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【新婚旅行編】四日目:気にはなるけれども、バアルさんの嫌がることは
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『ただ、私の我が儘でお招きしたものの、此方は昼でも視界が悪いでしょう? バアルはともかく、人の子であるアオイにとっては足元が悪いのではと心配で……迎えに来てしまいました』
彼の姿を見た今となっては納得だ。俺達を導いてくれていた目印が、赤い炎だったことも。
「……じゃあ、貴方がバアルさんのお知り合いさんですか?」
途端に鳥さんの青い瞳が丸くなった。いかにも驚いてますと言いたげに豊かな表情は、俺達と何ら変わらない。長い睫毛を伏せながら、話し始めた声色はちょっぴり複雑そうだった。
『ええ、まぁ……旧くからの知り合い、というか……私としては親のような気持ちで見守ってきておりました。バアルのことも、ヨミとサタンのことも』
「お、親ですか? え、じゃあ、バアルさん達にとって目茶苦茶大切な方なんじゃ?」
「フェニックス……それは、貴方様方が我らが神の魔力から生まれた存在だからでしょう?」
「えっ」
『ですから、親のようなものでしょう? そもそも、生まれてくる貴方達の祖先を守るようにと、先に私達が我らが神から生み出されたのですよ? 国に伝わっているお伽噺では、貴方達が先に生まれたことになっておりますが』
ん? 要は神様の魔力から生まれたんだから、神様の分身みたいなものだってこと? そんでもって、神様がバアルさん達を愛していたから、フェニックス達にとっても愛しい子供達……みたいな?
堂々と言い放ったフェニックスに対して、額を覆うように押さえているバアルさん。このやり取りだけでも、気心の知れた相手なのだと判断するには十分だった。バアルさんが砕けた雰囲気になるのは、ヨミ様やサタン様の前がほとんどだから。
……でも、俺だけには甘えてくれるし。俺の全部は当然バアルのものだけど、バアルだって俺だけのバアルだし。
独りよがりな対抗心を燃やしている間も、フェニックスの念話は止まらない。その声は感慨に浸っているような、涙を堪えているような。
『……誠に立派になられましたね。仕事一筋、サタンとヨミ一筋な貴方がこんなに可愛いお嫁さんを連れてきてくれるなんて……挨拶をしようとしていたドラゴンを見て泣いてしまった幼いヨミを守ろうと、自分よりも遥かに巨大な彼らに立ち向かおうとしていた頃が懐かしい……』
え、なにその可愛いエピソード。めっちゃ気になるんだけど。
「それ以上は、どうかご勘弁を……」
フェニックスの念話を遮ったバアルさんの顔は真っ赤っ赤だった。手のひらでそっと俺の耳を覆いながら、フェニックスに向かって頭を下げている。
どうやら、かなりテンパっているみたい。だって、意味ないもんな。向こうは俺達の頭の中に直接話しかけてきているんだからさ。
今にも目を回してしまいそうなバアルさんを前にしても、フェニックスはマイペースに我が道を行っている。バアルさんの心情に理解を示しつつも饒舌なままだ。
『ああ、アオイの前ですものね。ですが、あの時の貴方も格好よかったですよ? それに、アオイにとっては初対面の私が言うのもなんですが、どちらかというと知りたいのでは? 好きな人のことは、どんな些細なことだって知りたいものでしょう? 過去のことなら尚更……』
「……確かに、バアルさんが小さい時や、若い時のお話は知りたいですけど」
「あ、アオイ……っ」
「でも、ご遠慮します。バアルさんが嫌がることはしたくないですから」
「アオイ……」
隣で焦ったようにビクリと上がっていた幅広の肩が、ホッと下りていく。長い腕が俺を抱き寄せてくれた。
柔らかな笑みに戻った彼の触角は忙しなく揺れている。すっかり萎んでしまっていた羽も広がっていた。俺達を包み込むように、そっとはためいている四枚。水晶のように透き通った羽が、フェニックスが放つ暖色の灯りを受けて煌めいている。
バアルさんが真っ直ぐに伸びた背筋を屈めてくれる。より近くになれた微笑む瞳に誘われるように、自然と俺は滑らかな頬に自分の頬を寄せていた。
『……誠に良い方と巡り会えたのですね』
「あっ、う……」
「ええ、私の自慢の妻でございます」
「ひょわ……」
