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【新婚旅行編】三日目:魔力の花の煌めき
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得意げに分厚い胸板を張りながら、店主さんが見せてきた果物の断面。それは確かにキレイな星型をしていた。まさに名前の通り、星の果物だ。
「わぁ、ホントだ! スゴいですね、バアルさんっ」
「ふふ……ええ、誠にお可愛らしいですね」
ほっこりと微笑んだ瞳が見つめているのは、不思議な果物ではない。俺を見つめてくれている。たおやかな白い手で俺の頭をよしよしと撫でてくれる。
もしかして、バアルさんは知っていたんだろうか?
だとしたら、最初っから分かっていて俺の反応を楽しんでいたんだとしたら。そのお可愛らしいっていう感想は、スターフルーツだけに向けたものではないんじゃ……
自惚れてしまった途端に、何だか背中の辺りが擽ったくなってしまった。そんな俺の様子すら察したのか、優しい目元に刻まれたカッコいいシワが深くなっていく。
「……あの、バアルさ」
「折角だから、試食してみないかい? 仲良しなお二人さん」
「はい、是非頂きます。アオイも召し上がられますよね?」
「あ、うん」
何だか、上手い具合にはぐらかされちゃったような。ちょっぴり感じた気恥ずかしさすら、すぐさま上書きされてしまう。
「どうぞ、アオイ」
しなやかな指によって、爪楊枝に刺さったひと切れの星を口元へと運んでもらえて、喜び勇んで食いついてしまう。
「いただきますっ」
噛む度にシャキシャキとした歯ごたえが楽しい。食感はリンゴに近いかな? でも、口に広がる甘酸っぱさは……甘いレモンみたいな? サッパリとした印象だ。
「……ん、甘酸っぱくて美味しいですっ」
「それは何よりでございます」
「おう、気に入ってくれて良かったよ!」
店主さんが差し出してくれたお皿から俺もひと切れちょうだいさせてもらい、バアルさんへとお返しをする。深くなった微笑みに、ますます俺まで笑顔になってしまう。
その後も、いくつかの果物を試食させてもらい、俺達は買い物を終えた。
どれが一番甘くて美味しいのか、店主さんに目利きしてもらった果物達。スターフルーツにマンゴー、小さめのスイカなどなどを、次々とビニール袋に詰めてもらう。二人分にしては十分過ぎる量。有り体に言って、買い過ぎだ。
美味しかったとはいえ、調子に乗っちゃったな……
ほんのりと後悔し始めている俺をよそに、黒革の財布を開けているバアルさんはご満悦そう。ぶんぶん、ぱたぱたと、触角と羽が賑やかになっている。
同じく羽をはためかせ、ほくほく顔の店主さんが思い出したかのように俺に尋ねてきた。
「ご旅行かい? こっちは初めて?」
「はい、初めてです。その……少し前に俺達……け、結婚したばかりで……今回は、新婚旅行で……」
「だと思ったよ、魔力の花の煌めきが初々しいからねぇ。おめでとうっ」
バアルさんが果物を術で大事にしまってから、店を後にしようとした俺達に店主さんが「まだ滞在するんだったら、ここもオススメだよ。最近、内容が新しくなったって話題でさ」とパンフレットを渡してくれた。
表紙を堂々と占めている写真は、いかにもRPGに出てきそうな迷宮。そして、大きく書かれたキャッチコピーには。
『君も物語の一員になって、広大な迷宮を踏破してみないか!?』
中身を読まなくとも、その二つで確信した。以前、ヨミ様がオススメしてくれていた、迷宮踏破体験が出来るレジャー施設のパンフだと。
「やっぱり、有名みたいですね」
「ええ、楽しみですね。明日、訪れる予定の動物園もでございますが」
「あの、バアルさん……」
「魔力の花の煌めきのこと、でございますか?」
見事に先読みされてしまった。やっぱり俺は、よっぽど分かりやすいんだろう。
「わぁ、ホントだ! スゴいですね、バアルさんっ」
「ふふ……ええ、誠にお可愛らしいですね」
ほっこりと微笑んだ瞳が見つめているのは、不思議な果物ではない。俺を見つめてくれている。たおやかな白い手で俺の頭をよしよしと撫でてくれる。
もしかして、バアルさんは知っていたんだろうか?
だとしたら、最初っから分かっていて俺の反応を楽しんでいたんだとしたら。そのお可愛らしいっていう感想は、スターフルーツだけに向けたものではないんじゃ……
自惚れてしまった途端に、何だか背中の辺りが擽ったくなってしまった。そんな俺の様子すら察したのか、優しい目元に刻まれたカッコいいシワが深くなっていく。
「……あの、バアルさ」
「折角だから、試食してみないかい? 仲良しなお二人さん」
「はい、是非頂きます。アオイも召し上がられますよね?」
「あ、うん」
何だか、上手い具合にはぐらかされちゃったような。ちょっぴり感じた気恥ずかしさすら、すぐさま上書きされてしまう。
「どうぞ、アオイ」
しなやかな指によって、爪楊枝に刺さったひと切れの星を口元へと運んでもらえて、喜び勇んで食いついてしまう。
「いただきますっ」
噛む度にシャキシャキとした歯ごたえが楽しい。食感はリンゴに近いかな? でも、口に広がる甘酸っぱさは……甘いレモンみたいな? サッパリとした印象だ。
「……ん、甘酸っぱくて美味しいですっ」
「それは何よりでございます」
「おう、気に入ってくれて良かったよ!」
店主さんが差し出してくれたお皿から俺もひと切れちょうだいさせてもらい、バアルさんへとお返しをする。深くなった微笑みに、ますます俺まで笑顔になってしまう。
その後も、いくつかの果物を試食させてもらい、俺達は買い物を終えた。
どれが一番甘くて美味しいのか、店主さんに目利きしてもらった果物達。スターフルーツにマンゴー、小さめのスイカなどなどを、次々とビニール袋に詰めてもらう。二人分にしては十分過ぎる量。有り体に言って、買い過ぎだ。
美味しかったとはいえ、調子に乗っちゃったな……
ほんのりと後悔し始めている俺をよそに、黒革の財布を開けているバアルさんはご満悦そう。ぶんぶん、ぱたぱたと、触角と羽が賑やかになっている。
同じく羽をはためかせ、ほくほく顔の店主さんが思い出したかのように俺に尋ねてきた。
「ご旅行かい? こっちは初めて?」
「はい、初めてです。その……少し前に俺達……け、結婚したばかりで……今回は、新婚旅行で……」
「だと思ったよ、魔力の花の煌めきが初々しいからねぇ。おめでとうっ」
バアルさんが果物を術で大事にしまってから、店を後にしようとした俺達に店主さんが「まだ滞在するんだったら、ここもオススメだよ。最近、内容が新しくなったって話題でさ」とパンフレットを渡してくれた。
表紙を堂々と占めている写真は、いかにもRPGに出てきそうな迷宮。そして、大きく書かれたキャッチコピーには。
『君も物語の一員になって、広大な迷宮を踏破してみないか!?』
中身を読まなくとも、その二つで確信した。以前、ヨミ様がオススメしてくれていた、迷宮踏破体験が出来るレジャー施設のパンフだと。
「やっぱり、有名みたいですね」
「ええ、楽しみですね。明日、訪れる予定の動物園もでございますが」
「あの、バアルさん……」
「魔力の花の煌めきのこと、でございますか?」
見事に先読みされてしまった。やっぱり俺は、よっぽど分かりやすいんだろう。
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