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【新婚旅行編】旅行前日:すぐに後悔することになろうとは
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いくら俺がバアルさんに溺れているからといって、時間さえ経てばそれなりの免疫はつく。浴衣バージョンの彼と見つめ合っても、頬が熱くなる程度で済むくらいには。
そこまで慣れたところで、何とか皆さんに胸を張ってお披露目出来るお写真を。バアルさんと手を繋ぎ、笑顔で撮れたベストショットを無事送ることが出来たんだが。
「お疲れのところ申し訳ございません……引き続きご試着願えませんか? ヨミ様から賜りましたアオイのリゾートコーデを……」
そういや、まだ俺の分が残ってたんだっけ。夏を感じさせるバアルさんの装いに夢中になり過ぎて、うっかり抜け落ちてしまっていたけれど。
「大丈夫ですよ、疲れてないんで。よろしくお願いします」
「左様でございますか……」
俯きかけていた触覚がぴょこんと元気になり、眉間に寄っていたシワがふっと緩んでいく。穏やかな笑みが戻ったバアルさんに釣られて俺の口角も緩んでいく。
後は、今までと同様に。バアルさんが術で着替えさせてくれるのを待つのみ、なんだけど。
伸びてきた彼の手のひらが、今まさに俺の頬を触れようとした時だ。戸惑うようにその動きを止めたのは。透明感のある頬を桜色に染め、再び眉間にシワを寄せたのは。何か問題でもあるんだろうか?
「……バアル? どうかしたの?」
「い、いえ……では、失礼致しますね」
「……うん」
少し震える指先に頬を撫でてもらえれば、瞬く間に俺の全身を彩っていたオレンジが変わっていく。上は白、下はネイビーへと。バアルさんのリゾートコーデとお揃いの配色だ。
ただ俺の場合、上の服はところどころにリボンが結ばれたパーカー。下は少しサイズ大きめな膝上丈のズボンだったんだけれども。
「わぁ……スゴく良いですね、これ。着心地も抜群ですし、動きやすいですし」
「……それは何よりです。ヨミ様も喜んで頂けるでしょう」
浴衣の生地もサラリとしていて軽かった。が、こちらも負けず劣らずな良い生地だ。触り心地がいいもんだから、ついつい指で摘んで撫でてしまう。肌が敏感な方でも大丈夫そうだ。
改めてヨミ様にはお礼を言わないとな。それにしても、何でバアルさんはちょっぴり躊躇していたんだろう。
てっきり、雪合戦のウサギさんパーカーの再来かと。でも、唯一の可愛い要素であるリボンは紐が白くて細めだから目立たないし、普通に良い服だと思うんだけど。
俺の疑問は、すぐさま解けることになる。おずおずと切り出してきた、バアルさんの一言を切っ掛けに。
「実は……上のパーカーには、いくつか色違いがございまして……そちらも、ご試着なさいますか?」
「はい、勿論! せっかくヨミ様がご用意していただけたんですから」
「畏まりました……因みにお写真の方は」
「よろしくお願いします。ヨミ様、楽しみにしてくれていただろうし」
「左様でございますね……」
着てもらってこそだろう。もし俺が同じ立場だったら、似合っているのかどうか気になっちゃうし。だから、多分ヨミ様も。
張り切って言い放った言葉を、すぐに後悔することになろうとは。この時の俺は微塵も思っていなかった。
そこまで慣れたところで、何とか皆さんに胸を張ってお披露目出来るお写真を。バアルさんと手を繋ぎ、笑顔で撮れたベストショットを無事送ることが出来たんだが。
「お疲れのところ申し訳ございません……引き続きご試着願えませんか? ヨミ様から賜りましたアオイのリゾートコーデを……」
そういや、まだ俺の分が残ってたんだっけ。夏を感じさせるバアルさんの装いに夢中になり過ぎて、うっかり抜け落ちてしまっていたけれど。
「大丈夫ですよ、疲れてないんで。よろしくお願いします」
「左様でございますか……」
俯きかけていた触覚がぴょこんと元気になり、眉間に寄っていたシワがふっと緩んでいく。穏やかな笑みが戻ったバアルさんに釣られて俺の口角も緩んでいく。
後は、今までと同様に。バアルさんが術で着替えさせてくれるのを待つのみ、なんだけど。
伸びてきた彼の手のひらが、今まさに俺の頬を触れようとした時だ。戸惑うようにその動きを止めたのは。透明感のある頬を桜色に染め、再び眉間にシワを寄せたのは。何か問題でもあるんだろうか?
「……バアル? どうかしたの?」
「い、いえ……では、失礼致しますね」
「……うん」
少し震える指先に頬を撫でてもらえれば、瞬く間に俺の全身を彩っていたオレンジが変わっていく。上は白、下はネイビーへと。バアルさんのリゾートコーデとお揃いの配色だ。
ただ俺の場合、上の服はところどころにリボンが結ばれたパーカー。下は少しサイズ大きめな膝上丈のズボンだったんだけれども。
「わぁ……スゴく良いですね、これ。着心地も抜群ですし、動きやすいですし」
「……それは何よりです。ヨミ様も喜んで頂けるでしょう」
浴衣の生地もサラリとしていて軽かった。が、こちらも負けず劣らずな良い生地だ。触り心地がいいもんだから、ついつい指で摘んで撫でてしまう。肌が敏感な方でも大丈夫そうだ。
改めてヨミ様にはお礼を言わないとな。それにしても、何でバアルさんはちょっぴり躊躇していたんだろう。
てっきり、雪合戦のウサギさんパーカーの再来かと。でも、唯一の可愛い要素であるリボンは紐が白くて細めだから目立たないし、普通に良い服だと思うんだけど。
俺の疑問は、すぐさま解けることになる。おずおずと切り出してきた、バアルさんの一言を切っ掛けに。
「実は……上のパーカーには、いくつか色違いがございまして……そちらも、ご試着なさいますか?」
「はい、勿論! せっかくヨミ様がご用意していただけたんですから」
「畏まりました……因みにお写真の方は」
「よろしくお願いします。ヨミ様、楽しみにしてくれていただろうし」
「左様でございますね……」
着てもらってこそだろう。もし俺が同じ立場だったら、似合っているのかどうか気になっちゃうし。だから、多分ヨミ様も。
張り切って言い放った言葉を、すぐに後悔することになろうとは。この時の俺は微塵も思っていなかった。
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