688 / 906
【新婚旅行編】三日目:迷った末の縁
しおりを挟む
バアルさんからの提案を切っ掛けに、頭の中にキラキラと浮かんでくる。
小玉サイズのスイカを器にして、色とりどりのフルーツを浮かべたフルーツポンチ。贅沢にフルーツを添えた、生クリームたっぷりのパンケーキ。サクサクの生地を埋めつくしているイチゴが、宝石みたいに輝いているタルト。
「いいですね! お食事っていうよりは、ティータイムって感じですけど……」
「でしたら、サンドイッチも作りましょうか。茹でたエビを挟んだり、白身魚を捌いてフライにしても宜しいかと」
「ベーコンも買いましょう! 折角だからっ、贅沢に少し分厚いヤツ!」
「ふふ、左様でございますね。それでは果物を選んでから、海鮮と加工肉、それからお野菜を見に行きましょうか?」
「はいっ」
照準が定まってからは、トントン拍子に。ルートが決まった俺達は、最後の一滴まで楽しませてもらったパイナップルの器をゴミ箱へと捨ててから、市場へと繰り出した。今度はぶらぶらと宛もなくではなく、しっかりと目的のお店へと。
とはいえ、通りの終わりが見えてこないほどの広大さは、まるで一つの街のよう。その両サイドに、いくつもの店が並んでいるのだ。果物屋さんも二つや三つどころじゃあ無い訳で。
「……どこのお店で買いましょうか?」
「……ええ、迷ってしまいますね」
「おや、もしかしてお客さん達、新婚さんかい?」
悩みに悩んでいた俺達の会話に、突如参加してきたの太い声。はたと顔を向ければ、クワガタのような角を生やした壮年の男性が屈託のない笑顔を向けていた。
どうやら、今まさに通り過ぎようとしていたお店の店主さんらしい。
その風貌は、まさに南国の伊達男って雰囲気。膝丈のズボンに、アロハっぽい柄をした真っ青な半袖のシャツを着こなしている。袖がはち切れんばかりに筋骨隆々な二の腕が、黒光りするほどに日焼けしている肌が眩しい。
俺達の胸元を指差していた手をパーにして、ひらひらと振っている。こっちにおいでと言わんばかりに招いてくる。
「良かったら、見てっておくれよ! 俺からのお祝いだっ、サービスするよ?」
彼のお店は、丁度お目当てだった果物屋さん。ズラリと並んでいるのは、リンゴにイチゴ、バナナにスイカにパイナップルなどと俺でも知っている馴染み深いフルーツ。
それから見るのも初めてな、花が咲く前の蕾のような形をした真っ赤な果物や、赤紫色のトマトみたいな果物などなどと、思わず目移りしてしまう充実さだ。
「ね、バアル、折角だし……」
「ええ、これも何かのご縁、此方で買わせて頂きましょうか」
頷き合ってからお店へと足を向けた俺達に、店主さんが「いらっしゃい!」とゴツゴツした手を合わせ、ギザギザとしたハサミをご機嫌そうにカチカチ鳴らす。
「オススメは、スターフルーツにマンゴー、パッションフルーツもいいね! ああ、勿論、他のフルーツも新鮮で、糖度も高いよ!」
マンゴーは知っている。パッションフルーツも名前だけなら。その正体は、赤紫色のトマトだと思っていたものだった。
しかし、店主さんが差し出してきたオススメの一つ、カカオの実のような形をした黄色の果実は、とてもじゃないがその名の通りの星型には。
「スター、フルーツ?」
うっかり疑問符で返していた俺に、店主さんが楽しそうに口端を持ち上げた。いい獲物を見つけたって感じで。
「へっへっへ、長い尻尾が素敵なお客さんも、断面を見れば納得すると思うぜ?」
悪役じみた笑みを漏らしながら、店主さんが太い指先で果物を軽くつつく。途端にその部分だけが落ちていった。石畳へと転がることはなく、すぐ下で待ち構えたように浮かんでいたお皿へと静かに着地する。
「ほら、どうだい? キレイなお星様だろう?」
