間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
716 / 1,055

【新婚旅行編】四日目:気にはなるけれども、バアルさんの嫌がることは

しおりを挟む
『ただ、私の我が儘でお招きしたものの、此方は昼でも視界が悪いでしょう? バアルはともかく、人の子であるアオイにとっては足元が悪いのではと心配で……迎えに来てしまいました』

 彼の姿を見た今となっては納得だ。俺達を導いてくれていた目印が、赤い炎だったことも。

「……じゃあ、貴方がバアルさんのお知り合いさんですか?」

 途端に鳥さんの青い瞳が丸くなった。いかにも驚いてますと言いたげに豊かな表情は、俺達と何ら変わらない。長い睫毛を伏せながら、話し始めた声色はちょっぴり複雑そうだった。

『ええ、まぁ……旧くからの知り合い、というか……私としては親のような気持ちで見守ってきておりました。バアルのことも、ヨミとサタンのことも』

「お、親ですか? え、じゃあ、バアルさん達にとって目茶苦茶大切な方なんじゃ?」

「フェニックス……それは、貴方様方が我らが神の魔力から生まれた存在だからでしょう?」

「えっ」

『ですから、親のようなものでしょう? そもそも、生まれてくる貴方達の祖先を守るようにと、先に私達が我らが神から生み出されたのですよ? 国に伝わっているお伽噺では、貴方達が先に生まれたことになっておりますが』

 ん? 要は神様の魔力から生まれたんだから、神様の分身みたいなものだってこと? そんでもって、神様がバアルさん達を愛していたから、フェニックス達にとっても愛しい子供達……みたいな?

 堂々と言い放ったフェニックスに対して、額を覆うように押さえているバアルさん。このやり取りだけでも、気心の知れた相手なのだと判断するには十分だった。バアルさんが砕けた雰囲気になるのは、ヨミ様やサタン様の前がほとんどだから。

 ……でも、俺だけには甘えてくれるし。俺の全部は当然バアルのものだけど、バアルだって俺だけのバアルだし。

 独りよがりな対抗心を燃やしている間も、フェニックスの念話は止まらない。その声は感慨に浸っているような、涙を堪えているような。

『……誠に立派になられましたね。仕事一筋、サタンとヨミ一筋な貴方がこんなに可愛いお嫁さんを連れてきてくれるなんて……挨拶をしようとしていたドラゴンを見て泣いてしまった幼いヨミを守ろうと、自分よりも遥かに巨大な彼らに立ち向かおうとしていた頃が懐かしい……』

 え、なにその可愛いエピソード。めっちゃ気になるんだけど。

「それ以上は、どうかご勘弁を……」

 フェニックスの念話を遮ったバアルさんの顔は真っ赤っ赤だった。手のひらでそっと俺の耳を覆いながら、フェニックスに向かって頭を下げている。

 どうやら、かなりテンパっているみたい。だって、意味ないもんな。向こうは俺達の頭の中に直接話しかけてきているんだからさ。

 今にも目を回してしまいそうなバアルさんを前にしても、フェニックスはマイペースに我が道を行っている。バアルさんの心情に理解を示しつつも饒舌なままだ。

『ああ、アオイの前ですものね。ですが、あの時の貴方も格好よかったですよ? それに、アオイにとっては初対面の私が言うのもなんですが、どちらかというと知りたいのでは? 好きな人のことは、どんな些細なことだって知りたいものでしょう? 過去のことなら尚更……』

「……確かに、バアルさんが小さい時や、若い時のお話は知りたいですけど」

「あ、アオイ……っ」

「でも、ご遠慮します。バアルさんが嫌がることはしたくないですから」

「アオイ……」

 隣で焦ったようにビクリと上がっていた幅広の肩が、ホッと下りていく。長い腕が俺を抱き寄せてくれた。

 柔らかな笑みに戻った彼の触角は忙しなく揺れている。すっかり萎んでしまっていた羽も広がっていた。俺達を包み込むように、そっとはためいている四枚。水晶のように透き通った羽が、フェニックスが放つ暖色の灯りを受けて煌めいている。

 バアルさんが真っ直ぐに伸びた背筋を屈めてくれる。より近くになれた微笑む瞳に誘われるように、自然と俺は滑らかな頬に自分の頬を寄せていた。

『……誠に良い方と巡り会えたのですね』

「あっ、う……」

「ええ、私の自慢の妻でございます」

「ひょわ……」

 すっかり二人っきりの気分になってしまっていた気恥ずかしさなんて、あっという間に吹き飛んでいった。しっかりと俺を抱き締めてくれたまま、幸せそうに目尻のシワを深めて堂々としてくれた紹介によってあっさりと。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...