すっかり二人っきりの気分になってしまっていた気恥ずかしさなんて、あっという間に吹き飛んでいった。しっかりと俺を抱き締めてくれたまま、幸せそうに目尻のシワを深めて堂々としてくれた紹介によってあっさりと。
彼の姿を見た今となっては納得だ。俺達を導いてくれていた目印が、赤い炎だったことも。
「……じゃあ、貴方がバアルさんのお知り合いさんですか?」
途端に鳥さんの青い瞳が丸くなった。いかにも驚いてますと言いたげに豊かな表情は、俺達と何ら変わらない。長い睫毛を伏せながら、話し始めた声色はちょっぴり複雑そうだった。
『ええ、まぁ……旧くからの知り合い、というか……私としては親のような気持ちで見守ってきておりました。バアルのことも、ヨミとサタンのことも』
「お、親ですか? え、じゃあ、バアルさん達にとって目茶苦茶大切な方なんじゃ?」
「フェニックス……それは、貴方様方が我らが神の魔力から生まれた存在だからでしょう?」
「えっ」
『ですから、親のようなものでしょう? そもそも、生まれてくる貴方達の祖先を守るようにと、先に私達が我らが神から生み出されたのですよ? 国に伝わっているお伽噺では、貴方達が先に生まれたことになっておりますが』
ん? 要は神様の魔力から生まれたんだから、神様の分身みたいなものだってこと? そんでもって、神様がバアルさん達を愛していたから、フェニックス達にとっても愛しい子供達……みたいな?
堂々と言い放ったフェニックスに対して、額を覆うように押さえているバアルさん。このやり取りだけでも、気心の知れた相手なのだと判断するには十分だった。バアルさんが砕けた雰囲気になるのは、ヨミ様やサタン様の前がほとんどだから。
……でも、俺だけには甘えてくれるし。俺の全部は当然バアルのものだけど、バアルだって俺だけのバアルだし。
独りよがりな対抗心を燃やしている間も、フェニックスの念話は止まらない。その声は感慨に浸っているような、涙を堪えているような。
『……誠に立派になられましたね。仕事一筋、サタンとヨミ一筋な貴方がこんなに可愛いお嫁さんを連れてきてくれるなんて……挨拶をしようとしていたドラゴンを見て泣いてしまった幼いヨミを守ろうと、自分よりも遥かに巨大な彼らに立ち向かおうとしていた頃が懐かしい……』
え、なにその可愛いエピソード。めっちゃ気になるんだけど。
「それ以上は、どうかご勘弁を……」
フェニックスの念話を遮ったバアルさんの顔は真っ赤っ赤だった。手のひらでそっと俺の耳を覆いながら、フェニックスに向かって頭を下げている。
どうやら、かなりテンパっているみたい。だって、意味ないもんな。向こうは俺達の頭の中に直接話しかけてきているんだからさ。
今にも目を回してしまいそうなバアルさんを前にしても、フェニックスはマイペースに我が道を行っている。バアルさんの心情に理解を示しつつも饒舌なままだ。
『ああ、アオイの前ですものね。ですが、あの時の貴方も格好よかったですよ? それに、アオイにとっては初対面の私が言うのもなんですが、どちらかというと知りたいのでは? 好きな人のことは、どんな些細なことだって知りたいものでしょう? 過去のことなら尚更……』
「……確かに、バアルさんが小さい時や、若い時のお話は知りたいですけど」
「あ、アオイ……っ」
「でも、ご遠慮します。バアルさんが嫌がることはしたくないですから」
「アオイ……」
隣で焦ったようにビクリと上がっていた幅広の肩が、ホッと下りていく。長い腕が俺を抱き寄せてくれた。
柔らかな笑みに戻った彼の触角は忙しなく揺れている。すっかり萎んでしまっていた羽も広がっていた。俺達を包み込むように、そっとはためいている四枚。水晶のように透き通った羽が、フェニックスが放つ暖色の灯りを受けて煌めいている。
バアルさんが真っ直ぐに伸びた背筋を屈めてくれる。より近くになれた微笑む瞳に誘われるように、自然と俺は滑らかな頬に自分の頬を寄せていた。
『……誠に良い方と巡り会えたのですね』
「あっ、う……」
「ええ、私の自慢の妻でございます」
「ひょわ……」
すっかり二人っきりの気分になってしまっていた気恥ずかしさなんて、あっという間に吹き飛んでいった。しっかりと俺を抱き締めてくれたまま、幸せそうに目尻のシワを深めて堂々としてくれた紹介によってあっさりと。
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