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【新婚旅行編】四日目:とあるスタッフ達は、伝説のお客様について噂する
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小さい頃に家族でこのパークに遊びに来た時、私の道は決まった。
現世にしかいないという不思議な生き物達、そして私達と同様に魔力を扱うことが出来る神秘的な生き物達。出会うことのない彼らが共存し、更には一緒に協力して行われる夢のようなショー。ここで見た全部の初めてが輝いていて、私の心を掴んで離さなかった。
その出会いは強烈で、パークを後にする際は、後ろ髪を引かれて駄々をこねて泣いてしまったし、その夜は胸の高鳴りが収まらなくて、朝までずっとパークで出会えた彼らのことばかりを考えてしまっていた。
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。無事に夢を叶え、今度は夢を見せるお手伝いをさせてもらえるようになれた、今でも。
私が任されているのは西のゾーン。海という特殊な環境で暮らす生き物達が暮らしている場所だ。そこで彼らが織りなすショーのお手伝いをさせてもらっている。
西のゾーンのほとんどは水の中。ゾーン全体が様々な術を施されたガラスドームに覆われている。だから私達やお客様が移動する際は、大抵が術によって作られた泡に乗って運んでもらうことになる。レストランやショーの会場とか、一部くらいしか歩いて行ける場所がない。
そんな水の中は特殊な空間操作の術によって、見た目以上の広さが保たれている。どこまでも続いていそうな水平線が広がり、底が見えないほどの深さだってある。だから、クジラやリヴァイアサンみたいに身体の大きな子達もストレスなく、縦横無尽に泳ぐことが出来る。
様々な生き物達が暮らしているけれど、彼らがケンカをすることはない。それどころか、一緒に遊んでいる様子を見ることが出来るくらい。彼らも私達のように術か、それとも他のコミュニケーション手段で意思の疎通が出来ているんだろうか。
勤め始めて、あともうすぐで節目の60年。こちらでのお仕事は慣れたものだが、彼らに対しての謎や魅力は深まるばかり。それでも私なりに、彼らと信頼関係を築けている自負はある。彼らの微かな変化や体調の具合を、術で尋ねなくとも分かるくらいには。
だから、すぐに分かった。今日は何だか様子がおかしいって。決して悪い意味ではないんだけれど、なんというか。
「あの、先輩……なんだか今日は、皆いつも以上に張り切ってません?」
尋ねながら、ガラス越しの彼らの様子をもう一度窺ってみてもやっぱり。ショーを華々しく彩る彼らは、今も熱心に練習を繰り返している。
青く染まった水中を軽やかに、舞うように泳ぐペンギン達は、ジュゴン達が放つバブルリングを次々とくぐっている。水面付近ではリヴァイアサンが起こす波を、アシカ達が華麗に乗りこなしていたり、クラーケンが高さを変えながら掲げる輪っかを、ケルピーやイルカ達が優雅にくぐっていたり。
日頃から練習熱心だったとはいえ、今日の熱量は凄まじい。まるで、成果を披露したい誰かが今すぐにでもやって来るみたい。
「ああ、どうやら伝説のお客様の再来らしいわよ」
先輩があっけらかんと返した単語に、私は興奮のあまり思わず大きな声を上げてしまっていた。
「えっ!? ……伝説のお客様って、あの? 彼らが行く先々で、パーク中の皆が懐いたっていう!?」
「そう、そうっ! 南ゾーンでは、その話でもちきりみたい。普段は滅多に顔を出さないフェニックスまで、例のお客様方の前に現れたって話よ? 初めてのご来場らしいのに」
「うわぁっ、いいなぁ……私もかれこれ59年は勤めさせて頂いてますけど、まだ片手で数えられるくらいしかお会い出来ていないのに」
「あら貴方、運が良い方よ? 私なんか、212年勤めていても、この間南ゾーンの清掃を手伝った時にようやく7回目だったんだから」
