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【新婚旅行編】四日目:俺には、すっごく物知りな旦那様がついているんで!

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「は、はいっ」

「ご確認下さい」

 興味津々で見ている内に銀色のゲートの前まで着いていた。慌ててチケットを差し出した俺に続いて、バアルさんも会釈をしてから受付の方へと手渡した。

 チケットには、値段と現在の日時、それから大人という表記しかされていなかった。新婚割だとか、俺達がそうだと分かるような文字はどこにも。しかし、スタッフさんには分かる違いがあったらしい。それがデザインなのか色なのかは分からないけれど。

 現に受付の男性はチケットを見ただけで、背中の丸い半透明の羽を大きく広げ「ご新婚の方ですね、おめでとうございます!」と眩しい笑顔を向けてくれた。

「では、魔力の花も拝見させて頂き……ああ、大丈夫ですね。失礼致しました」

 たった今、左胸につけてある魔力の花に気づいたみたい。俺とバアルさんとを交互に見てから、丁寧なお辞儀を披露した。

「ところでお客様、ガイドはご入用でしょうか?」

「ガイド、ですか?」

 もしかして、と思い至りかけていた時、スタッフさんが俺達に向けて手のひらを差し出した。すると何の前触れもなく、手のひらの上に突然鳥が現れた。

 サイズは手乗りのインコくらいで可愛らしい。模様はない。が、翼や尾羽根の先に向かっていくにつれて、だんだんと黄色から赤へと変わっていくグラデーションがキレイだ。ふわふわとしていそうな小さな身体が、時々炎のように揺らめいて見えるのは気のせいだろうか?

 慣れているようで、スタッフさんが人差し指を差し出すと、止まり木代わりにちょこんとのった。どこかへと飛び立ってしまう様子もない。ひと鳴きもせずに大人しく、つぶらな茶色の瞳で俺達を見つめている。

「こちらのイドくんが、園内の耳寄り情報を……此方に住まう子たちの生態、ショーの開始時間、レストランの混み具合などを教えてくれます」

 ああ、やっぱり。他のお客さん達が連れていた、オウムや蝶もガイドさんだったんだろう。

「ご入用でない時は、上空を静かに羽ばたきながらついてきてくれますよ」

「ぴっきゅあ!」

 スタッフさんに紹介されて、初めて可愛らしい声で鳴いたイドくん。その小さな両の翼をバンザイするように上げながら喋り始めた。

「コンニチハ、透き通ったヒトミがキレイなオクサマ! ユウガな羽がステキなダンナサマ!」

「スゴっ、ペラペラですね」

「お褒めイタダき、アリガとうございます! アナタサマもステキ、ステキ!」

「はは、ありがとう、君もキレイで可愛いよ。どうしましょうか、バアルさ……」

 つい口が開いたままになってしまっていた。見上げた先にある彫りの深い顔が複雑そうに歪んでいたから。鮮やかな緑の瞳が寂しそうに細められていたから。

「えっと……すみません、ガイドは大丈夫です」

「……アオイ?」

「俺には、すっごく物知りな旦那様がついているんで!」

 戸惑うように俺を呼んだ彼に抱きついて見せれば、スタッフさんが納得したように微笑んだ。イドくんが「ステキ、ステキ、ラブラブ!」と囃し立てるように鳴く最中、ぱたぱたと風を切るような羽の音が聞こえてきた。

「畏まりました。では、こちらのブレスレットをお付けになってご入場下さい」

 スタッフさんから手渡されたのは銀色のブレスレットだった。つける前は長く見えたが、バアルさんにつけてもらうと不思議なことに、ダラリと余ってしまうことなくピタリと俺の手首に合った。あらかじめどんな方でも合うように、術がかけられていたのかも。

 ブレスレットには、腕時計の文字盤のように大きな魔宝石が一つあしらわれている。四角にカットされた青が日差しを受けて煌めく様は万華鏡のよう。だがしかし、ただのキレイな入園の証という訳ではなかったらしい。

「こちらの魔宝石に魔力を込めることで、お近くの転移魔法陣の場所までお連れする仕様となっております。転移魔法陣からはレストランや売店、インフォメーションセンター、救護室、ゲート前などの移動が可能となっております。お気軽にご利用下さい」

 なんと便利な。パンフレットで全体図をざっと見ただけでも結構な広さだったからな。これさえあれば憂いなし、万が一があっても大丈夫そうだ。

 まぁ、俺にはバアルさんがついているから迷うことはないだろうけど。もし歩き疲れちゃったとしても、抱っこで連れて行ってくれるだろうし。

 スタッフさんとイドくんに手を振って、待ちに待ったパーク内へ。自然と足取りも軽くなる。期待で胸が高鳴っている俺とは打って変わって、おずおずと尋ねてきた彼の声はちょっぴり沈んでいた。

「宜しかったのでしょうか? ……気に入って、いらっしゃったでしょう?」

「イドくんのことですか? 確かに、可愛いなとは思いましたけど、バアルさんと楽しむことの方が大事ですから……それに」

 申し訳無さ半分、嬉しさ半分だった彼の表情が、今は嬉しさの方が勝っていた。しょんぼりと下がっていた触角が弾むように揺れ始め、縮こまっていた四枚の羽が大きく広がっていく。

 歩みを緩め、真っ直ぐに俺を見つめながら、ヘタれて言い淀んでしまっていた続きを待ってくれている。

「二人っきりの方が、嬉しいから……旅行中はバアルのこと独り占めにするって決めていたし、うわっ」

 伝えられたけれども、俯いてしまっていた。石畳しか映っていなかった視界が一瞬ブレてから、今度は分厚い胸板に占められる。

 嬉しいけれども心臓には良くない。普段の執事服スタイルと違って薄手なカジュアルコーデでは、余計にその柔らかな弾力が、大好きな温もりが伝わってきてしまうから。
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