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【新婚旅行編】二日目:これで良かったに決まっている、残念に思ってはいけないのに
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ふと、優しい手のひらが離れていってしまう。閉じかけていた目を開けると、鼻先に愛らしいお顔が迫ってきていた。額をくっつけたアオイが、可愛らしく頬を膨らませていたのだ。いかにも不機嫌ですと言わんばかりに。
「い、いかがなさいましたか?」
「むー……俺ばっかり……バアルは? 撫でてくれないの? 寂しいんだけど……」
「っ……申し訳、ございませんでした……」
気を悪くなされた内容まで、お可愛らしいだなんて。気を強く持たなければ、最愛の御方の前だというのにだらしのない顔を晒してしまいそうだ。
ご機嫌を直して頂くべく、指通りの良い琥珀色の髪を丁寧に梳いていく。同時に触れさせて頂いた柔らかな頬は、やはりいつもよりも熱を帯びていた。
しばし、ゆったりと撫でさせて頂いていたのだが、依然として妻の機嫌は良くならない。美しい瞳を不満そうにじとりと細めて、物足りなさそうに私を見つめている。私としては、いつもと同じ加減で愛でさせて頂いているつもりなのだが。
「うー……そういうのも嬉しいけどさぁ……俺のこと、可愛がってくれないの……? 愛して、くれないの……?」
一瞬、崩壊したかと思った。ヒビ割れかけていた理性の壁が。
潤んだ瞳で見つめられながら、額を擦り寄せて頂けただけでも、込み上げてきてしまったのだ。だというのにこの御方は、寂しそうな声で強請って下さったのだ。更には自ら服をはだけさせ、玉のように美しいお肌を晒そうと。
「い、いけませんっ……酔っ払っていらっしゃるのをいいことに、御身にそのように触れるなどと……」
「えぇー……俺、ぜんっぜん酔ってないよ? だから、ほら……ねぇ……」
お召しの服は、すでにヘソまでたくし上げられていた。
空いた手で私の手を握り、引き寄せてくる力は簡単に振りほどけてしまうほどに弱々しい。だというのに抗えない。誘われるがままに、程よく引き締まった瑞々しい柔肌に触れてしまっていた。
「くっ……なりませんっ! そもそも酔っていないなどと、酔っぱらいの常套句でございますっ! サタン様も、ヨミ様も、ベロベロでいらっしゃるのに、いつも仰って、んんっ」
すでに塵と化しかけている理性を何とか掻き集め、手を離そうとしたものの早くも二の矢が。花弁のように美しい唇が重ねられていた。
軽く触れて頂けただけで離れていってしまった小さな温もりが、拗ねたようにむいっと尖らせている。
「……俺が居るのに他の方の話、しないで下さいよ……バアルさんは、俺の旦那様でしょう?」
「は、はい……左様で、ございます……」
「じゃあ、バアルからキスして? 俺の知らないお話し聞いて、寂しかったんだから……ね?」
ほんのりと染まった華奢な首を傾げながら、熱に浮かされた琥珀色の瞳が誘う。もう私の中には、抗う術など残されては。
「っ……畏まり、ました……貴方様のお望みのままに……」
堪らず口づけてしまった私を、陽だまりのように優しい笑顔が受け入れてくれた。包み込むように、華奢な腕が抱き寄せてくれた。
「アオイ……っ」
吐息を奪うように交わしてしまっている最中、違和感を感じた。
「アオイ……?」
委ねるように寄せてくれている御身体には、全く力が入っていない。私だけを見つめてくれていた瞳は幸せそうに閉じられており、小さな口からは健やかな寝息が。まさか。
「眠ってしまわれた、のですね……」
良かったに決まっている。もう後少し遅ければ、衝動のままに彼を組み敷いてしまっていたのだから。だから。
「残念に思ってはいけないというのに……全く、私は……」
堪え性が無いにも程がある。自己嫌悪に陥りかけていたものの、今はそんな場合では。早く愛しい妻をベッドで寝かせて差し上げなければ。
乱れかけていた服を整えてから、抱き上げた御身体は羽のように軽いどころか持っている感覚をほとんど感じない。いつものことながら、ちゃんと召し上がられているのかと心配になってしまう。だからこそ、ついついあれもこれもと食べさせたくなってしまうのだが。
愛しい彼をベッドへと静かに横たえて、私もお側に。腕枕をさせて頂き、羽根布団をかけ直した。
