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【新婚旅行編】四日目:キレイなままのパンフレット

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 行列に並ぶ俺達を出迎えている高い高いフェンス。多分鉄であろう、見た目からして硬そうな金属に囲まれた施設は、動物園というよりはサファリパークに近いような。

 大勢の眩しい笑顔や高まる期待にあふれているここ、入場ゲート前。見上げるだけで首を痛めてしまいそうな位置にあるパークの看板を、看板よりも大きな黒くて赤い目をしたドラゴンが噛みついている。鋭い爪と牙を持ち、大きな翼を広げた姿は立体的で、その鱗も目も生き生きとしている。飾りなハズなのに今にも動き出しそうだ。

 ほとんどドラゴンが主役な、それっぽい噛み跡やヒビの入った看板はとても魅力的だ。けれども、それ以上に目を惹かれてしまうものがある。凝った看板すらも容易く追い越して、晴れ渡る空に向かって堂々と佇んでいる山。パンフレットの表紙にも大きく載っている青い水晶の山だ。

 鉱石といえばで見たことがある、いくつもの高さの異なる水晶が、柱みたいにニョキニョキ生えているヤツ。それが、そのまま巨大化して山のサイズになったような。人間の俺にとってはファンタジーみあふれる水晶の山を中心に、その周囲には木々や草花と様々な緑であふれている。

 この景色だけでも幻想的な森って感じで、園内を散歩するだけで楽しそう。だというのに、こちらで暮らしている現世で馴染みのある動物達や、ペガサスやグリフォンといった想像上の生き物達を間近で見ることが出来るし、彼らと触れ合えるというのだ。勿論、ドラゴンとも。

 まだまだゲートまでは遠いけれども、早くも期待に胸がはしゃいでしまっている。繋いでいる手にも力が入ってしまっていたんだろうか。

「大変楽しみですね」

 優しい手つきで頭を撫でてもらえたかと思えば、鮮やかな緑の瞳に微笑みかけられた。バアルさんも楽しみにしてくれていそう。小さく左右に揺れている二本の触角からも、そわそわとはためく半透明の羽からも伝わってくる。

「はいっ、バアルさんは何処を見たいですか?」

 列に並ぶ際、最後尾に居たスタッフさんからいただいたパンフレットを、バアルさんにも見えるように広げて見せる。

 園内は、水晶の山を中心に大きく四つのゾーンに分かれているらしい。北はドラゴンが居るというゾーン、目玉はドラゴンとの空中遊泳体験。新婚旅行で南エリアを訪れると決めた時から、楽しみにしていた内の一つだ。

 これに関してはあらかじめバアルさんと、絶対に乗りましょうね、と約束している。入場ゲートから一番離れているから、他のところを回ってから時間に余裕を持って行った方がいいかな。

 東はレストランやグッズやお土産が売っているお店。それから決まった時間にショーを行っているドーム型の施設があるみたい。好きな生き物達に確実に会えるという触れ合い広場もあるらしい。

 西は海に住む生き物達がメインのゾーン。こちらにも東と同じくレストランやお土産屋さん、ショーが行われている施設に触れ合い広場。要は東と西では、会える生き物達のジャンルが違うってことだ。動物園と水族館みたいなさ。

 そして、俺的にはドラゴンの次に楽しみな南のゾーン。のんびりお散歩コースだ。

 こちらは、景色を楽しみながら自然体で暮らす生き物達と触れ合うことが出来るとのこと。ただし、どんな生き物に会えるかは運次第。なんせ彼らは自由気ままに暮らしているんだからな。

 絶対に会いたい推しの生き物が居るんなら、東や西がオススメなんだろう。でも、俺は広大な自然の中を歩きながら、誰に会えるのかなっていうワクワク感を楽しみたい。だってさ、なんか宝探しみたいだろう?

 バアルさんは、どのゾーンに行きたいのかな? もし、彼が会いたい生き物が居るんだったら、そちらに行ってから時間が合えばショーを見ようかな。

「そうですね……私は、此方のお散歩コースを貴方様とご一緒致したく存じます」

「あっ、俺も! 俺も行きたいなって思ってました!」

 お揃いだったなんて。嬉しさのあまりくっついてしまっていた。飛びつくような勢いだったのに、鍛え抜かれた彼の長身はビクともしない。穏やかな微笑みを浮かべたまま、俺を抱き止めてくれていた。

「左様でございましたか。では、南のゾーンを主に楽しんでから、ショーの時間になった際には東や西に参りましょうか?」

「いいですねっ、そうしましょう!」

 小躍りしそうな気分のまま、もう一度手元のパンフレットを眺めようとして気づく。しっかりと俺の握った跡がつき、シワが寄ってしまっていることに。慌てて離して伸ばしてみても、もう遅い。

 ……やってしまった。このパンフレットも新婚旅行の記念に保管しようと思っていたのにな。

 少し近くなったゲート付近を見れば、プラスチックのケースに同じパンフレットがみっちりと入っていた。キレイなものが良ければ、新しいのをもらえばいいんだろうけど。

「アオイ、失礼致しますね」

「え……はい?」

 そっと伸びてきた、白くて長い指。整えられた爪先が、少しシワの寄ってしまっていたパンフレットを撫でていく。すると瞬く間に新品同様にキレイになった。

「ありがとうございますっ」

「いえ。思い出になるであろうお品を、大切に保管しておきたいというお気持ちは、痛いほど分かります故」

 バアルさんが凛々しい眉を片方下げた。シャープな顎に指を当てながら、目尻のシワを深くする。白い髭が素敵な口元に浮かんだ笑みは、どこか得意気だ。

「念の為に保護の術を施しておきました。ちょっとやそっとでは、シワも、折り目も、汚れもつきませんよ」

 もはや、心配りのレベルが上限突破しているのではなかろうか。アフターフォローも完璧過ぎる。

 遠慮なく俺は、また引き締まった長身へと身を寄せた。少し強く握ってしまっていたけれど、手の中のパンフレットはキレイなままだった。
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