今のところ私達しかここには居ない。けれども先輩は周りをぐるりと見回してから、私の側に静かに寄ってきた。ここだけの話だと言わんばかりに口元を手で覆いながら、声を潜めて話し出す。
現世にしかいないという不思議な生き物達、そして私達と同様に魔力を扱うことが出来る神秘的な生き物達。出会うことのない彼らが共存し、更には一緒に協力して行われる夢のようなショー。ここで見た全部の初めてが輝いていて、私の心を掴んで離さなかった。
その出会いは強烈で、パークを後にする際は、後ろ髪を引かれて駄々をこねて泣いてしまったし、その夜は胸の高鳴りが収まらなくて、朝までずっとパークで出会えた彼らのことばかりを考えてしまっていた。
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。無事に夢を叶え、今度は夢を見せるお手伝いをさせてもらえるようになれた、今でも。
私が任されているのは西のゾーン。海という特殊な環境で暮らす生き物達が暮らしている場所だ。そこで彼らが織りなすショーのお手伝いをさせてもらっている。
西のゾーンのほとんどは水の中。ゾーン全体が様々な術を施されたガラスドームに覆われている。だから私達やお客様が移動する際は、大抵が術によって作られた泡に乗って運んでもらうことになる。レストランやショーの会場とか、一部くらいしか歩いて行ける場所がない。
そんな水の中は特殊な空間操作の術によって、見た目以上の広さが保たれている。どこまでも続いていそうな水平線が広がり、底が見えないほどの深さだってある。だから、クジラやリヴァイアサンみたいに身体の大きな子達もストレスなく、縦横無尽に泳ぐことが出来る。
様々な生き物達が暮らしているけれど、彼らがケンカをすることはない。それどころか、一緒に遊んでいる様子を見ることが出来るくらい。彼らも私達のように術か、それとも他のコミュニケーション手段で意思の疎通が出来ているんだろうか。
勤め始めて、あともうすぐで節目の60年。こちらでのお仕事は慣れたものだが、彼らに対しての謎や魅力は深まるばかり。それでも私なりに、彼らと信頼関係を築けている自負はある。彼らの微かな変化や体調の具合を、術で尋ねなくとも分かるくらいには。
だから、すぐに分かった。今日は何だか様子がおかしいって。決して悪い意味ではないんだけれど、なんというか。
「あの、先輩……なんだか今日は、皆いつも以上に張り切ってません?」
尋ねながら、ガラス越しの彼らの様子をもう一度窺ってみてもやっぱり。ショーを華々しく彩る彼らは、今も熱心に練習を繰り返している。
青く染まった水中を軽やかに、舞うように泳ぐペンギン達は、ジュゴン達が放つバブルリングを次々とくぐっている。水面付近ではリヴァイアサンが起こす波を、アシカ達が華麗に乗りこなしていたり、クラーケンが高さを変えながら掲げる輪っかを、ケルピーやイルカ達が優雅にくぐっていたり。
日頃から練習熱心だったとはいえ、今日の熱量は凄まじい。まるで、成果を披露したい誰かが今すぐにでもやって来るみたい。
「ああ、どうやら伝説のお客様の再来らしいわよ」
先輩があっけらかんと返した単語に、私は興奮のあまり思わず大きな声を上げてしまっていた。
「えっ!? ……伝説のお客様って、あの? 彼らが行く先々で、パーク中の皆が懐いたっていう!?」
「そう、そうっ! 南ゾーンでは、その話でもちきりみたい。普段は滅多に顔を出さないフェニックスまで、例のお客様方の前に現れたって話よ? 初めてのご来場らしいのに」
「うわぁっ、いいなぁ……私もかれこれ59年は勤めさせて頂いてますけど、まだ片手で数えられるくらいしかお会い出来ていないのに」
「あら貴方、運が良い方よ? 私なんか、212年勤めていても、この間南ゾーンの清掃を手伝った時にようやく7回目だったんだから」
今のところ私達しかここには居ない。けれども先輩は周りをぐるりと見回してから、私の側に静かに寄ってきた。ここだけの話だと言わんばかりに口元を手で覆いながら、声を潜めて話し出す。
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