはバアル様の手によって、見事なプレゼントの山を築かれてしまっていたってのに。
最終的には三種類にまで絞らせることに成功していたっけ。他のところでも皆さんへのお土産を買うだろうからって、自分自身もお金を出したいからって説得なされて。
どうやら、自覚していた以上に俺は気が抜けてしまっていたらしい。お二方がナンパされないからって、楽しんでしまっていたのだろう。
「……シアン」
「どうした? ……気合い入れるか?」
「頼む」
「ああ」
即座に分かってくれたシアンが、俺の背中を思いっきり叩いた。甲高い音と共に広がっていく強烈な一撃の波に、鱗の一枚一枚すら引き締まっていく気がした。
「よっし、気合い入った。ありがとな」
「気にすんな」
背伸びをしてから前を向くと、御夫婦から片時も目を離さなかった青い瞳がこちらを向いていた。それも、何だか不満気な。というか、少しだけ寂しそうな。
「どうした、ベィテ」
「僕も、入れてみてもいいかい? ……気合い」
「ああっ、いいぞ、いいぞ。思いっきり叩き込んでやれ」
いや、何でシアンが許可出してんだよ。いや、入れてもらうことに関しては構わないけどよ。
「……頼むぜ」
「ありがとう」
何故かお礼を言われたが、背中にもらった一撃は容赦なかった。結構、上品な手をしているのにやるもんだ。
「やっぱりか……」
御夫婦のファンであるシアンにとっては、堪らない光景だろう。俺だって微笑ましく思うし、気を抜けば胸の辺りが熱くなっちまう……色々あったからな。
「シアン、サロメ、そろそろ御夫婦が動かれるよ。少し奥に行かれるみたい。まだまだ先は長いんだから、気を引き締めてくれよ」
いつの間にやらベィティが俺達の前で腕を組み、黒くて長い尾の先を振っていた。肩車を自分から降りていたらしい。どうりで急に軽くなったなと。
寄り添い合いながらゆっくりと歩を進め始めた御夫婦の後を、一定の距離を保ちながら続く。その道中でも、生き物達がほとんど顔を出していない間でも、ベィティが撮影の手を緩めることはない。御夫婦だけを見つめたまま俺達に話しかけてきた。
「触れ合い広場を回られた後は、東のお店に向かわれるだろうから。西の時も大変だっただろう? 御夫婦目当てのギャラリーが出来かけてさ。有り難いことに、声をかけられるようなことはされなかったけれど」
「お二方がお互いに身に着けていらっしゃる、魔力の花のお陰だろう。流石に新婚旅行だって分かっていて、邪魔をするような無粋な輩は居なかったってことだな。まぁ、居たとしても未然に俺が止めるけどな」
これまたいつの間にやら。平常心を取り戻していたシアンが拳を強く握っている。不敵な笑みから覗いている犬歯が鋭く光って見えた。
「おいおい、西でも結構な数のお土産を買ってただろ? なのに、まだ東でも」
「サロメ、御夫婦の会話を聞いていなかったのかい?」
遮ってきたベィティは勿論のこと、シアンまでもが何を言っているんだって顔をしている。それっぽい会話なんてあったっけ?
前を向いたままなのに、俺が思い出せないと気付いたのだろう。ベィティは少し呆れたような声で説明してくれた。
「ほら、西のお土産コーナーで、バアル様が棚の端から端まで購入されようとしていた時のことだよ。アオイ様が『東ゾーン限定のお土産もあるそうですから、少し絞りませんか?』って、見事に手綱を握っていらしたじゃないか」
「あー……そういやぁ」
よくもまぁ、あの状態になられたバアル様を上手いこと止めたな、って内心感心していた気がする。ヨミ様やサタン様でさえ中々止められずに、毎度お二方の誕生日にはバアル様の手によって、見事なプレゼントの山を築かれてしまっていたってのに。
最終的には三種類にまで絞らせることに成功していたっけ。他のところでも皆さんへのお土産を買うだろうからって、自分自身もお金を出したいからって説得なされて。
どうやら、自覚していた以上に俺は気が抜けてしまっていたらしい。お二方がナンパされないからって、楽しんでしまっていたのだろう。
「……シアン」
「どうした? ……気合い入れるか?」
「頼む」
「ああ」
即座に分かってくれたシアンが、俺の背中を思いっきり叩いた。甲高い音と共に広がっていく強烈な一撃の波に、鱗の一枚一枚すら引き締まっていく気がした。
「よっし、気合い入った。ありがとな」
「気にすんな」
背伸びをしてから前を向くと、御夫婦から片時も目を離さなかった青い瞳がこちらを向いていた。それも、何だか不満気な。というか、少しだけ寂しそうな。
「どうした、ベィテ」
「僕も、入れてみてもいいかい? ……気合い」
「ああっ、いいぞ、いいぞ。思いっきり叩き込んでやれ」
いや、何でシアンが許可出してんだよ。いや、入れてもらうことに関しては構わないけどよ。
「……頼むぜ」
「ありがとう」
何故かお礼を言われたが、背中にもらった一撃は容赦なかった。結構、上品な手をしているのにやるもんだ。
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