「ゆっくりお休み下さい……どうか、良い夢を」
これくらいは許されるだろうと額に口づけ、目を閉じた。気分は高揚していたものの不幸中の幸いか、眠りに落ちるのは早かった。
「い、いかがなさいましたか?」
「むー……俺ばっかり……バアルは? 撫でてくれないの? 寂しいんだけど……」
「っ……申し訳、ございませんでした……」
気を悪くなされた内容まで、お可愛らしいだなんて。気を強く持たなければ、最愛の御方の前だというのにだらしのない顔を晒してしまいそうだ。
ご機嫌を直して頂くべく、指通りの良い琥珀色の髪を丁寧に梳いていく。同時に触れさせて頂いた柔らかな頬は、やはりいつもよりも熱を帯びていた。
しばし、ゆったりと撫でさせて頂いていたのだが、依然として妻の機嫌は良くならない。美しい瞳を不満そうにじとりと細めて、物足りなさそうに私を見つめている。私としては、いつもと同じ加減で愛でさせて頂いているつもりなのだが。
「うー……そういうのも嬉しいけどさぁ……俺のこと、可愛がってくれないの……? 愛して、くれないの……?」
一瞬、崩壊したかと思った。ヒビ割れかけていた理性の壁が。
潤んだ瞳で見つめられながら、額を擦り寄せて頂けただけでも、込み上げてきてしまったのだ。だというのにこの御方は、寂しそうな声で強請って下さったのだ。更には自ら服をはだけさせ、玉のように美しいお肌を晒そうと。
「い、いけませんっ……酔っ払っていらっしゃるのをいいことに、御身にそのように触れるなどと……」
「えぇー……俺、ぜんっぜん酔ってないよ? だから、ほら……ねぇ……」
お召しの服は、すでにヘソまでたくし上げられていた。
空いた手で私の手を握り、引き寄せてくる力は簡単に振りほどけてしまうほどに弱々しい。だというのに抗えない。誘われるがままに、程よく引き締まった瑞々しい柔肌に触れてしまっていた。
「くっ……なりませんっ! そもそも酔っていないなどと、酔っぱらいの常套句でございますっ! サタン様も、ヨミ様も、ベロベロでいらっしゃるのに、いつも仰って、んんっ」
すでに塵と化しかけている理性を何とか掻き集め、手を離そうとしたものの早くも二の矢が。花弁のように美しい唇が重ねられていた。
軽く触れて頂けただけで離れていってしまった小さな温もりが、拗ねたようにむいっと尖らせている。
「……俺が居るのに他の方の話、しないで下さいよ……バアルさんは、俺の旦那様でしょう?」
「は、はい……左様で、ございます……」
「じゃあ、バアルからキスして? 俺の知らないお話し聞いて、寂しかったんだから……ね?」
ほんのりと染まった華奢な首を傾げながら、熱に浮かされた琥珀色の瞳が誘う。もう私の中には、抗う術など残されては。
「っ……畏まり、ました……貴方様のお望みのままに……」
堪らず口づけてしまった私を、陽だまりのように優しい笑顔が受け入れてくれた。包み込むように、華奢な腕が抱き寄せてくれた。
「アオイ……っ」
吐息を奪うように交わしてしまっている最中、違和感を感じた。
「アオイ……?」
委ねるように寄せてくれている御身体には、全く力が入っていない。私だけを見つめてくれていた瞳は幸せそうに閉じられており、小さな口からは健やかな寝息が。まさか。
「眠ってしまわれた、のですね……」
良かったに決まっている。もう後少し遅ければ、衝動のままに彼を組み敷いてしまっていたのだから。だから。
「残念に思ってはいけないというのに……全く、私は……」
堪え性が無いにも程がある。自己嫌悪に陥りかけていたものの、今はそんな場合では。早く愛しい妻をベッドで寝かせて差し上げなければ。
乱れかけていた服を整えてから、抱き上げた御身体は羽のように軽いどころか持っている感覚をほとんど感じない。いつものことながら、ちゃんと召し上がられているのかと心配になってしまう。だからこそ、ついついあれもこれもと食べさせたくなってしまうのだが。
愛しい彼をベッドへと静かに横たえて、私もお側に。腕枕をさせて頂き、羽根布団をかけ直した。
「ゆっくりお休み下さい……どうか、良い夢を」
これくらいは許されるだろうと額に口づけ、目を閉じた。気分は高揚していたものの不幸中の幸いか、眠りに落ちるのは早かった。
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