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【新婚旅行編】三日目:企んでない時の方が上手くいくらしい
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「……ど、どこから、ですか?」
「可愛らしい声で唐突に、旦那冥利に尽きることを仰って頂けたところからでございます」
「ひぇ……」
「いやはや危なかったです。喜びのあまり、うっかりむせてしまうところでございましたので」
フォローしてくれてはいるんだろう。穏やかな低音が紡ぐ調子は、どこかおどけているような。
手のひらの上の重みが消える。二人で支えていたパイナップルが数センチ上を浮いていた。言わずもがな、バアルさんの仕業だ。
「貴方様の前では、常にカッコよくありたいものですのに」
空いた手のひらで俺の背を撫でてくれながら、シャープな顎に指を添え、片方の口端だけを持ち上げる。整えられた渋いお髭の端っこも一緒にくいっと上がっていて、カッコイイのに可愛かった。
「ふふ、ありがとう……でも、どんな時だってバアルはカッコいいよ。今までも、これからも……ずっと、ずっと、大好きだよ」
素直な気持ちだった。ついこぼれていたんだ。さっきと同じで。
「……左様で、ございますか」
大人な彼をときめかせたい。俺でドキドキして欲しい。そんな風に企んでいない時の方が上手くいくらしい。
背中の羽根が大きく広がったかと思えば、微笑んでいた緑の瞳がわたわたと泳ぎ始める。透明感のある頬はあっという間に桜色を通り越して、風呂上がりのように赤く染まっていた。
珍しい彼の動揺による影響は、パイナップルの器にまで。見えない台の上にでも乗っていたかのように安定していた浮遊が、突如覚束なくなっていた。
ふらふら揺れていた果実に手を伸ばせば、吸い寄せられるように両の手の中へと収まってくれた。まるで、最後の力を振り絞ったみたい。
万が一、中身がこぼれてしまってはいないかと確認していると、聞こえてきたのはわざとらしい咳払い。緩く握った拳を、人差し指を、口元に当てながら、バアルさんがバツが悪そうに俺を見つめてきた。
「……ところでアオイ、何を作られるのか……どの食材を買われるのかは、お決まりでしょうか?」
それはあからさまな話題変更。けれども、俺はすぐに乗った。分かっている上で。
「うーん……そうだねぇ……そもそも、どの食材をメインにしようかってとこで、迷っちゃってるんだよね」
どこか安心したように瞳を細めた彼に、俺はほのかな喜びを抱いていた。いつもとは逆の立場に、彼をフォロー出来たことに。
調子に乗ると大胆にもなれるんだろうか。座ったまま、ほんの僅かに空いていた距離を詰め、幅の広い肩に寄りかかるようにくっついていた。
ハーブの匂いが濃くなって、落ち着く体温が伝わってくる。少しだけ忙しない鼓動も。逞しい胸元とは離れているのに。
バアルさんの立ち直りは早かった。照れくさそうに俯向いていた横顔は、すっかり凛々しさを取り戻している。賑わう市場へと向けていた真剣な眼差しを、俺へと戻して微笑んだ。
「では、先ずは目的とする食材の種類を決めてみてはいかがでしょうか? お魚を使ってみたいですか? それとも果物? お野菜?」
確かに、それならば自ずと絞られてくるもんな。バアルさんはともかく、そもそもの俺が作れる料理のバリエーション自体が少ないんだし。
「そう、ですね……」
俺も市場を見ようとして、視界に映った手の上のパイナップル。甘い香りを漂わせている瑞々しい黄色を見て、ピタリとパズルのピースがハマったような感覚を覚えた。
「果物、ですかね、やっぱり」
器としても十分な魅力を発揮している果実を軽く持ち上げる。俺では両手を使わないと落としてしまわないか不安なゴツゴツとした果実を、大きな手が軽々と受け取った。
