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【新婚旅行編】四日目:俺達にはなかった考え方

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 肯定するだけでいいのに言葉でも行動でもアピールしてしまっていた。宣言しながら、バアルさんの長く引き締まった腕に抱きついてしまっていた。

 ぶんぶん、ぱたぱたと急に賑やかになった音に釣られて顔を上げれば、白い頬を真っ赤に染めた彼と目が合った。くびれたラインがカッコいい首までもが桜色に染まりつつある。

 僅かに見開かれた瞳はキラキラと煌めいていて、喜びがあふれんばかり。忙しなく揺れている細く長い触覚と、風を切るようにはためく半透明の羽からもひしひしと伝わってくる。

「あ……」

 全く持って間違ってはいない。だって俺達はもう夫婦で、今は幸せな新婚旅行の真っ最中なのだから。だというのに、ヘタレな俺が顔を出したからだろう。何だかやらかしたような気分になってしまっていた。

 背中に汗は滲むものの、大好きな彼から離れる気には。ただただ見つめてしまっていると、七分丈から覗いている逞しい腕に抱き寄せられた。

 後ろから包み込むように抱き締めてくれながら、バアルさんが俺の左手を恭しく取る。受付の女性に向かって手の甲を見せるように持ち上げてから、ご自身の左手の甲も。薬指で輝いている白銀の輪を、永遠の誓いを見せつけるようにして、堂々と言い放った。

「はい、此方が私の愛しい妻でございます。ひと月ほど前に結婚させて頂き、此度は新婚旅行で此方に」

「おめでとうございます! ご存知かもしれませんが、南エリアではご新婚様のサービスを行っております。当園では入園料を10%引きさせて頂いております。オススメのチケットは此方になりますが……いかがなさいますか?」

 とびきりのスマイルを浮かべたスタッフさんがオススメしてきたのは、やっぱりドラゴンと一緒チケット。それに関しては、迷うことはなかったのだけれども。

「では、コースはどちらに致しますか? 今のところ、まだどちらのコースにも余裕がございますが……」

「えっと……どれが一番人気なんですか?」

「そうですね……どちらのコースも大変ご好評頂いておりますので、後はお客様のお好みによるとしか……」

 だろうなぁ。だって、どのコースも魅力的なんだもん。

 ダメ元で聞いてみたものの、返ってきたのは予想通りな答えと困ったような微笑みだった。とはいえ、いつまでも悩んでいてはご迷惑をかけてしまう。早く決めなくてはと、バアルさんとまたご相談をしようとしていたところ。

「強いて言うのであれば……夜空コースを選ばれた場合、出発のお時間が閉園近くになりますので、お時間の都合が合わないのであれば青空か夕焼けがよろしいかと。それから、ショーを沢山楽しまれるのでしたら夕焼けか夜空の方が。ショーの開催は午前とお昼の時間帯に多く行われておりますので」

 そういう考え方もあったか。初めて訪れた俺達じゃあ、思いつかなかったな。有り難いご意見を参考にしながら考えてみる。

 ショーは元々見たかったし、せっかく来たんだからパーク内を時間いっぱいまで楽しみたいところ。だったら。

「俺はのんびりお散歩もしたいし、ショーも見たいから、夕焼けか夜空がいいなって思うんですけど……バアルさんはどうですか?」

「でしたら、私は夜空を。私も此方で貴方様と過ごすお時間を、めいいっぱい楽しみたく存じます」

「じゃあ、決まりですねっ、青空と夕焼けは次回のお楽しみにしましょう!」

「ええ、そう致しましょう」

 クスリと聞こえた小さな笑みに顔を向ければ、スタッフさんが口元に手を当て微笑んでいた。浮かれて両手で握ってしまっていた、ひと回り大きな彼の手を思わず離す。すぐ隣で、どこかわざとらしい咳払いが聞こえた。

 やってしまった……はしゃぎ過ぎてしまったな。まだまだ俺達の後ろにはお客さん達が、今か今かと列を作っているってのに。

「ご、ごめんなさい、大きな声出しちゃって」

「……お騒がせして申し訳ございません」

「いえ、無事に決まったようで何よりです。よい一日を。今日という日が、お二人にとって素晴らしい思い出になるよう願っております」

「っ……ありがとうございます」

 柔らかに微笑む彼女に見送られながら、購入したチケットを手に園内へ続くゲートへと並ぶ。こちらも変わらず列は長かったが、そこまで時間はかからなそうだ。いくつもあるゲートにて受付の方が手早く捌いていくので、さくさくと前へと進んでいく。

 ただ、何やら皆さん園内へと進む際、オウムのような鳥やら、青い蝶やらトンボやらを連れて行っているみたいなんだけど?

「お次のお客様、チケットをどうぞ」
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