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【新婚旅行編】四日目:俺達が笑い合っているからこそ

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「私もアオイとの時間を心ゆくまで楽しみたいので彼に全てを任せております。撮影から、送る写真の選別と送信までを。同行中はこの様にステルスモードになってもらっておりました」

 フェニックスに向けてでもあり、俺に向けてでもあるんだろう。説明をしてくれながらバアルさんが手のひらを上にしてコルテを指し示した途端、夜空に輝く一等星のように瞬いていた彼が忽然とその姿を消した。

 が、俺には見えていないだけで、ちゃんと居るらしい。すぐ近くでぴるぴると小さな彼がはためく音が聞こえているからな。

「コルテ」

 バアルさんが呼びかけるとコルテは再び姿を現した。聞こえていた音はやっぱり気のせいではなかったみたい。緑に瞬く小さな彼は俺達のすぐ側にまできていたのだ。

 どうりで気がつかなかった訳だ。ただでさえ豆粒くらいのサイズしかない彼が透明になっていたのだから。

 俺が感心している間にも、光の中に浮かぶ写真の内容は変わっていたみたい。それらを眺めながらフェニックスが、赤やオレンジにゆらめく炎の尾羽根を揺らした。

『確かに、どの写真に映っているアオイも可愛らしいです。撮り方も素晴らしいですね』

「そうでしょうとも、私の」

『ですが、それだけではありません』

 またもや饒舌に、はしゃぐ子供のように嬉しそうに語ろうとしていたバアルさんをフェニックスが遮った。

『バアル、貴方ですよ』

「はい?」

 きょとんと丸くなっていたバアルさんの瞳がますます丸くなっていく。不思議そうな顔をするのも織り込み済みだったんだろう。聞こえた声色は少し困ったように笑っていた。

 フェニックスはバアルさんと俺を交互に見つめてから、晴れ渡る青空のように透き通った瞳を細めた。その眼差しからは確かな愛が見て取れた。親が子供へと注ぐ、無償の愛が。

『どちらも貴方の表情は喜びに満ちている……だからこそ、貴方方が笑い合っているからこそ、これらの写真は大変素晴らしいのだと、私は思いますよ』

「ですよねっ! どのバアルさんの笑顔もカッコよくて可愛くて素敵ですよね!」

『ええ、アオイを抱き抱えて歩くこちらは大変ご機嫌そうで可愛らしく、グリフォンを撫でるアオイを見守る様は、誇らしげでありながらも少し寂しそうで可愛いですね』

「ですよねっ!」

 なんて話しが分かるんだ! 流石、バアルさんの親御さん! あ、いや、この国の皆の親御さんでもあったんだっけ。

 思わず俺は拳を握り、前のめりで同意していた。俺を抱き寄せてくれていた、引き締まった彼の腕がビクリと震える。そろそろ止めて欲しいんだろう。遠慮がちに俺を呼ぶ声は、珍しく気恥ずかしそうに聞こえた。

「あ、アオイ……」

『すぐにでも、パークの皆にこれらの写真を見せびらかして自慢したいですね。バアルは可愛らしいお嫁さんと一緒に、こんなにも笑顔溢れる日々を送っていますよ、と』

「っ……ご勘弁を……いえ、ですが、アオイの写真は皆様方に見せつけたいですし……」

 葛藤しているみたい。バアルさんの表情は複雑そう。片方の触角を下げ、整えられた髭がカッコいい口元を隠すように緩く握った拳を当てながら、何やらぶつぶつと考え込んでしまっている。

 じゃあ、この隙に、という訳ではないけれど、もっとフェニックスとバアルさんの素敵ポイントを語り合うことにしよう。その為にも、小さな写真家の力を借りなければ。

「ねぇ、コルテ、俺達の写真をもっとフェニックスに見せてあげてよ。特に、バアルさんの笑顔が素敵なのをピックアップしてさ」

『まぁ、それは良いアイデアですね! 是非、宜しくお願いします!』

 フェニックスもだけど、コルテもノリノリで助かった。緑の煌めきを振り撒きながら「任せて!」とスケッチブックで答えてくれてから、写真を映し出してくれたんだ。

 俺達の企みに気づいたバアルさんは、初めは恥ずかしそうに白い頬を染めていた。

 でも、バアルさんはバアルさんだった。すぐに気持ちを切り替えたようで、俺達の語り合いに颯爽と参戦してきたんだ。それも、それぞれの写真に映っている俺の魅力を語ってくれながら。
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