「でしたら、果肉を活かした料理が宜しいかと。此方のジュースのように中身をくり抜いて、外側を器代わりにしたフルーツポンチ……または、パンケーキのトッピングや、タルトにふんだんに使われてみては?」
「可愛らしい声で唐突に、旦那冥利に尽きることを仰って頂けたところからでございます」
「ひぇ……」
「いやはや危なかったです。喜びのあまり、うっかりむせてしまうところでございましたので」
フォローしてくれてはいるんだろう。穏やかな低音が紡ぐ調子は、どこかおどけているような。
手のひらの上の重みが消える。二人で支えていたパイナップルが数センチ上を浮いていた。言わずもがな、バアルさんの仕業だ。
「貴方様の前では、常にカッコよくありたいものですのに」
空いた手のひらで俺の背を撫でてくれながら、シャープな顎に指を添え、片方の口端だけを持ち上げる。整えられた渋いお髭の端っこも一緒にくいっと上がっていて、カッコイイのに可愛かった。
「ふふ、ありがとう……でも、どんな時だってバアルはカッコいいよ。今までも、これからも……ずっと、ずっと、大好きだよ」
素直な気持ちだった。ついこぼれていたんだ。さっきと同じで。
「……左様で、ございますか」
大人な彼をときめかせたい。俺でドキドキして欲しい。そんな風に企んでいない時の方が上手くいくらしい。
背中の羽根が大きく広がったかと思えば、微笑んでいた緑の瞳がわたわたと泳ぎ始める。透明感のある頬はあっという間に桜色を通り越して、風呂上がりのように赤く染まっていた。
珍しい彼の動揺による影響は、パイナップルの器にまで。見えない台の上にでも乗っていたかのように安定していた浮遊が、突如覚束なくなっていた。
ふらふら揺れていた果実に手を伸ばせば、吸い寄せられるように両の手の中へと収まってくれた。まるで、最後の力を振り絞ったみたい。
万が一、中身がこぼれてしまってはいないかと確認していると、聞こえてきたのはわざとらしい咳払い。緩く握った拳を、人差し指を、口元に当てながら、バアルさんがバツが悪そうに俺を見つめてきた。
「……ところでアオイ、何を作られるのか……どの食材を買われるのかは、お決まりでしょうか?」
それはあからさまな話題変更。けれども、俺はすぐに乗った。分かっている上で。
「うーん……そうだねぇ……そもそも、どの食材をメインにしようかってとこで、迷っちゃってるんだよね」
どこか安心したように瞳を細めた彼に、俺はほのかな喜びを抱いていた。いつもとは逆の立場に、彼をフォロー出来たことに。
調子に乗ると大胆にもなれるんだろうか。座ったまま、ほんの僅かに空いていた距離を詰め、幅の広い肩に寄りかかるようにくっついていた。
ハーブの匂いが濃くなって、落ち着く体温が伝わってくる。少しだけ忙しない鼓動も。逞しい胸元とは離れているのに。
バアルさんの立ち直りは早かった。照れくさそうに俯向いていた横顔は、すっかり凛々しさを取り戻している。賑わう市場へと向けていた真剣な眼差しを、俺へと戻して微笑んだ。
「では、先ずは目的とする食材の種類を決めてみてはいかがでしょうか? お魚を使ってみたいですか? それとも果物? お野菜?」
確かに、それならば自ずと絞られてくるもんな。バアルさんはともかく、そもそもの俺が作れる料理のバリエーション自体が少ないんだし。
「そう、ですね……」
俺も市場を見ようとして、視界に映った手の上のパイナップル。甘い香りを漂わせている瑞々しい黄色を見て、ピタリとパズルのピースがハマったような感覚を覚えた。
「果物、ですかね、やっぱり」
器としても十分な魅力を発揮している果実を軽く持ち上げる。俺では両手を使わないと落としてしまわないか不安なゴツゴツとした果実を、大きな手が軽々と受け取った。
「でしたら、果肉を活かした料理が宜しいかと。此方のジュースのように中身をくり抜いて、外側を器代わりにしたフルーツポンチ……または、パンケーキのトッピングや、タルトにふんだんに使われてみては?」
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