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【新婚旅行編】三日目:迷った末の縁

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 バアルさんからの提案を切っ掛けに、頭の中にキラキラと浮かんでくる。

 小玉サイズのスイカを器にして、色とりどりのフルーツを浮かべたフルーツポンチ。贅沢にフルーツを添えた、生クリームたっぷりのパンケーキ。サクサクの生地を埋めつくしているイチゴが、宝石みたいに輝いているタルト。

「いいですね! お食事っていうよりは、ティータイムって感じですけど……」

「でしたら、サンドイッチも作りましょうか。茹でたエビを挟んだり、白身魚を捌いてフライにしても宜しいかと」

「ベーコンも買いましょう! 折角だからっ、贅沢に少し分厚いヤツ!」

「ふふ、左様でございますね。それでは果物を選んでから、海鮮と加工肉、それからお野菜を見に行きましょうか?」

「はいっ」

 照準が定まってからは、トントン拍子に。ルートが決まった俺達は、最後の一滴まで楽しませてもらったパイナップルの器をゴミ箱へと捨ててから、市場へと繰り出した。今度はぶらぶらと宛もなくではなく、しっかりと目的のお店へと。

 とはいえ、通りの終わりが見えてこないほどの広大さは、まるで一つの街のよう。その両サイドに、いくつもの店が並んでいるのだ。果物屋さんも二つや三つどころじゃあ無い訳で。

「……どこのお店で買いましょうか?」

「……ええ、迷ってしまいますね」

「おや、もしかしてお客さん達、新婚さんかい?」

 悩みに悩んでいた俺達の会話に、突如参加してきたの太い声。はたと顔を向ければ、クワガタのような角を生やした壮年の男性が屈託のない笑顔を向けていた。

 どうやら、今まさに通り過ぎようとしていたお店の店主さんらしい。

 その風貌は、まさに南国の伊達男って雰囲気。膝丈のズボンに、アロハっぽい柄をした真っ青な半袖のシャツを着こなしている。袖がはち切れんばかりに筋骨隆々な二の腕が、黒光りするほどに日焼けしている肌が眩しい。

 俺達の胸元を指差していた手をパーにして、ひらひらと振っている。こっちにおいでと言わんばかりに招いてくる。

「良かったら、見てっておくれよ! 俺からのお祝いだっ、サービスするよ?」

 彼のお店は、丁度お目当てだった果物屋さん。ズラリと並んでいるのは、リンゴにイチゴ、バナナにスイカにパイナップルなどと俺でも知っている馴染み深いフルーツ。

 それから見るのも初めてな、花が咲く前の蕾のような形をした真っ赤な果物や、赤紫色のトマトみたいな果物などなどと、思わず目移りしてしまう充実さだ。

「ね、バアル、折角だし……」

「ええ、これも何かのご縁、此方で買わせて頂きましょうか」

 頷き合ってからお店へと足を向けた俺達に、店主さんが「いらっしゃい!」とゴツゴツした手を合わせ、ギザギザとしたハサミをご機嫌そうにカチカチ鳴らす。

「オススメは、スターフルーツにマンゴー、パッションフルーツもいいね! ああ、勿論、他のフルーツも新鮮で、糖度も高いよ!」

 マンゴーは知っている。パッションフルーツも名前だけなら。その正体は、赤紫色のトマトだと思っていたものだった。

 しかし、店主さんが差し出してきたオススメの一つ、カカオの実のような形をした黄色の果実は、とてもじゃないがその名の通りの星型には。

「スター、フルーツ?」

 うっかり疑問符で返していた俺に、店主さんが楽しそうに口端を持ち上げた。いい獲物を見つけたって感じで。

「へっへっへ、長い尻尾が素敵なお客さんも、断面を見れば納得すると思うぜ?」

 悪役じみた笑みを漏らしながら、店主さんが太い指先で果物を軽くつつく。途端にその部分だけが落ちていった。石畳へと転がることはなく、すぐ下で待ち構えたように浮かんでいたお皿へと静かに着地する。

「ほら、どうだい? キレイなお星様だろう?」
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