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【新婚旅行編】三日目:俺からもお返しをしようかな?
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頼もしく隆起した広い背が透けて見えるほど、大きく広がった四枚の羽は曇りのないガラスのよう。シャンデリアの明かりをキラキラと反射させて、まっさらなシーツの上に振り撒いている。
触れている感触もそれに近い。ツルツルとしていて、ほんのり冷たくて、でもどこか温かくて。丈夫そうで硬いんだけれども、しなやかに曲がるくらいには柔らかい。何度触れさせてもらっても、ホントに不思議な感触だ。
大事な彼の身体の一部へと塗り拡げている、お手入れ用のクリームと一緒に時々ふわりと鼻を擽ってくるのは、華やかだけれども上品な香り。普段のお風呂上りとは、甘いミルクの香りとは違うけれども、これはこれでいい匂いだと思う。
……俺からも、一応お揃いの香りがしているんだよなぁ。自分のは、あんまりよく分からないけどさ。
試しに後で嗅いでみようかな、なんて考えている内に指先が羽の先まで辿り着いていた。楽しい時間が終わるのはホントに早いもんだ。
名残惜しいけれども手を離す。シーツの上に置いていたタオルで手を拭ってから、彼の肩に触れた。
「バアルさん、終わりましたよ」
「ありがとうございます、アオイ。お疲れ様でした」
振り向いた笑顔が、すぐさま俺に近づいてくれる。しゃんと伸ばしていた背筋を軽く屈めて、額を重ねて、緩かなラインを描いた唇が頬に触れてくれた。整えられたお髭も掠めてきて、ちょっぴり擽ったい。
「ん、ふふ、バアルさんもお疲れ様です」
一度だけかと思いきや、労いのご褒美は続く。俺の髪を梳くように撫でてくれながら、今度は額や目尻に。鼻の先にまで柔らかなキスを送ってくれた。
……俺からもお返しをしようかな?
考えていた矢先に感じた浮遊感。長く引き締まった腕が俺を軽々と抱き上げ、お膝の上へと乗せてくれた。
相も変らず、いつ術を使っていたのか。すでに彼はシンプルな白いカッターシャツを身に纏っていた。
羽の手入れがしやすいようにと、惜しげもなく晒していた肉体美。鍛え抜かれた筋肉が作り出しているメリハリのあるボディは、今や緩んだ襟元からちらりと覗いているだけ。尖った喉仏と、浮き出た鎖骨が見えているだけだ。
いやいや、それだけでも十分カッコいいし、色っぽいんだけどさ。
ほんのり滲んだ残念な気持ちを気づかなかったことにして、引き締まった首に腕を伸ばす。視線が絡んだ途端、より近くなれた彫りの深い顔が綻んだ。額から生えている二本の触角がご機嫌そうに揺れている。
「お飲み物はいかがでしょうか? 紅茶を淹れましょうか? それとも冷たいジュースや、お水の方が宜しいでしょうか?」
「んー……じゃあ、紅茶がいいな。バアルが淹れてくれる紅茶、好きだから」
微笑みかけると、すぐに彼も目尻のシワを深めて笑みを返してくれた。ただ、気のせい……だろうか。少しだけ彼の触角が、くるりと反った先端がぴょこんと弾んだように見えたんだ。
「……畏まりました」
たおやかな彼の手が、俺の指先を優しく握る。エスコートしてくれる時のように繋いでくれたかと思えば、そのままそっと引き寄せられた。穏やかな笑みを湛えたままの口元へと。
それから先は流れるように。あっ、と思った時には軽やかな音が鳴っていて、形の良い唇が離れていた。手の甲が熱い。ちょっぴり触れてもらえただけなのに、まだ彼の柔らかな感触がじんわりと残ってしまっている。
「っ……バアル」
「おや、いかがなさいましたか? 私の可愛いアオイ」
困ったもんだ。唐突なスキンシップだけじゃない。悪戯っぽく持ち上がった口角にすら、楽しそうな声色にすら、ときめいてしまうなんて。
「っ……もう」
「申し訳ございません……お可愛らしいことを仰って下さったばかりか、反応まで愛らしかったものですから、つい」
「…………」
「アオイ……?」
楽しんでいるような声が、不安そうな声に変わっていく。わざと彼から背けている頬に、しなやかな指先がおずおずと触れてきた。
今が絶好のタイミングだ。目線だけを向けて確認すると、バアルさんは凛々しい眉を下げて俺の顔を覗き込むように見つめていた。
「隙ありっ」
触れている感触もそれに近い。ツルツルとしていて、ほんのり冷たくて、でもどこか温かくて。丈夫そうで硬いんだけれども、しなやかに曲がるくらいには柔らかい。何度触れさせてもらっても、ホントに不思議な感触だ。
大事な彼の身体の一部へと塗り拡げている、お手入れ用のクリームと一緒に時々ふわりと鼻を擽ってくるのは、華やかだけれども上品な香り。普段のお風呂上りとは、甘いミルクの香りとは違うけれども、これはこれでいい匂いだと思う。
……俺からも、一応お揃いの香りがしているんだよなぁ。自分のは、あんまりよく分からないけどさ。
試しに後で嗅いでみようかな、なんて考えている内に指先が羽の先まで辿り着いていた。楽しい時間が終わるのはホントに早いもんだ。
名残惜しいけれども手を離す。シーツの上に置いていたタオルで手を拭ってから、彼の肩に触れた。
「バアルさん、終わりましたよ」
「ありがとうございます、アオイ。お疲れ様でした」
振り向いた笑顔が、すぐさま俺に近づいてくれる。しゃんと伸ばしていた背筋を軽く屈めて、額を重ねて、緩かなラインを描いた唇が頬に触れてくれた。整えられたお髭も掠めてきて、ちょっぴり擽ったい。
「ん、ふふ、バアルさんもお疲れ様です」
一度だけかと思いきや、労いのご褒美は続く。俺の髪を梳くように撫でてくれながら、今度は額や目尻に。鼻の先にまで柔らかなキスを送ってくれた。
……俺からもお返しをしようかな?
考えていた矢先に感じた浮遊感。長く引き締まった腕が俺を軽々と抱き上げ、お膝の上へと乗せてくれた。
相も変らず、いつ術を使っていたのか。すでに彼はシンプルな白いカッターシャツを身に纏っていた。
羽の手入れがしやすいようにと、惜しげもなく晒していた肉体美。鍛え抜かれた筋肉が作り出しているメリハリのあるボディは、今や緩んだ襟元からちらりと覗いているだけ。尖った喉仏と、浮き出た鎖骨が見えているだけだ。
いやいや、それだけでも十分カッコいいし、色っぽいんだけどさ。
ほんのり滲んだ残念な気持ちを気づかなかったことにして、引き締まった首に腕を伸ばす。視線が絡んだ途端、より近くなれた彫りの深い顔が綻んだ。額から生えている二本の触角がご機嫌そうに揺れている。
「お飲み物はいかがでしょうか? 紅茶を淹れましょうか? それとも冷たいジュースや、お水の方が宜しいでしょうか?」
「んー……じゃあ、紅茶がいいな。バアルが淹れてくれる紅茶、好きだから」
微笑みかけると、すぐに彼も目尻のシワを深めて笑みを返してくれた。ただ、気のせい……だろうか。少しだけ彼の触角が、くるりと反った先端がぴょこんと弾んだように見えたんだ。
「……畏まりました」
たおやかな彼の手が、俺の指先を優しく握る。エスコートしてくれる時のように繋いでくれたかと思えば、そのままそっと引き寄せられた。穏やかな笑みを湛えたままの口元へと。
それから先は流れるように。あっ、と思った時には軽やかな音が鳴っていて、形の良い唇が離れていた。手の甲が熱い。ちょっぴり触れてもらえただけなのに、まだ彼の柔らかな感触がじんわりと残ってしまっている。
「っ……バアル」
「おや、いかがなさいましたか? 私の可愛いアオイ」
困ったもんだ。唐突なスキンシップだけじゃない。悪戯っぽく持ち上がった口角にすら、楽しそうな声色にすら、ときめいてしまうなんて。
「っ……もう」
「申し訳ございません……お可愛らしいことを仰って下さったばかりか、反応まで愛らしかったものですから、つい」
「…………」
「アオイ……?」
楽しんでいるような声が、不安そうな声に変わっていく。わざと彼から背けている頬に、しなやかな指先がおずおずと触れてきた。
今が絶好のタイミングだ。目線だけを向けて確認すると、バアルさんは凛々しい眉を下げて俺の顔を覗き込むように見つめていた。
「隙ありっ」
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