728 / 1,047
【新婚旅行編】四日目:とあるスタッフ達は、みんなの想いに応えたい
しおりを挟む
「でね、そのお客様方なんだけど……以前のお客様とは違うみたいなのよ。前回の方々は親子で、それもヨミ様とサタン様と雰囲気が似ていらっしゃったでしょう?」
「そうだったみたいですね」
その伝説のお客様達の来訪は、惜しいことに私がこちらで働く前だった。だから先輩方から聞いた話でしか知らない。
でも、その武勇伝自体は、まるで私自身も見ていたかのように事細かく知っている。先輩方がご自身の自己紹介の後に、必ずといっていいほどその話しをしてくれていたお陰で。
それほどまでに衝撃的だったんだろう。私自身もこちらでパークの皆と過ごす日々を重ねるほど、その凄さを理解することが出来たから。
「でも、今回の方々はご夫婦、しかも新婚さんなんですって! お互いの魔力の花を身に着けていて、そりゃあ仲睦まじいご様子だったって話よ」
「わぁ……素敵ですね。多分、新婚旅行ですよね? 南エリアに数ある観光地の中でも、このパークを選んでもらえるなんて……」
「嬉しいわよねぇ……頑張っている甲斐があるっていうか……」
「はい……」
訪れてくれたお客様の笑顔を見る度に、かつての自分の心躍る感動を思い出す。私もなれているのだろうか。あの日、夢のようなひと時をくれた彼らの一員に。
「っていっても、皆の協力があってこそですけど」
「それは当然だけれども、素直に誇っていいんじゃない? 頑張っているのは事実なんだし。ほら、みんなも、そうだそうだって言ってくれてるわよ?」
「え?」
先程まであんなに熱心に練習を重ねていたのに。いつからこちらを見ていたのだろうか。私達のすぐ近くに、ガラスの壁に沿うように彼らが集まってきていた。皆、柔らかな眼差しで私達を見つめている。
本当に言ってくれている気がする。私も皆の一員だって認めてくれているような。
少ししんみりとした気分に浸ってしまっていると、先輩から励ますように背中を叩かれた。俯きかけていた顔を上げれば、そのまま優しく撫でてくれた。
ふと思い出したように先輩が声を上げた。明るく弾んでいて、ここら一帯に響き渡るような声だった。
「あっ、あとそのお客様方の魔力の花のことなんだけど。形は違うんだけど、色はバアル様とアオイ様のお花とそっくりなんですって」
「へぇ、珍しいですね」
「でしょ? 花の形が似ることはよくあることだけれど、色はねぇ。魔力の本質ってのは千差万別だから、一つとして同じ色になることはないって聞いていたんだけれど」
「実はそのお客様方、バアル様とアオイ様の変装だったりして? お忍びで新婚旅行に来られたとか……」
浮かんだのは、ありもしないもしかして。見ているだけで釣られて笑顔になってしまうほど、仲睦まじいお二方が、ヨミ様と世界を救って下さったのに謙虚なお二方が、もし私の勤めるパークに来てくれていたら。
それはとても光栄で、皆に自慢したくなるくらいに誇らしくて嬉しいことなのだけれど。
「あら、もしそうだとしたら素敵ね! みんなが歓迎してくれているみたいで」
「ですよねっ」
「だからって訳じゃあないけれど、私達も頑張らないとね。張り切っているみんなの想いに応える為にも今日もバッチリサポートしないと!」
「はいっ」
また、ぽんっと私の背中を叩いてから先輩が微笑む。いつものように私が、頑張ろうね、と皆に声をかけると、いつも以上に元気な水しぶきが返事代わりに返ってきた。
「そうだったみたいですね」
その伝説のお客様達の来訪は、惜しいことに私がこちらで働く前だった。だから先輩方から聞いた話でしか知らない。
でも、その武勇伝自体は、まるで私自身も見ていたかのように事細かく知っている。先輩方がご自身の自己紹介の後に、必ずといっていいほどその話しをしてくれていたお陰で。
それほどまでに衝撃的だったんだろう。私自身もこちらでパークの皆と過ごす日々を重ねるほど、その凄さを理解することが出来たから。
「でも、今回の方々はご夫婦、しかも新婚さんなんですって! お互いの魔力の花を身に着けていて、そりゃあ仲睦まじいご様子だったって話よ」
「わぁ……素敵ですね。多分、新婚旅行ですよね? 南エリアに数ある観光地の中でも、このパークを選んでもらえるなんて……」
「嬉しいわよねぇ……頑張っている甲斐があるっていうか……」
「はい……」
訪れてくれたお客様の笑顔を見る度に、かつての自分の心躍る感動を思い出す。私もなれているのだろうか。あの日、夢のようなひと時をくれた彼らの一員に。
「っていっても、皆の協力があってこそですけど」
「それは当然だけれども、素直に誇っていいんじゃない? 頑張っているのは事実なんだし。ほら、みんなも、そうだそうだって言ってくれてるわよ?」
「え?」
先程まであんなに熱心に練習を重ねていたのに。いつからこちらを見ていたのだろうか。私達のすぐ近くに、ガラスの壁に沿うように彼らが集まってきていた。皆、柔らかな眼差しで私達を見つめている。
本当に言ってくれている気がする。私も皆の一員だって認めてくれているような。
少ししんみりとした気分に浸ってしまっていると、先輩から励ますように背中を叩かれた。俯きかけていた顔を上げれば、そのまま優しく撫でてくれた。
ふと思い出したように先輩が声を上げた。明るく弾んでいて、ここら一帯に響き渡るような声だった。
「あっ、あとそのお客様方の魔力の花のことなんだけど。形は違うんだけど、色はバアル様とアオイ様のお花とそっくりなんですって」
「へぇ、珍しいですね」
「でしょ? 花の形が似ることはよくあることだけれど、色はねぇ。魔力の本質ってのは千差万別だから、一つとして同じ色になることはないって聞いていたんだけれど」
「実はそのお客様方、バアル様とアオイ様の変装だったりして? お忍びで新婚旅行に来られたとか……」
浮かんだのは、ありもしないもしかして。見ているだけで釣られて笑顔になってしまうほど、仲睦まじいお二方が、ヨミ様と世界を救って下さったのに謙虚なお二方が、もし私の勤めるパークに来てくれていたら。
それはとても光栄で、皆に自慢したくなるくらいに誇らしくて嬉しいことなのだけれど。
「あら、もしそうだとしたら素敵ね! みんなが歓迎してくれているみたいで」
「ですよねっ」
「だからって訳じゃあないけれど、私達も頑張らないとね。張り切っているみんなの想いに応える為にも今日もバッチリサポートしないと!」
「はいっ」
また、ぽんっと私の背中を叩いてから先輩が微笑む。いつものように私が、頑張ろうね、と皆に声をかけると、いつも以上に元気な水しぶきが返事代わりに返ってきた。
12
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる