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【新婚旅行編】一日目:俺にとっては、精一杯の

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 場所を浴槽へと移動しても、状況は変わらず。バアルさんに後ろから抱き締められている形で、俺は丁度いい加減の湯に浸かっている。

 スキンシップも盛り沢山。スタメンになりつつある、頬を寄せてくるのに始まり、頭を撫でてくれたり、手を繋いでくれたり、長い足を俺の足へと絡めてきたり。

 この体勢でお風呂に入るのは、いつのものこととはいえ、ちょっと。

「……いっぱい甘えてくれてますね?」

「ええ、甘えさせて頂いております」

「っ……」

 仕掛けた俺の方が、言葉を詰まらせてしまっていた。

 こうも、あっさり認めてくれるとは……全く、いつになったら対等に渡り合えるのやら。定期的に見せつけられる大人の余裕に、ちょっぴり悔しさが滲んでしまう。

「……お嫌でしたか?」

「んなっ、イヤな訳……嬉しいに決まってるでしょ……バアルさんに甘えてもらえているんですから」

 そりゃあ、困ってもいるけれどさ。

 でも、バアルさんっぽい言い方をすれば……お、奥さん冥利に尽きるというか。俺の前では自然体で居てくれていることに、優越感を感じているというか。

「左様でございましたか……では、遠慮なく……」

 安心してくれたらしい。しなやかな指は俺の髪を梳き始め、離れかけていた足先が戻ってくる。軽く指を曲げながら、足の甲で器用に俺のふくらはぎを撫でてくる。ぴたりと後頭部に肉感のある胸板が押しつけられた。

 また鼻歌が、耳馴染みのある旋律が、聞こえてきた。さっきと同じ、名前は知らないけど知っているクラシック。ダンスの時にコルテが弾いてくれる曲の内の一つだ。ご機嫌そうで何よりなんだが。

 ……バアルさんには、そういう気がないんだろうな。

 俺達の間で流れている空気は甘さはあれど、明らかにほんわかしている。もう少しすれば何事もなく上がって、髪を乾かしてもらって、着替えて……のんびりソファーで過ごしながら、夕ご飯はどうしようかという話になるのだろう。

 お昼は食べ過ぎちゃったから、軽いものの方が……

 思い浮かべて、気持ちを切り替えようとして、でもダメだった。なんだか無性に寂しくなって、余計に我慢が出来なくなってしまった。

「ねぇ……バアル……」

「はい、アオイ、いかがなさいましたか?」

「ちょっと、早い時間だけどさ…………見る?」

「はい……?」

「そ、その……この日の為に、買ってた下着……見せ合いっこ……する?」

 精一杯のお誘いだった。直接的な言葉で強請れない俺にとっては。

 急に音がなくなったからだろう。沈黙が余計に重く感じてしまう。やっぱり、そういう気分じゃなかったのかな。

「あっ、あのさ……やっぱナシで、おわっ」

 振り向こうとしたら、抱き抱えられていた。反射的にしっとり濡れた首に抱きつくと、頭をよしよしと撫でられた。

 引き締まった長い足がズンズンと進んでいく。お湯を跳ねさせながら浴槽を、光沢のある床に水たまりを作りながら浴室を。

 そうして脱衣所へと。まだ、お互いにポタポタと水滴を垂らしたままなのに。タオルで拭うことすらせずに、広い石づくりの床を進んでいっている。

「ば、バアル……んぅ……」

 続けるハズだった言葉は飲み込まれてしまった。逃れられぬよう顎を掴まれ、何度も何度も唇を食まれて。どこか余裕のない口づけに流されてしまう。まぁ、いっか、なんて放り投げてしまいそう。

 いやいや、良くはないだろう。崩れかけていた理性を必死に掻き集める。吐息を奪われるようなキスの合間に、伝えたい言葉を無理矢理捩じ込んだ。

「んっ、む……ん、待っ……ん、はぁ……着替えてな……ふ、ん……」

 名残惜しそうにしつつもバアルさんは止めてくれた。熱を帯びている緑の瞳が、促すように俺の身体へと視線を移す。

「あ……大丈夫、だね……」

 俺が気がつけていなかっただけ。執事の鏡な彼は、すでに最低限をこなしていた。

 ほんのさっきまで、濡鼠だった俺達の身体はすっかり乾いている。髪の毛もだ。俺が雑にドライヤーをかけた時よりも、ふわっとサラっとしている。

 水着の代わりに纏っているのは、足首まですっぽりな丈の長いバスローブ。かといって、大事な部分の心もとなさもない。

 お気に入りのボクサーよりは、生地が薄くてちっちゃいような……って、まさか。

 前が開かない程度に胸元のタオル生地を引っ張ってから、中を覗き込んでみる。チラリと見えたのは濃い緑色のレース生地。左右の腰に結ばれているのは、薄っすら透けた生地と同色な、気持ち程度の細い紐。

 どっからどう見たってアレだ。彼の好みに合わせて買っていて、俺から提案したばっかのえっちな。

「……あ、ありがとう……その、着替えさせてくれて……」

「いえ」

 誘っておいて気恥ずかしくなってしまう。彼の顔を見れなくなってしまう。

 俯く頭を撫でてくれながら、バアルさんが歩き始めた。寝室を目指して、今度はゆっくりと踏み心地のよさそうな絨毯を進んでいく。筋肉質な腕の中で、俺は無意識に体を丸めてしまっていた。
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