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【新婚旅行編】二日目:酔ったりなんかしませんよっ、お菓子に使われているアルコールなんて、たかが知れてますし
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集中して脳が疲れたからだろう。単語を聞いただけで、もうスイッチが入ってしまった。甘いものの口になってしまっている。
バアルさんがテーブルの真ん中にある魔宝石で出来たベルに魔力を込めてくれる。透き通ったベルから一筋の淡い光が伸びてきた。プロジェクターのように、ぼんやりとした光の中にルームサービスのメニュー表が浮かぶ。
すっかり手慣れた様子で、バアルさんはデザートの項目までページを送ってくれた。此方の文字で書かれたメニュー名と共に、ケーキやらパフェやら魅力的なデザートの画像が表示されていく。
「どちらに致しますか?」
ご飯の時もだったけど、充実しまくっているお陰で迷っちゃうんだよな。
定番なケーキだけでも、苺のショートに、大好きなチョコ、タルトにチーズ、モンブラン、シフォンケーキなどなどバリュエーション豊か。加えて、デザートの種類自体も豊富なのだ。目移りするどころじゃない。
おまけに糖分に飢えているせいか、気になるものは手当たり次第頼んじゃいそうだし。食べられるかどうかも考えずに。バアルさんだったらノリノリで「お好きなだけ頼まれて下さいね」って甘やかしてくれそうだけど……それは、ちょっとなぁ。
「んー……バアルさんは気になるのとか、ありますか?」
折角なら彼の好きなものをと思って尋ねてみれば、思いがけず良いリアクション。ぴょこんと触角を跳ねさせたかと思えば、慌てたように目を逸らされてしまった。
「あるんですね? どれですか? 俺、それが食べたいです」
飲みかけのカップをテーブルの上のソーサーに預けて詰め寄れば、観念したかのように凛々しい眉を片方下げた。指先でケーキの項目をつついてから、一つの画像を指し示してくれる。
「……此方です」
「えーっと……わ、い、ん……ワインケーキ、ですか?」
たどたどしくも、彼からの教えの成果を披露することが出来た。ちゃんと此方の文字を読めた俺をバアルさんが「よく出来ましたね」と褒めてくれる。頭を撫でてくれる。
成る程、それで。祝の席にて、お酒はちょっと、とご遠慮させてもらったからか。お酒を使ったケーキも食べない方が、と考えたんだろう。
「ホントにワインが好きなんですね」
「ええ」
彼の目尻が下がり、渋いお髭を蓄えた口元に柔らかな笑みが浮かぶ。けれども、すぐに言い辛そうに歪んでいってしまう。
「此方のお品は、香りや風味が独特なものになっております。私は……好んでおりますが……アオイは、あまりお得意ではないかと……」
「これにしましょう。バアルさんが好きなもの、俺も食べてみたいです」
「アオイ……」
心配してくれているんだろう。彼の触角と羽が賑やかになったのは少しの間だけ。大人しくなるどころか、どちらもしょんぼりと下がっていってしまう。
「大丈夫ですよ! だって、お菓子ですもん。俺、ウィスキーボンボンとか結構好きでしたし、甘酒も美味しくいただけてましたから!」
「左様でございますか……」
手を握っても、現世での俺の実績を伝えてみても、彼の不安は拭えなかった。
「じゃあ、念の為にひと切れにしておきますから、ね?」
が、少量にするからと約束すると、一応は納得してくれたよう。まだ、その表情は渋いけれども頷いてくれた。
「……もし、一口目で違和感を感じられた場合も、残してしまって構いませんからね。残りは、保存の術をかけて、私が少しずつ頂きますので」
「はい、分かりました。でも、大丈夫だと思いますよ? お菓子に使われているアルコールなんて、たかが知れてますし。酔ったりなんかしませんよ!」
バアルさんがテーブルの真ん中にある魔宝石で出来たベルに魔力を込めてくれる。透き通ったベルから一筋の淡い光が伸びてきた。プロジェクターのように、ぼんやりとした光の中にルームサービスのメニュー表が浮かぶ。
すっかり手慣れた様子で、バアルさんはデザートの項目までページを送ってくれた。此方の文字で書かれたメニュー名と共に、ケーキやらパフェやら魅力的なデザートの画像が表示されていく。
「どちらに致しますか?」
ご飯の時もだったけど、充実しまくっているお陰で迷っちゃうんだよな。
定番なケーキだけでも、苺のショートに、大好きなチョコ、タルトにチーズ、モンブラン、シフォンケーキなどなどバリュエーション豊か。加えて、デザートの種類自体も豊富なのだ。目移りするどころじゃない。
おまけに糖分に飢えているせいか、気になるものは手当たり次第頼んじゃいそうだし。食べられるかどうかも考えずに。バアルさんだったらノリノリで「お好きなだけ頼まれて下さいね」って甘やかしてくれそうだけど……それは、ちょっとなぁ。
「んー……バアルさんは気になるのとか、ありますか?」
折角なら彼の好きなものをと思って尋ねてみれば、思いがけず良いリアクション。ぴょこんと触角を跳ねさせたかと思えば、慌てたように目を逸らされてしまった。
「あるんですね? どれですか? 俺、それが食べたいです」
飲みかけのカップをテーブルの上のソーサーに預けて詰め寄れば、観念したかのように凛々しい眉を片方下げた。指先でケーキの項目をつついてから、一つの画像を指し示してくれる。
「……此方です」
「えーっと……わ、い、ん……ワインケーキ、ですか?」
たどたどしくも、彼からの教えの成果を披露することが出来た。ちゃんと此方の文字を読めた俺をバアルさんが「よく出来ましたね」と褒めてくれる。頭を撫でてくれる。
成る程、それで。祝の席にて、お酒はちょっと、とご遠慮させてもらったからか。お酒を使ったケーキも食べない方が、と考えたんだろう。
「ホントにワインが好きなんですね」
「ええ」
彼の目尻が下がり、渋いお髭を蓄えた口元に柔らかな笑みが浮かぶ。けれども、すぐに言い辛そうに歪んでいってしまう。
「此方のお品は、香りや風味が独特なものになっております。私は……好んでおりますが……アオイは、あまりお得意ではないかと……」
「これにしましょう。バアルさんが好きなもの、俺も食べてみたいです」
「アオイ……」
心配してくれているんだろう。彼の触角と羽が賑やかになったのは少しの間だけ。大人しくなるどころか、どちらもしょんぼりと下がっていってしまう。
「大丈夫ですよ! だって、お菓子ですもん。俺、ウィスキーボンボンとか結構好きでしたし、甘酒も美味しくいただけてましたから!」
「左様でございますか……」
手を握っても、現世での俺の実績を伝えてみても、彼の不安は拭えなかった。
「じゃあ、念の為にひと切れにしておきますから、ね?」
が、少量にするからと約束すると、一応は納得してくれたよう。まだ、その表情は渋いけれども頷いてくれた。
「……もし、一口目で違和感を感じられた場合も、残してしまって構いませんからね。残りは、保存の術をかけて、私が少しずつ頂きますので」
「はい、分かりました。でも、大丈夫だと思いますよ? お菓子に使われているアルコールなんて、たかが知れてますし。酔ったりなんかしませんよ!」
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