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【番外編:立場・種族逆転】俺は、なんと声をかけたらいいのか分からなかった
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無事に、お城へと続く橋に降り立った俺は、バアル様を慎重に下ろした。
俺から離れる際、彼は何故か少し残念そうにしていた。よっぽど、空の移動が気に入ってくれたのだろうか。今度、空の散歩に誘ってみようかな。城の上空だったら、問題ないだろうし。
ごく自然に手を取られたので握り返すと、彼は少し驚いたように俺を見てから目尻のシワを深めた。機嫌が良さそうな彼に、ほっこりとした気分でいられたのも、この時までだった。
「ごめんなさいっ!!」
静かな空気を揺らした悲痛な声。いきなり俺達の前に現れたかと思えば、青い石畳に伏せるように頭を下げた、大小二つの影。
一人は少年、もう一人は青年。彼らが身に纏っている揃いの仕事着、灰色のフードマントを見た時、俺は目の前で起こっている事態を理解した。
「グリムさん、クロウさん……」
「お知り合い、ですか?」
「ああ、いえ……初対面ですが、報告書で名前と顔を……」
咄嗟に口をつぐもうとしたが、もう遅い。心配そうに俺を見つめながらも続きを促してくる眼差しに、俺は白旗を上げた。
「……彼らは、死神です……寿命を全うした魂を導くのが、彼らの仕事です」
察しが良いバアル様は、その情報だけで理解したようだった。そっと繋いでいた手を離し、彼らの方へと歩み寄っていく。
「バアル……っ」
咄嗟に俺は動けなかった。ただ呼びかけただけ、届かぬ手を伸ばしただけ。彼らの前まで迫ったバアル様が、静かに膝を折る。そして。
「ありがとうございます」
「え?」
「な?」
「ああ、突拍子もないことを言ってしまい、申し訳ございません……お二方のお陰で私が此方を訪れることが……アオイと出会うことが出来ましたので、是非お礼を申し上げたいと存じまして……」
思わずといった様子で顔を上げていた死神のお二人が、驚きに満ちた眼差しを俺に向けてくる。
いや、ごめんなさい。俺も、驚いている最中なんです。説明を求めるような目で見られても、上手く答えられないんです、ごめんなさい。
「アオイ」
「ひゃ、ひゃいっ」
「此方の方々の罪を、軽くすることは出来ないのでしょうか?」
「あ、えっと……」
慌てて駆け寄った俺にしてきた優しいお願い。彼らの身を心配する言葉に、俺はさして驚きはしなかった。期待していたからだ。バアル様ならば、そう言って頂けるのではないかと。
折を見てお話しようと思っていたが、今言っておいた方が良さそうだな。少しは彼の心配を和らげることが出来るかもしれない。
「……ここだけの話ですよ」
「ええ」
「元々、私もバアル様にお願い申し上げようとしていたのです……お二人を許して頂けないかと。バアル様が許して頂けたのであれば、ヨミ様もお二人を許すことが出来ますので……」
「成る程。では、ヨミ様にお伝え願えますでしょうか? 私は、お二人に罰を求めないと。お二人を許しますので、どうか寛大な御慈悲をと」
「畏まりました」
急ぎで伝えるべきだが、俺はバアル様の側を離れる訳にはいかない。こんな時に頼りになるのは。
「コルテ」
名を呼べば、すぐに現れてくれる俺の友達。オレンジ色に煌めく小さなハエの彼、コルテに用件を念話で伝えた。
メタリックな光沢を持つオレンジ色の身体を更に瞬かせ、ガラス細工のように透き通った羽をはためかせながら、コルテが一目散にお城の中へと向かっていく。
「あちらは?」
「私の友です。ご心配なく、信頼の置ける者ですので」
バアル様は一応頷いてくれたけれども、何やら詳しく聞きたそうにしている。口をへの字に歪ませている彼に、コルテのことを話そうとしていた時だった。
「あの……」
遠慮がちに声をかけてきたのはグリムさんだった。小柄な彼を支えるように寄り添っているクロウさんも、心配そうに俺達を見上げている。
どう説明したものか。考えている内に、俺は再び出遅れてしまっていた。
「ああ、失礼致しました。聞こえていたやもしれませんが、私は貴方方を恨んでなどおりません。罰も望んではおりません。ですから、どうかお気に病まないで下さい……」
優しい声だった。目の奥が熱を帯びてしまうような。
「っ……ごめ、なさ……ごめんなさいっ……ありがとうございます……」
「多大な御慈悲に感謝致します……」
「いえ……」
俺は、なんと声をかけたらいいのか分からなかった。泣き崩れた二人にも、バアル様にも。
「アオイ……」
「は、はいっ」
「何処か……休めるところに、ご案内頂けますでしょうか?」
「畏まり、ました……」
ただ、寂しそうに微笑む彼の手を握ることしか出来なかった。
俺から離れる際、彼は何故か少し残念そうにしていた。よっぽど、空の移動が気に入ってくれたのだろうか。今度、空の散歩に誘ってみようかな。城の上空だったら、問題ないだろうし。
ごく自然に手を取られたので握り返すと、彼は少し驚いたように俺を見てから目尻のシワを深めた。機嫌が良さそうな彼に、ほっこりとした気分でいられたのも、この時までだった。
「ごめんなさいっ!!」
静かな空気を揺らした悲痛な声。いきなり俺達の前に現れたかと思えば、青い石畳に伏せるように頭を下げた、大小二つの影。
一人は少年、もう一人は青年。彼らが身に纏っている揃いの仕事着、灰色のフードマントを見た時、俺は目の前で起こっている事態を理解した。
「グリムさん、クロウさん……」
「お知り合い、ですか?」
「ああ、いえ……初対面ですが、報告書で名前と顔を……」
咄嗟に口をつぐもうとしたが、もう遅い。心配そうに俺を見つめながらも続きを促してくる眼差しに、俺は白旗を上げた。
「……彼らは、死神です……寿命を全うした魂を導くのが、彼らの仕事です」
察しが良いバアル様は、その情報だけで理解したようだった。そっと繋いでいた手を離し、彼らの方へと歩み寄っていく。
「バアル……っ」
咄嗟に俺は動けなかった。ただ呼びかけただけ、届かぬ手を伸ばしただけ。彼らの前まで迫ったバアル様が、静かに膝を折る。そして。
「ありがとうございます」
「え?」
「な?」
「ああ、突拍子もないことを言ってしまい、申し訳ございません……お二方のお陰で私が此方を訪れることが……アオイと出会うことが出来ましたので、是非お礼を申し上げたいと存じまして……」
思わずといった様子で顔を上げていた死神のお二人が、驚きに満ちた眼差しを俺に向けてくる。
いや、ごめんなさい。俺も、驚いている最中なんです。説明を求めるような目で見られても、上手く答えられないんです、ごめんなさい。
「アオイ」
「ひゃ、ひゃいっ」
「此方の方々の罪を、軽くすることは出来ないのでしょうか?」
「あ、えっと……」
慌てて駆け寄った俺にしてきた優しいお願い。彼らの身を心配する言葉に、俺はさして驚きはしなかった。期待していたからだ。バアル様ならば、そう言って頂けるのではないかと。
折を見てお話しようと思っていたが、今言っておいた方が良さそうだな。少しは彼の心配を和らげることが出来るかもしれない。
「……ここだけの話ですよ」
「ええ」
「元々、私もバアル様にお願い申し上げようとしていたのです……お二人を許して頂けないかと。バアル様が許して頂けたのであれば、ヨミ様もお二人を許すことが出来ますので……」
「成る程。では、ヨミ様にお伝え願えますでしょうか? 私は、お二人に罰を求めないと。お二人を許しますので、どうか寛大な御慈悲をと」
「畏まりました」
急ぎで伝えるべきだが、俺はバアル様の側を離れる訳にはいかない。こんな時に頼りになるのは。
「コルテ」
名を呼べば、すぐに現れてくれる俺の友達。オレンジ色に煌めく小さなハエの彼、コルテに用件を念話で伝えた。
メタリックな光沢を持つオレンジ色の身体を更に瞬かせ、ガラス細工のように透き通った羽をはためかせながら、コルテが一目散にお城の中へと向かっていく。
「あちらは?」
「私の友です。ご心配なく、信頼の置ける者ですので」
バアル様は一応頷いてくれたけれども、何やら詳しく聞きたそうにしている。口をへの字に歪ませている彼に、コルテのことを話そうとしていた時だった。
「あの……」
遠慮がちに声をかけてきたのはグリムさんだった。小柄な彼を支えるように寄り添っているクロウさんも、心配そうに俺達を見上げている。
どう説明したものか。考えている内に、俺は再び出遅れてしまっていた。
「ああ、失礼致しました。聞こえていたやもしれませんが、私は貴方方を恨んでなどおりません。罰も望んではおりません。ですから、どうかお気に病まないで下さい……」
優しい声だった。目の奥が熱を帯びてしまうような。
「っ……ごめ、なさ……ごめんなさいっ……ありがとうございます……」
「多大な御慈悲に感謝致します……」
「いえ……」
俺は、なんと声をかけたらいいのか分からなかった。泣き崩れた二人にも、バアル様にも。
「アオイ……」
「は、はいっ」
「何処か……休めるところに、ご案内頂けますでしょうか?」
「畏まり、ました……」
ただ、寂しそうに微笑む彼の手を握ることしか出来なかった。
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