小玉サイズのスイカを器にして、色とりどりのフルーツを浮かべたフルーツポンチ。贅沢にフルーツを添えた、生クリームたっぷりのパンケーキ。サクサクの生地を埋めつくしているイチゴが、宝石みたいに輝いているタルト。
「いいですね! お食事っていうよりは、ティータイムって感じですけど……」
「でしたら、サンドイッチも作りましょうか。茹でたエビを挟んだり、白身魚を捌いてフライにしても宜しいかと」
「ベーコンも買いましょう! 折角だからっ、贅沢に少し分厚いヤツ!」
「ふふ、左様でございますね。それでは果物を選んでから、海鮮と加工肉、それからお野菜を見に行きましょうか?」
「はいっ」
照準が定まってからは、トントン拍子に。ルートが決まった俺達は、最後の一滴まで楽しませてもらったパイナップルの器をゴミ箱へと捨ててから、市場へと繰り出した。今度はぶらぶらと宛もなくではなく、しっかりと目的のお店へと。
とはいえ、通りの終わりが見えてこないほどの広大さは、まるで一つの街のよう。その両サイドに、いくつもの店が並んでいるのだ。果物屋さんも二つや三つどころじゃあ無い訳で。
「……どこのお店で買いましょうか?」
「……ええ、迷ってしまいますね」
「おや、もしかしてお客さん達、新婚さんかい?」
悩みに悩んでいた俺達の会話に、突如参加してきたの太い声。はたと顔を向ければ、クワガタのような角を生やした壮年の男性が屈託のない笑顔を向けていた。
どうやら、今まさに通り過ぎようとしていたお店の店主さんらしい。
その風貌は、まさに南国の伊達男って雰囲気。膝丈のズボンに、アロハっぽい柄をした真っ青な半袖のシャツを着こなしている。袖がはち切れんばかりに筋骨隆々な二の腕が、黒光りするほどに日焼けしている肌が眩しい。
俺達の胸元を指差していた手をパーにして、ひらひらと振っている。こっちにおいでと言わんばかりに招いてくる。
「良かったら、見てっておくれよ! 俺からのお祝いだっ、サービスするよ?」
彼のお店は、丁度お目当てだった果物屋さん。ズラリと並んでいるのは、リンゴにイチゴ、バナナにスイカにパイナップルなどと俺でも知っている馴染み深いフルーツ。
それから見るのも初めてな、花が咲く前の蕾のような形をした真っ赤な果物や、赤紫色のトマトみたいな果物などなどと、思わず目移りしてしまう充実さだ。
「ね、バアル、折角だし……」
「ええ、これも何かのご縁、此方で買わせて頂きましょうか」
頷き合ってからお店へと足を向けた俺達に、店主さんが「いらっしゃい!」とゴツゴツした手を合わせ、ギザギザとしたハサミをご機嫌そうにカチカチ鳴らす。
「オススメは、スターフルーツにマンゴー、パッションフルーツもいいね! ああ、勿論、他のフルーツも新鮮で、糖度も高いよ!」
マンゴーは知っている。パッションフルーツも名前だけなら。その正体は、赤紫色のトマトだと思っていたものだった。
しかし、店主さんが差し出してきたオススメの一つ、カカオの実のような形をした黄色の果実は、とてもじゃないがその名の通りの星型には。
「スター、フルーツ?」
うっかり疑問符で返していた俺に、店主さんが楽しそうに口端を持ち上げた。いい獲物を見つけたって感じで。
「へっへっへ、長い尻尾が素敵なお客さんも、断面を見れば納得すると思うぜ?」
悪役じみた笑みを漏らしながら、店主さんが太い指先で果物を軽くつつく。途端にその部分だけが落ちていった。石畳へと転がることはなく、すぐ下で待ち構えたように浮かんでいたお皿へと静かに着地する。
「ほら、どうだい? キレイなお星様だろう?」
16
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる