間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】一日目:どうやら、気づかれていた上で泳がされていたらしい

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 あれは……ウミガメ? イルカまで?

 網目模様のような輝きを甲羅に、滑らかな背に浴びながら興味津々で近づいてくる。黒く煌めくビーズのような、つぶらな瞳が愛らしい。少し手を伸ばせば、簡単に触れ合うことが出来てしまうだろう。

 人懐っこいって……よく聞くイルカなら、まだ分かるけれども。ウミガメって、見れたらラッキーっていうか……臆病な生き物だったんじゃ?

 そんな素振りなど全く見せない茶色っぽい彼は、俺達が放っている光で日光浴でもしているかのよう。繋いで伸ばした手の先で、踊るようにくるくる泳いでいる。

 イルカはイルカで、俺達と遊んでいるつもりなんだろうか。愛嬌のある口から作り出した、輪っかの形をした泡を俺達に向かって飛ばしてくる。

 その仕草だけでも十分に可愛い。が、失敗作なのか、丸い輪が歪んでハートのような形になったものも時々混ざっているもんだから、ますます口元がだらしくなく緩んでしまう。

 また一つ、透き通った輪っかが飛んできた。

 徐々に大きさを増しながら、近づいてくる泡の輪に乱入者が。光に吸い寄せられていた魚達が、次々とくぐっていく。サーカスの曲芸みたいだ。火の輪ではなく泡の輪だけれども。

『よっぽど、貴方様の魔力が魅力的なのやもしれません。消費したとはいえ御身には、いまだに生命力が残っていらっしゃるのですから』

 そういうもの、なのだろうか。

 そういうもんか。バアルさんほどの術士が、そう言ってくれているんだからな。

 俺達の光をミラーボール代わりにでもしているかのよう。赤やピンクのサンゴ礁、弾むように揺れている緑や黄色の海藻が彩るステージで、全力で歓迎してくれているような。思い思いに遊んでいるような。彼らの自然な姿に見惚れていると、指先に柔らかい感触が触れた。

 てっきり、魚がつついてきたのかと思ったが、違った。

『失礼致しました……先程、羨ましいと仰って頂けたので……』

 いつの間に手を取られていたんだろう。真っ直ぐな背を屈めたバアルさんが、俺の指先へと柔らかな笑みを寄せていた。

 海の中でなければ、わざとらしいリップ音でも聞こえてきそう。ウィンクをするように片目だけを閉じた彼が上目遣いで見つめてくる。その口端は、悪戯を成功させたかのように楽しげに持ち上がっていた。

 どうやら、気づかれていた上で泳がされていたらしい。隙を見て、驚かせようとしていたんだろう。

 ホント、バアルさんにはときめかされっぱなしだな。

『おや、何を仰いますやら……私めの方が、貴方様の愛らしい言葉や仕草に心揺さぶられるばかり……年甲斐もなく夢中になってしまうばかりでございますのに……』

 ここが海中でなければ、今頃俺は膝から崩れ落ちていることだろう。とうてい喜んでいるとは思えない、腑抜けた声を上げてしまっていることだろう。

 そんな幸いを噛み締める間もなく、彼はここぞとばかりに畳み掛けてくる。

『先程の少し拗ねた貴方様も、誠に愛らしかったですよ……羨ましがって頂けたのですから、当然お返しをして頂けますよね?』

 透き通った青の中で、神秘的な白を宿したたおやかな手。そのしなやかな指先が、俺の口元へと差し出された。

 バアルさんのことだ。俺が返すまで、ずっと健気に待ってくれるんだろう。それはもう楽しそうに、上機嫌に。もう、覚悟を決めなければ。

 柔らかな笑みを浮かべる彼の指先へと口を寄せる。俺は祈ることしか出来なかった。せめて、変な顔になっていませんようにと。
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