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【新婚旅行編】とある王様は、秘書に催促をする
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「す、すみません……変なお願いをしてるってのは分かって」
「っ……是非、誘ってくれ! ほんの一、二杯でも構わん!」
「僕もっ、ご一緒したいです!」
「俺も是非」
「是非とも参加させて頂きます」
言葉も行動も前のめりになってしまっていたのは、私だけでは。ほんの二、三歩を、駆け寄るように詰めていた私達に、丸い瞳が更に丸くなる。曇らせてしまっていた表情が、みるみるうちに明るくなっていく。
「……アオイ殿が帰って来たいと思ったのならば、何時でも帰って来てくるとよい。ああ、勿論、そちらに出向いてもよいと言うのであれば、遠慮なくお邪魔させてもらうがな」
「ありがとうございます……っ」
可憐な花が咲いたようだった。瞳がゆるりと細められ、小さな口がふにゃりと綻んでいくさまは。
「ご自身が、堂々と宣言なさっていたではございませんか。遠慮なくお邪魔させてもらうと」
軽く首を傾げたレタリーの表情は、疑問半分、呆れ半分といったところだろうか。いやはや、宣言するに決まっているであろう。
「……この城を我が家だと、私達のことを家族のように思ってくれていると言ってくれたのであるぞ? その気持ちに応えたいと思うのが、普通であろう?」
私は差し出がましくも、アオイ殿のことは前から友であり、家族のように思っていた。まさか、アオイ殿も思ってくれていたとは。大好きだと、大切だと伝えてもらったことはあれど。
うっかり天へと昇ってしまいそうであった喜びの余韻は、いまだに冷めない。思い出しただけで、また目の奥が熱を持ってしまう。寂しさが増しているのも、それが原因だろう。
「でしたら」
「だからこそ、我慢してみせる……」
せめて、アオイ殿から連絡があるまでは。
来ないなら来ないで、バアルとの旅行を存分に楽しめているのであろうから、何よりではあるのだけれど。寂しいけれども。
「そうですか……では、此方でもご覧になりますか? 多少は、お寂しさも癒えるかと」
柔らかく微笑むレタリーが差し出してきたのは手にしている結晶、投影石だ。また、可愛らしい動物の画像か動画でも、見せてくれるつもりなのだろうか。
「……貴殿の気持ちは有り難いが、今の私は愛らしいモフモフくらいでは」
「ホテルに着いたバアル様とアオイ様からの、新着お写真でございます」
「は?」
とんでもないことを、天気の話をするかのごとくなんの気なしに告げてきたレタリー。こっちは立ち上がりざまに椅子を倒し、書類の山も崩してしまったというのにへっちゃらな様子。
タレ目の瞳をゆるゆる細めながら、尾羽根を揺らしながら、細い指先で投影石をつついている。
「先程から、ちょこちょこ送られてきておりまして」
連絡しようとしていたのではなかったのか! 送られてきていた写真を見ていたのか!? またしても、抜け駆けをしよって!!
石から淡い光が放たれる。私の眼前へと伸びた光の中に浮かぶメッセージ欄。そこには確かにバアルから、いくつかの画像が送られてきているようだった。
それら小さな写真達の一つを指差しながら、レタリーが目尻を下げる。
「此方のお部屋を探検なされているアオイ様も愛らしいことこの上なかったのですが、ウェルカムドリンクを楽しまれているお二人のご様子は大変仲睦まじく……」
「そういうことは早く申さぬか! ズルいぞ貴殿ばっかり! 私にも! 私にも早くっ!!」
「はいはい、只今」
クスクス笑う秘書殿によって拡大された写真。光の中に、宙に浮かんだ二人の笑顔は喜びに満ちあふれていて。次を見せてくれとレタリーに催促している内に、胸を占めていた寂しさなんぞ、すっかり忘れてしまっていた。
「っ……是非、誘ってくれ! ほんの一、二杯でも構わん!」
「僕もっ、ご一緒したいです!」
「俺も是非」
「是非とも参加させて頂きます」
言葉も行動も前のめりになってしまっていたのは、私だけでは。ほんの二、三歩を、駆け寄るように詰めていた私達に、丸い瞳が更に丸くなる。曇らせてしまっていた表情が、みるみるうちに明るくなっていく。
「……アオイ殿が帰って来たいと思ったのならば、何時でも帰って来てくるとよい。ああ、勿論、そちらに出向いてもよいと言うのであれば、遠慮なくお邪魔させてもらうがな」
「ありがとうございます……っ」
可憐な花が咲いたようだった。瞳がゆるりと細められ、小さな口がふにゃりと綻んでいくさまは。
「ご自身が、堂々と宣言なさっていたではございませんか。遠慮なくお邪魔させてもらうと」
軽く首を傾げたレタリーの表情は、疑問半分、呆れ半分といったところだろうか。いやはや、宣言するに決まっているであろう。
「……この城を我が家だと、私達のことを家族のように思ってくれていると言ってくれたのであるぞ? その気持ちに応えたいと思うのが、普通であろう?」
私は差し出がましくも、アオイ殿のことは前から友であり、家族のように思っていた。まさか、アオイ殿も思ってくれていたとは。大好きだと、大切だと伝えてもらったことはあれど。
うっかり天へと昇ってしまいそうであった喜びの余韻は、いまだに冷めない。思い出しただけで、また目の奥が熱を持ってしまう。寂しさが増しているのも、それが原因だろう。
「でしたら」
「だからこそ、我慢してみせる……」
せめて、アオイ殿から連絡があるまでは。
来ないなら来ないで、バアルとの旅行を存分に楽しめているのであろうから、何よりではあるのだけれど。寂しいけれども。
「そうですか……では、此方でもご覧になりますか? 多少は、お寂しさも癒えるかと」
柔らかく微笑むレタリーが差し出してきたのは手にしている結晶、投影石だ。また、可愛らしい動物の画像か動画でも、見せてくれるつもりなのだろうか。
「……貴殿の気持ちは有り難いが、今の私は愛らしいモフモフくらいでは」
「ホテルに着いたバアル様とアオイ様からの、新着お写真でございます」
「は?」
とんでもないことを、天気の話をするかのごとくなんの気なしに告げてきたレタリー。こっちは立ち上がりざまに椅子を倒し、書類の山も崩してしまったというのにへっちゃらな様子。
タレ目の瞳をゆるゆる細めながら、尾羽根を揺らしながら、細い指先で投影石をつついている。
「先程から、ちょこちょこ送られてきておりまして」
連絡しようとしていたのではなかったのか! 送られてきていた写真を見ていたのか!? またしても、抜け駆けをしよって!!
石から淡い光が放たれる。私の眼前へと伸びた光の中に浮かぶメッセージ欄。そこには確かにバアルから、いくつかの画像が送られてきているようだった。
それら小さな写真達の一つを指差しながら、レタリーが目尻を下げる。
「此方のお部屋を探検なされているアオイ様も愛らしいことこの上なかったのですが、ウェルカムドリンクを楽しまれているお二人のご様子は大変仲睦まじく……」
「そういうことは早く申さぬか! ズルいぞ貴殿ばっかり! 私にも! 私にも早くっ!!」
「はいはい、只今」
クスクス笑う秘書殿によって拡大された写真。光の中に、宙に浮かんだ二人の笑顔は喜びに満ちあふれていて。次を見せてくれとレタリーに催促している内に、胸を占めていた寂しさなんぞ、すっかり忘れてしまっていた。
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