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【新婚旅行編】とある兵団長と彼の部下達は白い大樹の御許へと

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「隊長っ、あそこに湧き水が」

「その内、湖になりそうですね!」

 望遠の術を使い、元裁きの大地の北側を見渡していたソルダが声を上げた。南側を見渡していたストラが続くように振り返り、はつらつとした声に喜びを滲ませた。

 盛り上がっている二人に釣られたのだろう。東を見ていたティオも、遥か先で煌めく水面も見つめながら感嘆の息を漏らした。

「色々と整えりゃあ、マジで住めそうだな……」

 自分が立っている大地を改めて確認するように、ティオが大きな身体を丸めてしゃがみこむ。彼が身につけている鈍色の防具が、金属が擦れるような音を鳴らした。鋭い爪の生えた手で握っていた三叉槍を静かに置き、指先でそろそろと地面を撫でている。

 かつて、幾度となく彼を守ってきた鎧。運悪く扱いきれぬ魔力を手にしてしまったが故に炎から逃れ、暴れる魂達を鎮圧してきた武器。以前は、必要だったそれらが浮いて見えてしまう。柔らかな風が頬を撫でていくこの地では。

「元が元なだけに、人気は出なさそうだが……そもそも国内が一番だしな」

 砂粒を摘んでみたり、懸命に葉を伸ばしている草を愛でてみたり。ひとしきり触れてから身を起こそうとしていたティオの背に、西を担当していたウールが羽をはためかせながら抱きついた。

「でも、いい観光名所にはなるんじゃないっすか? 神様の大樹も見れますし!」

「まあ、そうだな……」

 はしゃいだ様子のウールを一瞥したものの、ティオはさして気にする様子はない。そのまま立ち上がり、背負う形になってしまっても平然としている。

 彼の太い首に掴まりながら、わーだの、きゃーだの騒ぐウール。何やってんだよ、と笑うソルダとストラ。皆、遠征中だということを忘れているようだ。

 それも仕方がないだろう。皆をまとめるべきである私ですら、何とも言えない心地でいるのだから。

 まさか、このように穏やかな気持ちでこの地を訪れる日が来るとは……今頃、アオイ様はバアル様と南エリアで仲睦まじく過ごされているだろうか。

 私達の人間に対する認識を一変させたどころか、世界すら大きく変えてしまわれた彼。落ちてくる魂達と同じ人間なのに、儚い存在であるのに強い御方。

「お前達、じゃれ合うのは構わないが、ちゃんと体力は残しておけよ? 大樹様に魔力を捧げなければならないのだからな」

 少しでも、お三方が変えてくれた世界を守る為に私達が出来ることを。我らが神が残してくれた大樹を支えなければ。

 私の呼びかけに、皆の表情が引き締まる。息の合った力強い声で応えてくれた彼らを連れて、白い大樹の御許へと足を進めた。
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