間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
636 / 1,055

【新婚旅行編】一日目:オレンジの中で漂う

しおりを挟む
 ぼんやりとしている意識の最中、眩しさを感じた。

 穏やかな眠りを妨げてくる明かりに煩わしさを感じたものの、抗うことなんて出来やしない。気がつけば、渋々重たい瞼を開けていた。

「んぅ……あれ……?」

 一体、どのくらいの間、眠りこけてしまっていたんだろうか。周りの景色は、すっかりオレンジ色に染まってしまっている。

 穏やかな波の音は変わらない。煌めく海面の美しさも。けれども、真っ青な海に夕焼け色が滲む様は、何だか少しだけ寂しく見えた。

 日が落ちかけているから、温度も下がってきたんだろう。頬を撫でていく海風に、背筋がぶるりと震えてしまう。夕焼けのビーチも趣があるけれども、そろそろホテルに戻った方がいいかもしれない。

 そう言えば、バアルさんは。海の方へと向けていた視線を戻す。

「……っ」

 思わず変な声を上げてしまうところだった。飛び上がった心臓が駆け足になって、全身にその足音を響かせている。寝ぼけ眼もパッチリだ。

 ホントに心臓に悪いな……カッコよ過ぎて。

 目の前にあったのは、無防備な寝顔。広い背中に腕を回して、彼の胸元に顔を押しつけていたハズが、いつの間に肩口にまで擦り寄ってしまっていたのだろうか。あともう少し顔を上げれば、鼻筋の通った彼の高い鼻と鼻先がくっついてしまいそう。

 まだバアルさんは、夢の中にいるようだ。薄く開いた桜色の唇から、規則正しい寝息が漏れている。伏せられた長い睫毛が、頬にかかっている艷やかな髪が、オレンジ色の光の中で銀糸のように煌めいていて美しい。

 彫りの深い顔と同様に、表情豊かな触角と羽も今はお休みモード。額から生えている金属のような光沢を帯びた細く長い二本は、果物を実らせた枝のように垂れ下がり、時折風にさらわれ揺れている。

 背中にある半透明の羽は、俺達の毛布代わりになってくれていたのか大きく広がったまま、胸元から足先に至るまでを覆い隠してくれていた。

 無遠慮にじっくりと眺めてしまっているにも関わらず、バアルさんは起きる気配がない。

「……バアルさん」

 試しに、一声かけてみても全然、全く。触角すら動きやしない。穏やかな寝顔を浮かべたままだ。

「……ばーあーるぅー」

 今度は、さっきよりも少し大きめの声で。更には指先で滑らかな頬を優しく、ちょん、ちょん、とつついてみた。

 けれども、やっぱり、ピクリとも。珍しいな。いつもだったら、もっと小さな声でも、すぐに「いかがなさいましたか?」って微笑んでくれるんだけれども。

 ここまで無防備だと、つい悪戯心が芽生えてしまう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...