626 / 1,047
【新婚旅行編】一日目:どうやら、気づかれていた上で泳がされていたらしい
しおりを挟む
あれは……ウミガメ? イルカまで?
網目模様のような輝きを甲羅に、滑らかな背に浴びながら興味津々で近づいてくる。黒く煌めくビーズのような、つぶらな瞳が愛らしい。少し手を伸ばせば、簡単に触れ合うことが出来てしまうだろう。
人懐っこいって……よく聞くイルカなら、まだ分かるけれども。ウミガメって、見れたらラッキーっていうか……臆病な生き物だったんじゃ?
そんな素振りなど全く見せない茶色っぽい彼は、俺達が放っている光で日光浴でもしているかのよう。繋いで伸ばした手の先で、踊るようにくるくる泳いでいる。
イルカはイルカで、俺達と遊んでいるつもりなんだろうか。愛嬌のある口から作り出した、輪っかの形をした泡を俺達に向かって飛ばしてくる。
その仕草だけでも十分に可愛い。が、失敗作なのか、丸い輪が歪んでハートのような形になったものも時々混ざっているもんだから、ますます口元がだらしくなく緩んでしまう。
また一つ、透き通った輪っかが飛んできた。
徐々に大きさを増しながら、近づいてくる泡の輪に乱入者が。光に吸い寄せられていた魚達が、次々とくぐっていく。サーカスの曲芸みたいだ。火の輪ではなく泡の輪だけれども。
『よっぽど、貴方様の魔力が魅力的なのやもしれません。消費したとはいえ御身には、いまだに生命力が残っていらっしゃるのですから』
そういうもの、なのだろうか。
そういうもんか。バアルさんほどの術士が、そう言ってくれているんだからな。
俺達の光をミラーボール代わりにでもしているかのよう。赤やピンクのサンゴ礁、弾むように揺れている緑や黄色の海藻が彩るステージで、全力で歓迎してくれているような。思い思いに遊んでいるような。彼らの自然な姿に見惚れていると、指先に柔らかい感触が触れた。
てっきり、魚がつついてきたのかと思ったが、違った。
『失礼致しました……先程、羨ましいと仰って頂けたので……』
いつの間に手を取られていたんだろう。真っ直ぐな背を屈めたバアルさんが、俺の指先へと柔らかな笑みを寄せていた。
海の中でなければ、わざとらしいリップ音でも聞こえてきそう。ウィンクをするように片目だけを閉じた彼が上目遣いで見つめてくる。その口端は、悪戯を成功させたかのように楽しげに持ち上がっていた。
どうやら、気づかれていた上で泳がされていたらしい。隙を見て、驚かせようとしていたんだろう。
ホント、バアルさんにはときめかされっぱなしだな。
『おや、何を仰いますやら……私めの方が、貴方様の愛らしい言葉や仕草に心揺さぶられるばかり……年甲斐もなく夢中になってしまうばかりでございますのに……』
ここが海中でなければ、今頃俺は膝から崩れ落ちていることだろう。とうてい喜んでいるとは思えない、腑抜けた声を上げてしまっていることだろう。
そんな幸いを噛み締める間もなく、彼はここぞとばかりに畳み掛けてくる。
『先程の少し拗ねた貴方様も、誠に愛らしかったですよ……羨ましがって頂けたのですから、当然お返しをして頂けますよね?』
透き通った青の中で、神秘的な白を宿したたおやかな手。そのしなやかな指先が、俺の口元へと差し出された。
バアルさんのことだ。俺が返すまで、ずっと健気に待ってくれるんだろう。それはもう楽しそうに、上機嫌に。もう、覚悟を決めなければ。
柔らかな笑みを浮かべる彼の指先へと口を寄せる。俺は祈ることしか出来なかった。せめて、変な顔になっていませんようにと。
網目模様のような輝きを甲羅に、滑らかな背に浴びながら興味津々で近づいてくる。黒く煌めくビーズのような、つぶらな瞳が愛らしい。少し手を伸ばせば、簡単に触れ合うことが出来てしまうだろう。
人懐っこいって……よく聞くイルカなら、まだ分かるけれども。ウミガメって、見れたらラッキーっていうか……臆病な生き物だったんじゃ?
そんな素振りなど全く見せない茶色っぽい彼は、俺達が放っている光で日光浴でもしているかのよう。繋いで伸ばした手の先で、踊るようにくるくる泳いでいる。
イルカはイルカで、俺達と遊んでいるつもりなんだろうか。愛嬌のある口から作り出した、輪っかの形をした泡を俺達に向かって飛ばしてくる。
その仕草だけでも十分に可愛い。が、失敗作なのか、丸い輪が歪んでハートのような形になったものも時々混ざっているもんだから、ますます口元がだらしくなく緩んでしまう。
また一つ、透き通った輪っかが飛んできた。
徐々に大きさを増しながら、近づいてくる泡の輪に乱入者が。光に吸い寄せられていた魚達が、次々とくぐっていく。サーカスの曲芸みたいだ。火の輪ではなく泡の輪だけれども。
『よっぽど、貴方様の魔力が魅力的なのやもしれません。消費したとはいえ御身には、いまだに生命力が残っていらっしゃるのですから』
そういうもの、なのだろうか。
そういうもんか。バアルさんほどの術士が、そう言ってくれているんだからな。
俺達の光をミラーボール代わりにでもしているかのよう。赤やピンクのサンゴ礁、弾むように揺れている緑や黄色の海藻が彩るステージで、全力で歓迎してくれているような。思い思いに遊んでいるような。彼らの自然な姿に見惚れていると、指先に柔らかい感触が触れた。
てっきり、魚がつついてきたのかと思ったが、違った。
『失礼致しました……先程、羨ましいと仰って頂けたので……』
いつの間に手を取られていたんだろう。真っ直ぐな背を屈めたバアルさんが、俺の指先へと柔らかな笑みを寄せていた。
海の中でなければ、わざとらしいリップ音でも聞こえてきそう。ウィンクをするように片目だけを閉じた彼が上目遣いで見つめてくる。その口端は、悪戯を成功させたかのように楽しげに持ち上がっていた。
どうやら、気づかれていた上で泳がされていたらしい。隙を見て、驚かせようとしていたんだろう。
ホント、バアルさんにはときめかされっぱなしだな。
『おや、何を仰いますやら……私めの方が、貴方様の愛らしい言葉や仕草に心揺さぶられるばかり……年甲斐もなく夢中になってしまうばかりでございますのに……』
ここが海中でなければ、今頃俺は膝から崩れ落ちていることだろう。とうてい喜んでいるとは思えない、腑抜けた声を上げてしまっていることだろう。
そんな幸いを噛み締める間もなく、彼はここぞとばかりに畳み掛けてくる。
『先程の少し拗ねた貴方様も、誠に愛らしかったですよ……羨ましがって頂けたのですから、当然お返しをして頂けますよね?』
透き通った青の中で、神秘的な白を宿したたおやかな手。そのしなやかな指先が、俺の口元へと差し出された。
バアルさんのことだ。俺が返すまで、ずっと健気に待ってくれるんだろう。それはもう楽しそうに、上機嫌に。もう、覚悟を決めなければ。
柔らかな笑みを浮かべる彼の指先へと口を寄せる。俺は祈ることしか出来なかった。せめて、変な顔になっていませんようにと。
25
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる