間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【番外編:立場・種族逆転】何だよ、それ? そんなの、まるで……俺のことを

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 澄み渡る青を目指して、真っ黒な空を駆けていく。一人の時よりもゆったりとしたペースなので、中々黒いモヤから遠ざかれないが、仕方がない。

 なんせ、ついさっき、やらかしてしまったばかりなのだ。加減が分からなくて、バアル様に寒い思いをさせてしまったのだから。

 慌てて彼の身体を強風から守るべく、術を施した俺に対してバアル様は、ありがとうございますと、お気になさらないで下さいと、言ってはくれたけれども。

「大変申し訳ございません……貴方様は、私達地獄の民総出で、お詫びせねばならない大切な方ですのに……」

「いえ、お気になさらないで下さい。アオイの術のお陰で、もう身体も温まりましたので」

 今現在も、微笑みかけてくれたけれども。俺としたことが、うっかりで済む話じゃない。分かっていたってのに。人間である彼は、俺達と違って繊細で傷つきやすいんだって。

 絶賛、反省会をしていた俺に、バアル様がどこか遠慮がちに話しかけてくる。

「それよりも、先程のお話ですが……私がこの国に居る間、アオイがお側に居てくれる……という認識で宜しいのでしょうか?」

 目を逸らすように軽く俯いていた彼の頬は、またほんのりと染まっていた。

「はい。いついかなる時でも貴方様のお力になれるよう、ご用意してあるお部屋で一緒に暮らさせて頂きます。ああ、勿論、お一人になられたい時はいつでも」

「ど、同棲して頂けるのですか?」

 同棲……? ルームシェアとかと同じ意味だったっけ。確か。

「はい。お部屋には、一通りの家具が揃えられており、浴室もございます。足りない物がございましたら何でもご用意致しますので、遠慮なく申し付けて下さいね」

 聞いてくれているのだろうか。弾かれるように顔を上げた彼は、また俯いてしまっている。複雑な数式を解いているかのように難しい顔をして、ブツブツと何やら呟いているようだ。

 耳をそばだてりゃあ聞き取れるだろうけど、盗み聞きはなぁ。まぁ、聞いてなかったんならなかったで、また説明すればいいからな。

 羽ばたきの方へと意識を向けて丁度だった。全身に纏わりつくように不快な黒を抜け、視界が青く晴れ渡っていく。少し先に、壁に囲まれた俺達の国が。丸い国の中心に浮かぶように建てられている青い城が見えた。

 目に映るだけで、心が和らぐ景色。少ししか離れていないのに、懐かしさを覚えてしまった俺は声を大にしていた。

「バアル様! 見えますか? あちらが、私達の国……そして、天高くそびえ立っているのが今から向かうお城です!」

「なんと……大変美しい国でございますね……」

「ふふ、ありがとうございます。短い間ではございますが、気に入って頂けたら光栄です」

 噛み締めるように呟きながら少し身を乗り出して、興味津々に見つめていた緑の瞳。色鮮やかな眼差しに、伏せられた睫毛によって影が落ちる。

 青い空を背景に、白く艶めく髪が風に弄ばれている。彼の横顔に浮かぶ切ない微笑。美しいけれども、どこか儚げに見えた表情に胸の辺りが締めつけられる。

「バアル、様……? 大丈夫ですか? どこか、ご気分が?」

 左右に首を振ってから、彼は小さく「大丈夫です」と答えた。でも、とてもじゃないが、何も無いとは。

 気がつけば俺は、その場に留まっていた。何を言うでもなく、彼の顔を見つめてしまっていた。

 観念したかのように小さく笑って、俺に向けてくれた眼差しは寂しそうな色を宿していた。

「……やはり、ずっとアオイと一緒には居られないのでしょうか?」

「俺と……ですか?」

 胸が大きく高鳴った。その後も、頭の中に響くくらいに早く駆け出している。

 何だよ、それ? そんなの、まるで……俺のことを、す、好き……みたいじゃないか?

 そう言えば、自己紹介をするよりも前から、う、美しいとか……可憐、とか……やたらと褒めてはくれていたけれど。でも、でも、それって社交辞令だったんじゃ。

「はい。貴方のお側に居たいのです……貴方のことを、もっと知りたいのです」

「ひぇ……」

 社交辞令じゃ、なかったのかもしれない。

「そ、そう……ですね……本来ならば、準備が整うまで私達の国で待って頂き、現世へと転生なされるか、天国へと行かれるかを選んで頂く予定なのですが……」

 恋だの何だの、そういったキラキラふわふわしたこととは縁がなかった俺だ。彼の真意は分からない。自分の気持ちも。でも。

「私が、ヨミ様にお願いしてみます。バアル様が、お好きなだけ私達の国に残れるように。貴方様の望みが叶うように」

 彼の寂しさを拭いたい。柔らかな笑顔を見たいって、強く思ったんだ。

「……誠で、ございますか? 宜しいのでしょうか?」

「はい、お任せ下さい。ヨミ様はお優しいお方です。きっと、貴方様の望みを第一に考えてくれるでしょう」

「ありがとうございます……」

 鮮やかな瞳が細められ、形の良い唇が緩やかに綻んでいく。消えていった寂しさの影に、俺は酷く安堵していた。
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