間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】一日目:何が、大丈夫だって言うんだ

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「アオイ? いかがなさいましたか?」

 ご自分にも、早着替えの術をかけていたんだろう。サイズ違いの水着をバアルさんも穿いていた。

 太陽の下に惜しげもなくさらされている肉体美。流れるような体のラインが美しい。首も、腰も、きゅっとくびれていて、思わず抱きつきたくなってしまう。

 けれども盛り上がるところは、ちゃんと盛り上がっている。その証拠に、透き通るような白い肌には濃い陰影が、彼のたゆまぬ努力の証である筋肉のラインが浮き出ているのだ。長い腕にも、頼もしい胸板にも。

 いい加減見慣れてもいいだろうに……水着姿のバアルさんなんて、お風呂で何度も見させてもらっているだろう?

 頭の隅っこに残っていた冷静な俺が尋ねてくるが、知ったこっちゃない。だって、今回は砂浜っていう初めてのロケーションだし。それにほら、自然の光と人工的な灯りって違うじゃん? だから、いつにも増して輝いて見えているんだよ。そうに違いない。

 柔らかい手のひらが俺の頬に触れる。彼の体温が少し冷たく感じて。だから気づいてはいたのに、言葉でも分からされるなんて。

「こんなにも、お顔を真っ赤にして……お可愛らしいですね……また、この老骨めに見惚れて頂けたのでしょうか?」

「ひゃ、ひゃい……」

 懸命な言い訳も、彼の前では儚いもので。あっさりと俺は首を縦に振っていた。うっとりとした囁やきに、ますます喜びが滲んでいく。

「左様でございましたか……大丈夫ですよ、照れる必要はございません。私も、貴方様の可愛らしさに目を奪われております……衝動のあまり、この腕で華奢な御身を抱き潰してしまわないかと、案じてしまうほどに……」

 何が、大丈夫だって言うんだ。ますます照れるようなことをサラリと言っておいて。

 衝動のあまりって、まだまだ全然余裕じゃないか。支えてくれるように、背中に腕を回してくれただけじゃないか。息が出来なくなるくらいに、抱き締めてくれたって構いやしないのに。

 胸の内でのひそかなボヤきですら、俺の旦那様はお見通しらしい。

「愛しい愛しい私の妻、今はどうかこれで……堪え性のない私めをお許し下さい……」

 緩やかな笑みを形作った唇が、額に触れる。続けて目尻に、頬に。焦らすように上から順々に触れてくれてから、ようやくもらえた。

 けれども、一回だけ。甘く食んでくれることもなく。重ねてもらえただけで、すぐに離れていってしまう。

「大丈夫ですよ……今宵も、貴方様がご満足頂けるまで愛でて差し上げます……沢山抱き締めて差し上げますからね……」

 だから……何が、大丈夫だって言うんだ。

「……キスも、いっぱいして下さいね」

「……ええ、貴方様のお望みのままに」

 うっかり本音を口にしちゃうほど、すでにこっちは舞い上がってしまっているってのにさ。
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