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【新婚旅行編】一日目:全く……俺が驚かせるつもりだったのに
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もしかして、絶好のチャンスなんじゃ?
海の上では、してもらいっぱなしでお返しが出来ていなかったからな。でも、今だったら。
「……バアル」
深い眠りについたままの彼の頬へと手を添える。
不思議な高揚感に背中を押してもらえているとはいえ、ヘタれな俺だ。いきなり形の良い唇を奪うことは出来なかった。指心地のいい髪を撫でながら、額へと軽く押しつけることが出来ただけ。
「……ん……全然起きないな」
思わず呟いてしまっていたけれども、それすらも届いていないご様子。バアルさんは固く瞼を閉じたまま、身を捩ることも、なにか寝言を漏らすこともない。
……都合がいいっちゃあ、いいんだけどさ。
不満というよりは、寂しさ半分、わくわく半分。後ろ向きな方の気持ちを見なかったことにして、今度は頬へと口を寄せてみる。
せっかくだからとバアルさんの真似をして、音を鳴らそうとしてみた。
慣れないことをしたからだろう。彼がしてくれる時のようにチュッと可愛らしい音ではなく、鈍い音しか出せなかった。それでも、やっぱりバアルさんは起きてはくれない。
昼とは変わらない波の音に混じって、聞いたことのない鳥の声が聞こえた。夕焼けに染まった空を見上げても、その姿を見ることは出来なかったけれど、何だか寂しい鳴き声だった。
「何やってんだろ……俺」
一気にこみ上げてきた気恥ずかしさが、唯一前向きだったわくわく感を打ち倒してしまいそう。彼が気がついていないことをいいことに、なかったことにしたくなってしまう。でも。
……ここまでやっちゃったんだから、俺のキスで起こしてみたい。バアルさんが、びっくりするところを見てみたい。
「いい加減……目を覚ましてよ……」
どうせ聞こえていないだろうお願いを口にしてから、安らかな寝息を立てている唇へと押し当ててみる。何度か角度を変えながら口づけてみても、残念ながら反応は。
「んむっ!?」
こうなったらとことんだと、唇で軽く食んでみた時だった。お返しと言わんばかりに食まれたかと思えば、抱き締められていた。
もう顔を離すどころか、身を捩ることすら叶わない。なんせ、ビクともしないのだ。後頭部と背中に添えられている大きな手には、大して力が込められてはいないのに。それどころか、悠々と撫でてくれているってのにさ。
「ん、ふ……んっ……は、ぁ……」
「おはようございます……アオイ……」
「……おはよう、ございます……バアルさん……」
お手本のようなリップ音を鳴らしてから、バアルさんが離れていく。緩やかなラインを形作っている微笑みが、一段と悪戯っぽく見えた。
……まさか、ずっと寝たフリをしていたんじゃ?
疑念はすぐさま確信へと変わった。向こうから自白してくれたのだ。耳元で、大層ご満悦そうな声で。
「申し訳ございません、寂しい思いをさせてしまって……アオイから積極的に御慈悲を賜われるなど……滅多にない機会でしたので、堪能させて頂いておりました……」
全く……俺が驚かせるつもりだったのに。寝ぼけ眼の彼に、おはようございますって、とびきりの笑顔を送るつもりだったのに。全部、先を越されちゃったじゃないか。
「ズルい、ですよ……」
嬉しかったけれども、同じくらい恥ずかしくて。つい俺は拗ねたような言い方をしてしまっていた。微笑む彼にそっぽを向いてしまっていた。
でも、俺の変な意地なんて、大好きな彼の前ではあってないようなもんで。
「アオイ……私が悪うございました……どうか、お顔を見せては頂けませんか?」
寂しそうな声で囁かれてしまえば。後ろから抱き締められて、甘えるように頬を擦り寄せられてしまえば。
「ホントに……ズルいんだから……」
すぐに消えていってしまっていた。振り向いて、額を寄せて、引き締まったその首に腕を回していた。
海の上では、してもらいっぱなしでお返しが出来ていなかったからな。でも、今だったら。
「……バアル」
深い眠りについたままの彼の頬へと手を添える。
不思議な高揚感に背中を押してもらえているとはいえ、ヘタれな俺だ。いきなり形の良い唇を奪うことは出来なかった。指心地のいい髪を撫でながら、額へと軽く押しつけることが出来ただけ。
「……ん……全然起きないな」
思わず呟いてしまっていたけれども、それすらも届いていないご様子。バアルさんは固く瞼を閉じたまま、身を捩ることも、なにか寝言を漏らすこともない。
……都合がいいっちゃあ、いいんだけどさ。
不満というよりは、寂しさ半分、わくわく半分。後ろ向きな方の気持ちを見なかったことにして、今度は頬へと口を寄せてみる。
せっかくだからとバアルさんの真似をして、音を鳴らそうとしてみた。
慣れないことをしたからだろう。彼がしてくれる時のようにチュッと可愛らしい音ではなく、鈍い音しか出せなかった。それでも、やっぱりバアルさんは起きてはくれない。
昼とは変わらない波の音に混じって、聞いたことのない鳥の声が聞こえた。夕焼けに染まった空を見上げても、その姿を見ることは出来なかったけれど、何だか寂しい鳴き声だった。
「何やってんだろ……俺」
一気にこみ上げてきた気恥ずかしさが、唯一前向きだったわくわく感を打ち倒してしまいそう。彼が気がついていないことをいいことに、なかったことにしたくなってしまう。でも。
……ここまでやっちゃったんだから、俺のキスで起こしてみたい。バアルさんが、びっくりするところを見てみたい。
「いい加減……目を覚ましてよ……」
どうせ聞こえていないだろうお願いを口にしてから、安らかな寝息を立てている唇へと押し当ててみる。何度か角度を変えながら口づけてみても、残念ながら反応は。
「んむっ!?」
こうなったらとことんだと、唇で軽く食んでみた時だった。お返しと言わんばかりに食まれたかと思えば、抱き締められていた。
もう顔を離すどころか、身を捩ることすら叶わない。なんせ、ビクともしないのだ。後頭部と背中に添えられている大きな手には、大して力が込められてはいないのに。それどころか、悠々と撫でてくれているってのにさ。
「ん、ふ……んっ……は、ぁ……」
「おはようございます……アオイ……」
「……おはよう、ございます……バアルさん……」
お手本のようなリップ音を鳴らしてから、バアルさんが離れていく。緩やかなラインを形作っている微笑みが、一段と悪戯っぽく見えた。
……まさか、ずっと寝たフリをしていたんじゃ?
疑念はすぐさま確信へと変わった。向こうから自白してくれたのだ。耳元で、大層ご満悦そうな声で。
「申し訳ございません、寂しい思いをさせてしまって……アオイから積極的に御慈悲を賜われるなど……滅多にない機会でしたので、堪能させて頂いておりました……」
全く……俺が驚かせるつもりだったのに。寝ぼけ眼の彼に、おはようございますって、とびきりの笑顔を送るつもりだったのに。全部、先を越されちゃったじゃないか。
「ズルい、ですよ……」
嬉しかったけれども、同じくらい恥ずかしくて。つい俺は拗ねたような言い方をしてしまっていた。微笑む彼にそっぽを向いてしまっていた。
でも、俺の変な意地なんて、大好きな彼の前ではあってないようなもんで。
「アオイ……私が悪うございました……どうか、お顔を見せては頂けませんか?」
寂しそうな声で囁かれてしまえば。後ろから抱き締められて、甘えるように頬を擦り寄せられてしまえば。
「ホントに……ズルいんだから……」
すぐに消えていってしまっていた。振り向いて、額を寄せて、引き締まったその首に腕を回していた。
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